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軍服を脱いだら、お見合い相手が上官でした――冷徹な大将閣下は男装少尉を逃がさない(※溺愛されています)――  作者: 玖条 レイナ


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第三十八話 若奥様のお見立て

 ノワールでの昼食を終えた三人は、ついに白銀本邸へと到着した。


「“まかろにぐらたん”はトロトロで美味かったし、“かるぴす”は甘くて少し酸っぱくて美味かった!」


「蘭ちゃんって、食べ物の話になるとイキイキするよね」


 龍生がからかう。


「そ、そんなことないぞ! オレは、美味しいものを美味しいと言ってるだけだ!」


 なぜかドヤ顔で言い放つ亜嵐。

 その表情がおかしくて、それでいて可愛くて――。


「…………そっかぁ」


 龍生は栗色の瞳を細めた。


「――でも、いいのか? 白銀?」


「何がだ」


「だってオレ、亜嵐のまま白銀本邸(ここ)まで来ちゃったけど……」


「…………かまわない」


(やっぱり……。龍也は“そのまま”でいいって言うんだ)


「それに、亜(・)嵐(・)でいる方がお前も都合がいいだろ?」


「……え?」


「なるほどね! 亜嵐少尉のままの方が、いつも通りの蘭ちゃんでいられるってことか!

 龍也、あったまいいね!」


「し、白銀ぇぇぇぇ……。

 お前、本当にいいやつだな!!」


 亜嵐は感動のあまり、白銀に尊敬の眼差しを向けていた。


「……………………」


(思いつきで言ってみたが、悪くないな……)


 白銀は静かに微笑んだ。




 白銀は、白銀本邸の正面玄関扉の横に設置してある真鍮製の鎖に手をかける。


「なあ、白銀……」


「……どうした? 蘭」


「あのさ、そのぉ〜……『チリーン、チリーン』。

 オレやってもいいかな?」


 もじもじする亜嵐に白銀は瑠璃色の瞳を丸くする。


「…………やってみたいのか?」


 白銀の言葉に菫色の瞳をキラキラさせて頷く亜嵐。

 白銀は口角が上がりそうになるのを堪え、場所を譲った。


(…………蘭。お前はどれだけ俺を試せば気が済むのか……!!)



 蘭が真鍮製の鎖を引くと「チリーン、チリーン」のベルの音が聞こえる。


 ベルの音と同時に開かれる玄関。


 そこには――


「いらっしゃい! この日をずっと待ってたわ!」 

「蘭! キミが来るのを首を長ぁ〜くして待っていたよ!」


 満面の笑みで亜嵐を迎える瑠璃と琥珀がいた。


「あっ、お世話になります!」


 亜嵐は軍人らしく敬礼をする。


「まぁ!! これが噂の亜(・)嵐(・)少(・)尉(・)ね!!

 なんて凛々しくて可愛らしいのかしら……!!」


「亜(・)嵐(・)はボクも初めて見る!!

 こんな隠し球で来るとは……! 蘭、分かってるね!」


「え……? えっ? え?」


 まさかの歓迎っぷりに戸惑う亜嵐。


 白銀と瑠璃、琥珀を交互に見る。


「さぁ! そんな所に突っ立ってないで早く中にお入り!」


 琥珀は亜嵐の腕をグイっと掴み、屋敷の中に入れる。


「えっ、琥珀お義姉様……!」


 亜嵐は無意識に白銀に手を伸ばすが、その手は無情にも瑠璃によって絡め取られる。


「お義母様……!!」


「蘭さん。大丈夫よ。

 とびきり美しくしてさしあげますわ」


 瑠璃が白銀と龍生に振り返る。


「龍也と稜は蘭さんの荷物を運んでおいてちょうだい! それと、これから衣装問屋が来るから、その対応もお願いね!」


「え!? 瑠璃様!!

 ボク、帰ろうと思ってたんですけど……!!」


 ――ぽん。


 白銀は龍生の肩に手を置いた。


「……稜。しばし付き合え――」


「えええええーーー!!!」 



✕✕✕ 


 亜嵐は琥珀と瑠璃に手を引かれ、ある一室に連れてこられた。


「蘭さん。今日白銀本邸(うち)にお泊まりするでしょ?」


 瑠璃が嬉しそうに亜嵐の手を握る。


「は、はい……」


「このお部屋ね、蘭さんのお部屋にどうかしらと思って用意したの!」


「へ? オレの部屋……」 


 蘭は思わず口を押さえる。


(今……、“オレ”って言っちゃった……!!)


「あ、そのぉ……」


 蘭は菫色の瞳をキョロキョロさせて、言い訳を考える。


 瑠璃はそんな亜嵐の様子にお構いなく、パァッと顔を上げた。


「……まぁ! 亜嵐少尉(男装)に合わせて一人称も変えてるのね! 素敵!」


「………………えっ」


 亜嵐は絶句した。


(今、なんて言った……?)


「お母様、蘭はいつも“オレ”って言ってるよ」


「こ、琥珀お義姉様――!」 


「あら! そうなの?

 こんなに可愛らしい娘が“オレ”だなんて――!

 なんて“乙”なのかしら!」


 瑠璃は亜嵐の懸念を吹き飛ばすような笑顔で微笑みかける。


「……………………変じゃない、ですか?

 女なのに“オレ”だなんて――」


「全然そうは思わないわ!

 むしろ個性的で素晴らしいわよ」


 瑠璃はもじもじする亜嵐を抱きしめた。


「……っ!」


「よくよく考えたら、男装している時間の方が長いんでしょ? なら、男言葉の方が楽かしらね?

 わたくしは“ありのままの蘭さん”が好きよ?」


「……お、お義母様……」


「お母様ばかりズルい!

 ボクだって蘭を抱きしめたい!!」


 そう言うと、琥珀も蘭を抱きしめる。


「……お義姉様――!」


「ボクたちは家族になるんだ!

 だから、なにも遠慮する事はないよ?」


「……はい! ありがとう、ございます……!」


 蘭は少し涙ぐみながら、二人を抱きしめ返した。 



「でだ! 話は戻るんだけどね――」


 亜嵐から離れた二人はいそいそとクローゼットの中身を漁る。


「蘭さん! これを着て欲しいの――」


 瑠璃が取り出したのは薄桜色のワンピース。

 フリルやリボンがたくさんついている、それはそれは可愛らしいモノだった。


「……えっ、いや、これはっ、その――!

 す、少し……か、かわいすぎる……のでは……!?」


 亜嵐は一歩後ろに下がる。


「今日、お母様と一緒に、蘭は着物で来るかな? と予想しててね」


 琥珀がいつの間にか亜嵐の後ろにピタリと張り付いた。


「こ、琥珀お義姉様……!?」


「……お着物だと、ドレスの試着の時、脱ぐのに時間がかかるでしょ?」


 瑠璃がワンピースを揺らしながら亜嵐に近づく。

 

「……………………!」

 

「お着物の予想は外れてしまったけれど……、まさかの軍服……!! これは大歓迎の大誤算!」 


「……蘭。

 その軍服、自分で脱ぐかい?

 それとも――ボ(・)ク(・)が脱がせて上げようか?」


 耳元で琥珀に囁かれ、蘭の身体がブルっと震える。


 前からはワンピースを持った瑠璃が、後ろには琥珀がいる。


 絶体絶命の中、亜嵐は雄叫びを上げた。


「自分で!! 自分で脱ぎますぅぅぅぅぅ!!」


 瑠璃と琥珀はお互いに頷きあった。



✕✕✕



 白銀本邸のサロンには、続々と衣装問屋がやってきていた。


 白銀と龍生は、瑠璃に言われた通り白銀と蘭の荷物を屋敷に運び入れ、衣装問屋をサロンに案内する。


「…………龍也、こんな事は使用人(僕)に任せて蘭ちゃんのところに行けば?」 


「………………母上に衣装問屋の対応を依頼された。

 白銀家当主の俺が、その責務を放棄するわけにはいかない――」


「……真面目すぎる!

 ――で、本心は?」


「……おそらく、蘭は今、瑠璃と琥珀(猛獣たち)によって軍服を脱がされている――。

 そんな中、ノコノコと蘭の元を訪れてみろ……。

 着替えを覗いた“変人”扱いされるぞ――」


「な、なるほどね……? 確かに琥珀様ならそう言いそう……」


(うわぁ、龍也の目が血走ってるよ……)


(本当は行きたいクセに……、我慢してるんだね)


 ホロリ。と心の中で涙を流す龍生。



「白銀侯爵閣下! 本日は、閣下の御(・)婚(・)約(・)者(・)様(・)の夜会用ドレスのお見立てとお聞きし、急ぎ参上いたしました!」


「南蛮から取り寄せた極上のシルクやサテンのドレスもずらりと揃えてございます!

 若(・)奥(・)様(・)にもきっとお気に召していただけるかと――!」


「…………そうか、もうすぐ蘭が来るはずだ。

 蘭に合う品物を見繕ってくれ」


「はっ! お任せください!」


 白銀に言葉をかけられ、商人たちはやる気に満ちていく。 


 


「…………若奥様……か……」


 商人から少し離れると、白銀はポツリと衣装問屋のセリフを復唱した。


 白銀の言葉を聞き逃さない有能な龍生(使用人)は確信した。

 

(これは……! 蘭ちゃんのこと“若奥様”って言われて噛み締めてる顔だ――!!)



✕✕✕



 ほどなくして、サロンの扉が開かれる。


 扉からは瑠璃と琥珀が顔を出し、少し遅れて薄桜色のフリルとリボンが沢山ついたワンピースを身につけた蘭が入ってきた。


 蘭は顔を真っ赤にして、少し落ち着かない様子で辺りを見渡す。


 そして、白銀と視線が合うと、白銀の近くまで小走りでやってきた。


「し、白銀ぇ……。変じゃないかな?

 こんなフリルとかリボンとかたくさん付いてる服、着たことなくて……」


 蘭は恥ずかしそうにワンピースの裾を握りしめる。


「……………………大丈夫だ、蘭。

 似合っている――」


 白銀の瞳が大きく揺れる。


「ほ、本当か?

 お前、何着てもオレに“似合ってる”しか言わないから本当か分からんな……」


 視線を外す蘭。

 その両手を握りしめ、胸の前まで持ち上げ、白銀は蘭と目線を合わせた。


「心配するな、蘭――。

 俺は、世辞は言わん」


「…………はぁ……、そうですか……」


 蘭は再び視線を逸らす。

 だが、蘭の耳は真っ赤になっていた。


「そこ! いつまでも“いちゃいちゃ”してないで、夜会のドレスを選ぶよ!」


「いちゃいちゃって……」


 琥珀の言葉に、蘭と白銀は見つめ合い、視線を逸らせた。 




ご覧いただきありがとうございます!


ノワールでマカロニグラタンとカルピスをお腹いっぱい楽しんだ後、ついに試練の白銀本邸へ乗り込んだ蘭ちゃんでしたが……!


「オレ」という男言葉も軍服(男装)姿もすべて「ありのままの蘭さんが好きよ!」「なんて乙なのかしら!」と丸ごと温かく包み込んでくれた瑠璃お義母様&琥珀お義姉様の愛にほろり。


そしてサロンでは、衣装問屋から聞こえた「若奥様」の言葉を一人で噛み締めて噛み締めて噛み締めまくる白銀大将と、可憐すぎる薄桜色ドレス姿の蘭ちゃんの甘すぎるやり取り、楽しんでいただけたら嬉しいです!


【★次回予告★】


第39話『着せ替え人形』!


ついに始まった、瑠璃お義母様&琥珀お義姉様による夜会用ドレスの選定会!


周囲から「若奥様」と連呼されるたびに「若奥様ってオレのことか!?」と大混乱の蘭だったが、容赦ない針子たちによる「コルセット締め上げ攻撃」にノワールで食べたグラタンの危機を感じる羽目に……!?


さらに、白銀の言葉を「露出が多いのが見たい」と激しく勘違いした琥珀お義姉様の暴走により、次々とドレスを着せ替えられる文字通りの「着せ替え人形」と化す蘭!


怒涛の試練でぐったりと放心する蘭の前に、白銀大将が差し出した“一着の特別なドレス”とは――?


爆笑の着せ替え劇と、白銀大将の真骨頂(激甘なお見立て)をお楽しみに!


「大将の“若奥様”噛み締め顔にニヤニヤが止まらない!」「瑠璃様と琥珀様の家族愛が最高すぎる!」と思ってくださったら、下にある【ブックマーク】や【星の評価(☆☆☆☆☆)】で応援していただけると、執筆の物凄い励みになります!

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