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軍服を脱いだら、お見合い相手が上官でした――冷徹な大将閣下は男装少尉を逃がさない(※溺愛されています)――  作者: 玖条 レイナ


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第四十話 約束の簪

 夜会でのドレスも決まり、その後は髪型や装飾品の相談などで再び着せ替え人形となった蘭。


 全てが決まる頃には、すっかり日が暮れていた。


「時間はかかったけど、とてもいいお買い物ができたわね」


「ええ、お母様!

 自分の買い物よりワクワクしたよ」 


 瑠璃と琥珀が楽しそうに笑い合う。


「番頭さんたち。蘭さんが試着したドレス、装飾品、全部くださいな 」


「はぁ!? 全部ですか!?」


 瑠璃に恭しく頭を下げる番頭たちとは正反対に、蘭から抗議の声が上がる。


「ええ、だって全て似合っていたんですもの――」


 瑠璃の言葉に琥珀が大きく頷く。


「でも――!」


「蘭さんはなにも心配なさらないで。

 今回は白銀本家(うち)で購入させていただくわ。龍也もそれでいいわよね?」


「…………俺の私財から出してもいいが――」


「ダメよ! 白銀本家主催の夜会よ!

 うちで出させてちょうだい」


「……ボクの私財からも出したいところだけど、今回はお母様に譲るよ」


「…………姉上にそう言われると――。

 分かった。今回は本家に頼む」


「おい! 白銀……!」


「蘭ちゃんは”こんなにドレスいらない“って思ってるんだよね?」


 龍生の言葉に蘭は全力で頷いた。


「さすが龍生副官――! 副官からも言ってくださいよ」


「……………………」


 龍生の全てを諦めたような笑顔。


「ごめんね、蘭ちゃん――。

 こうなった白銀家はテコでも動かないよ」


「そ、そんなぁぁぁぁぁ!」


(このドレス一着だけでも相当するだろうに……!)


(全部で総額いくらなんだ!?)


(うぅ……、だんだん胃が痛くなってきた……)         

 

「………………オレはもう数年は買い物しなくていいな――」


 蘭は遠い目をしていた。



✕✕✕



 こうして、夜会でのドレス選びは幕を閉じた。


 しかし、蘭の本当の試練はここからだった。


 夜会用のドレスを選んだ後は、いよいよ白銀本邸へのお泊まり。

 龍生は折を見て帰宅すると告げ、蘭から縋るような目を向けられながら白銀家を脱出した。


 所用で出かけていた龍之介も合流して、夜は白銀侯爵家自慢の豪華なフルコース。


 蘭は空腹と緊張がせめぎ合う中、なんとかフルコースを食べ切る。


 すると、瑠璃と琥珀がとんでもないことを言い出した。


「蘭、キミの食事マナーは完璧だ。

 でも、キミは社交界にまだ出席したことがないね?」


「はい。わ(・)た(・)し(・)は男装して軍にいるので、社交界に出席する機会はありませんでした」


(さすがにお義父様の前でオ(・)レ(・)って言えないよな――!)


(気を引き締めないと……!)


「だったらワルツは踊れるかい?」


「…………わるつ…………?」


「社交界で男女ペアになって踊るダンスのことよ」


「……ダンス?

 社交界って、ダンスするんですか?」


「もしかして蘭さん、社交界についてあまりお詳しくはないのかしら?」


「す、すみません……」


「母上、蘭はまだ十六だ。

 それに軍属しているのだから、社交界について疎くて当然だろう」


「それもそうね、蘭さんごめんなさいね。

 考えなしの発言だったわ」


「いえ! そんなことないです!

 わたしが勉強不足なだけなので……、お義母様が謝られるような事はなにもありません!」


「蘭さん……。なんて優しいのかしら――」      


「龍也。こんなに気遣いができるご令嬢はなかなかいないぞ。

 ……蘭さんを大事にするんだぞ――」


「父上。言われるまでもない――。

 蘭は俺の“誇り”だ」


 白銀はさも当然のように言い切り、食後の珈琲を口に運んだ。


(龍也ぁぁぁ!! 何ワケが分からんことを言ってんだよぉぉぉぉぉ!!)


 徐々に顔が赤くなっていく蘭を見て、瑠璃と琥珀が目を細める。


 そして――


「……ボク、いいことを思いついてしまったよ!」


「…………?」


「明日から毎日、蘭に社交界についての知識を教えてあげる!」


「…………はい?」


「蘭は軍にいなければ、今頃は華の女学生だったんだろ?

 だったら、社交界の知識だけじゃない! 女学校に行けない分の知識を全てこ(・)の(・)ボ(・)ク(・)が叩き込んであげるよ!」

     

「……え? えぇぇぇぇぇ!!」


 蘭は勢いよく椅子から立ち上がる。


「大丈夫だよ、蘭。

 ボクはこう見えて、女学校を首席で卒業してる。

 ダンスだって誰にも負けないよ!」


「や、その、お、お義姉様は海軍大将・清野閣下の奥様なので毎日お忙しくされていらっしゃるでしょうから、わ、わたしにそんな貴重な時間を割いていただくのは忍びないって言うか――」


「そこは心配いらない!

 優秀な我が夫龍司がなんとかしてくれる!!」


(めちゃくちゃ他力本願なんですけどぉぉぉぉぉ!!)


「確かに、琥珀なら蘭さんの先生にピッタリかもしれないな」


「お、お義父様!?」


「琥珀は素行と性格に難はあるけど、教えるのは上手よね?」


「お、お義母様まで!?」


「じゃあ、そう言うことで――」


「ならん」


 琥珀の提案を、白銀が否定する。


「蘭に勉学やダンスを教えるのも、全て俺がやる。

 姉上の手を煩わせるつもりはない――」


「龍也……! 陸軍大将のキミにはそんな暇ないだろ!?」


「時間は無理にでも作る……!

 なにか支障が出れば稜がうまくやるはずだ……!」


(龍也もめちゃくちゃ他力本願なんですけどぉぉぉぉぉ!!!)


「それに、毎日というのが気に食わん。

 毎日、ここまで通わねばならんのか? それとも清野邸でやるのか?

 軍の仕事はどうなる? 蘭は日頃の激務で疲れているんだ。激務の上、毎日、姉上の玩具にされたら蘭は夜会までに痩せ細ってしまうぞ!」


「じゃあ陸軍大将の権限で蘭に休みを与えればいいだろ? 大将ならそれくらいすべきなんじゃないかい?」


「姉上は蘭の生きがいを奪うのか!?

 蘭は俺の元でやりがいある職務に全うする事に生きがいを感じているんだぞ!

 そうでなければ今すぐにでも軍を辞めさせて俺の妻にしている!!」


「あわわわわわ――!」


 琥珀と白銀の言い合いに耐えきれなくなった蘭が真っ赤な顔で、口を挟む。


「りゅ、龍也様も琥珀お義姉様ももう大丈夫です!

 オ――わ、わたしに夜会について教えてくださるんですよね!?」


 白銀と琥珀は互いに顔を見合う。


「だったら! お二人で教えてください!!

 例えばマナーについてはお義姉様で、ダンスは龍也様が教えてくださるとか――!!」


「場所は毎回変えますか!?

 龍也様のお屋敷と白銀本邸とか……!

 さすがに清野様のお屋敷はまだ気が引けます――!」


「それと! 毎回というのはさすがにお二人にご迷惑をおかけしますので一日おきとか二日に一回にしていただけると……!!」


 蘭はハッと我に返る。


「…………あ、すみません…………。

 でしゃばりすぎました…………………………」


 俯きながら椅子にストンと座り直した。


「…………確かに、蘭の言う通りだ」


「そうだね、ボクたちも少し熱くなりすぎたね……」


 白銀と琥珀はお互いに反省したようだった。


「…………琥珀と龍也の喧嘩をいさめるなんて……!」


「蘭さん……! わたくしたちでも出来ないことをやってのけるなんて――!!

 やっぱり、ただの可愛いお嬢さんじゃないわね!」


 龍之介と瑠璃も興奮気味に蘭に熱い視線を送っていた。


(うぅぅ……やってしまった――)


(全然お淑やかに振る舞えなかった――!!)


(ヤバイ! ヤバイ!! ヤバイ!!)


(これは……! 婚約破棄案件ではぁぁぁぁぁ!!)


 白銀夫婦からの熱い視線を勘違いし、一人汗が止まらない蘭であった。



✕✕✕

 


 結局、マナーは琥珀が、ダンスは龍也が教えることとなった。

 場所については瑠璃の強い希望により、白銀本邸となり、蘭の退勤時間に合わせて毎回白銀が車で送ることになった。


「今度の白銀家主催の夜会で、龍也の婚約者をお披露目する噂を流します。

 だから蘭さん――亜嵐くんはその手伝いの為、白銀侯爵家に通い詰めているという設定にしましょう!」


「なっ!?」


「なるほど、それなら俺の書生である亜嵐が白銀家に入り浸ってもおかしくないな。

 早速稜に噂を流してもらおう――」 


(そんな噂流さないでぇぇぇぇ!!)


(いや、事実だけどさ!!) 

 

(……でも、ここでも龍生副官が使われてる――!)


(頑張れ龍生副官! 負けるな龍生副官!!

 どうか変な噂にされませんように――!!)


 龍生を密かに応援する蘭であった。



✕✕✕



「蘭、社交界で一番大事なのは笑顔だよ」


「笑顔……」


「笑顔が素敵だったら、多少ミスをしても笑ってごまかせる!!」


(いや、そう言うことじゃねぇだろぉぉぉぉぉ!!)




「蘭、社交界のダンスと言ったら“ワルツ”が定番だな――。

 俺がリードするから、お前は俺に身を任せろ――」


「えっ。それじゃあ訓練の意味ないじゃないか……」


「ふふ。一度やってみるぞ――」


「おお!」




「ごめん龍也ぁぁぁ! また足踏んじゃったぁぁぁ!」


「大丈夫だ、蘭。

 遠慮なく踏め――」


「うわっ! また!」


「……っ! 問題ない――」 

 

「ご、ごめんなさぁぁぁぁぁい!!」           

      



 そんな様子で、マナー講座とダンスの訓練は続いた。


 そして――


 二週間後。


 いよいよ社交界前日を迎えた。

 


「……蘭、ここまでよく頑張ったな」


 もはや日課になりつつあり、白銀本邸でのダンス訓練。


 二人はサロンで手を取り合い、ワルツのステップを踏んでいた。


 白銀の手が蘭の腰に添えられ、蘭を優しくエスコートしていく。

 

「……これも龍也が根気強く付き合ってくれたおかげです……」


「そうだな。俺もこんなに足を踏まれたのは初めてだった――」


「うぅ……。すまん……」


 謝る度に小さくなる蘭に、白銀の瞳が細められる。


「今日はもういいだろう。姉上とのマナー講座はどうだ?」


 そう言うと、白銀はダンスのステップを止めて蘭と向き合う。

 

「…………うぅ……。そっちもぼちぼちです……」


 蘭は菫色の瞳を白銀から外した。


「そうか――」


 白銀の手が、蘭の手と腰から離される。


 そして――


「……蘭、これをやる」


 白銀は、軍服の内ポケットから銀色の簪(かんざし)を取り出した。


「………………それは?」


「前に、見繕ってやると約束しただろ――?」


「ん? あー、そんな事も言ってたな!

 よく覚えてたな! さすが龍也だ!」


「……当然だ。

 俺は、蘭との約束は絶対に守ると決めている」


「あはは、なんか大袈裟だなぁ」


 蘭が菫色の瞳を伏せる。


「……蘭」


 白銀は蘭の手を取り、手のひらにそっと銀色の簪を乗せる。

 洋装にも和装にも合うように細工された銀の簪には、角度によって瑠璃色にも紫色にも見える小さな水晶と、蘭と蝶の透かし彫りが入っていた。


「………………これ、あのドレスに合いそう……」


 蘭はポツリと呟く。


「……これ、もらっていいのか?」

   

「もちろん。

 お前の為に選んだ――」


「…………そっか、ありがと龍也――」


 蘭は簪をそっと手で包むのであった。 




ご覧いただきありがとうございます!


白銀本邸でのお泊まり初日!


豪華なフルコースの裏で繰り広げられた、白銀大将と琥珀お義姉様による「社交界スパルタ指導権」を巡る白熱の家族喧嘩(!)と、二人を綺麗におさめる蘭ちゃんの肝の据わりっぷり!


そして白銀大将の手引きで始まった特訓の日々……


何度も足を踏まれながらも根気強くエスコートする大将と、夜会前夜にそっと手渡された「瑠璃色と紫に輝く約束の簪(かんざし)」の胸キュン展開、楽しんでいただけたら嬉しいです!


【★次回予告★】


第41話『瑠璃と紫の夜』!


ついに迎えた、白銀本邸での大夜会当日!


「亜嵐少尉」として庭園の警備にあたっていた蘭だったが、呼び出された先で瑠璃お義母様&琥珀お義姉様、そして針子さんたちによる本気の身支度がスタート!


仕上がった己の姿に「これがオレ……!?」と絶句する蘭。

そこへ現れたのは、白い夜会用軍服を身に纏った白銀大将で――!?


「このまま俺だけのモノにしたい」と独占欲を全開にする大将の手を取り、ついに二人は華やかなホールへと足を踏み入れる!


しかし、ファーストダンスを終えて胸を撫で下ろす蘭の前に、群青色の髪を持つ幼馴染・皇(スメラギ)公爵が現れて……!?


圧倒的な美しさで魅了するお披露目夜会と、新たな波乱の幕開けをお楽しみに!


「約束の簪を覚えてた大将がカッコよすぎる!」「いよいよ夜会本番でドキドキする!」と思ってくださったら、下にある【ブックマーク】や【星の評価(☆☆☆☆☆)】で応援していただけると、執筆の物凄い励みになります!

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