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軍服を脱いだら、お見合い相手が上官でした――冷徹な大将閣下は男装少尉を逃がさない(※溺愛されています)――  作者: 玖条 レイナ


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第三十七話 腹が減っては戦ができぬ

 無事に白銀本邸を脱出した白銀と蘭は、龍生が運転する車の後部座席に並んで座っていた。


「…………琥珀お義姉様と清野閣下、置いてきてよかったのか?」


 蘭は白銀に問う。


「問題ない。あの二人は清野家からそのうち迎えがくるだろう。

 ついでに、俺たちの屋敷にある姉上の荷物も回収してもらわねばな……」


 白銀は小さく息を吐いた。


「……そっかぁ……」



 しばしの沈黙。



 龍生が運転する車が、あと少しで白銀邸に到着すると言うところで、異変が起きた。


「………………しろがねぇ……。

 なんか、胃が痛い…………。吐きそう………………」


「…………!?」


 蘭は白銀の軍服の裾をぎゅっと握りしめる。


「…………蘭、大丈夫か!?

 おい、稜。屋敷まではあとどれくらいかかる?」


「えっと! あと、五分はかからないと思う……!

 車、止める??」


「…………蘭、大丈夫か? 我慢できそうか……?」


「…………うぅ、しろがねぇ…………。

 たぶん、大丈夫…………」


 蘭の顔色がどんどん白くなっていく……。


「車にでも酔ったのか……?

 それとも、本家での緊張が解けて体調を崩したか――!?」


 白銀は軍服の手袋を外すと、蘭の額にそっと手を置く。


「…………熱は、ないようだが――」


「…………白銀の手、冷たくて、気持ちいい……」


 白銀は蘭の額に置いた手を蘭の頬に滑らせる。


「…………蘭、帯を緩めてやろう。

 息を吐け――」


 蘭が指示通りに大きく息を吐くと、白銀は慣れた手つきで蘭のみぞおち付近――帯の上端に手を入れ、手前にすっと引いた。

 さらに、帯揚げの結び目を器用な手つきでサッと緩める。


「…………どうだ? 蘭。

 少しは楽になったか……?」


「……あ、うん……。ありがと……白銀……」


(ちょ、ちょちょちょ! 近すぎるだろぉぉぉぉぉ!!)


(てか、何で龍也が帯の緩め方知ってんだよぉぉぉぉぉ!!)


「………………ん? なんか、急に楽になってきたな…………」


 蘭の顔色が見る見る良くなっていく。


 ケロっとした蘭の顔に、白銀は再度問いかける。


「…………もう、大丈夫なのか……?」


「ああ! 白銀が帯に手を突っ込んでくれたおかげで楽になってきた!!」


「ぶふーーーーーーーーー!!!」


 蘭の言葉に、龍生が盛大に吹き出す。


「えぇ!? 龍也、蘭ちゃんの帯に手を突っ込んでるの!?

 流石にヤバくない!!?」


「ヤバくない。稜は運転に集中しろ!」


 白銀の一喝。


「は、はいっ!」


(後ろが気になるけど、怖くて振り向けない!!)


(もうすぐお屋敷に着く! それまで我慢しろ! 僕!!)


 龍生は自分を奮い立たせながら、運転に集中する。


 

「………………蘭。

 今日、何か変なものでも食べたか……?」


「変なもの?? そんなの食べてないぞ!

 だって今日は龍生副官が用意してくれたメンチカツサンドと、白銀の家で食べた仏蘭西料理と“ぷりん”しか食べてないし…………」


「…………!」


 白銀はある事が頭をよぎった。


「……蘭。プリンは結局何個食べたんだったか……?」


「え? まずはオレの分と、白銀の分と、琥珀お義姉様の分と、お義母様の分で四つだろ?」


 蘭は指を折りながら数える。


「で、白銀がまたプリンくれて、琥珀お義姉様が清野閣下が食べてなかったプリンくれたから……」


「合計六個か――」


「ああ! 美味かった!」


「…………蘭」


 白銀の真剣な眼差しが蘭を見つめる。


「プリンを六個も食べたら、胃が苦しくなって当然だろ――」


「ぶふーーーーーーーーー!!!」


 運転席で、龍生が再度吹き出した。


「………………夕飯はなしにするか……?」


「そんなぁぁぁぁぁああ!!!」 



✕✕✕


 あれよあれよと時間が過ぎていき、気づいたら約束の土曜日になっていた。

 この一週間、蘭は亜嵐として軍務に勤しむ。書類仕事をしたり、白銀に剣術指南されたり……。


 午前の業務も平和に終えた土曜日。


(この一週間、龍也からの変な呼び出しは数回あったけど、おおむね平和に過ごせた……)


(でも、そんな事はこの際どうでもいい――)


(今、問題なのは――――)   


(……これから、白銀本邸に泊まりに行かなきゃならないことだぁぁぁぁ!)


 大部屋の同僚たちが帰る中、亜嵐は人知れず盛大なため息をついた。


(これからまた大将執務室に行かなきゃだし……)


(うぅ……。胃が痛い――) 



✕✕✕


 ――トントントン。

 

「失礼いたします。

 ――龍ヶ崎少尉であります」


「――入れ」


 白銀の低い声が響く。


(うぅ〜、やだなぁ~)


(別にお義母様とお義父様にお会いするのはイイんだよ、緊張するけど……)


(問題なのは、オレが“お淑やかな”子爵令嬢・蘭を演じ続けられるかどうか――だ!)


 蘭は深呼吸をして、大将執務室のドアを開けた。


「失礼いたします!」


 執務室では、白銀と龍生が何かを相談している途中のようだった。


「…………オレ、お邪魔だったか?」


 亜嵐は一歩後ずさる。


「……蘭。こっちに来い」


 白銀が蘭に目配せをする。

 蘭はトボトボと白銀の近くまで歩き出した。


「蘭、白銀本家には昼めしを食べてから行くと伝えた」


「……え?」


「蘭ちゃん、先週銀座で琥珀様に拉致されてご飯食べれなかったでしょ?

 龍也はどうもそれがトラウマ(心の傷)になってるみたいで、今相談してたんだよ!」


「え……」    


「本邸には姉上もいるはずだ。

 空腹の蘭を琥珀(猛獣)の元には行かせられん」


「し、白銀ぇ――!」


 亜嵐は菫色の瞳をキラキラさせ、白銀を見る。


「お前……! いいやつだな!!」


 白銀は満更でもない笑顔を浮かべるのだった。


(……これって褒められてるのかな……?)


 龍生が心の中でツッコんだ。



✕✕✕


 三人は白銀の車に乗り込む。

 車の中には二人分のスーツケースが重なっていた。


「……龍生副官は白銀本邸に泊まらないのか?」


 亜嵐は後部座席に座りながら尋ねた。


「え? 僕?

 僕がいなくても父上がいるから泊まる必要は無いかなって」 


 龍生は運転席に座りながら答え、その隣の助手席に白銀が座る。


「龍生副官! オレを見捨てるのか!?」


 蘭は後部座席から身を乗り出す。


「あはは! 見捨てるってそんな大げさだなぁ!

 大丈夫、明日もちゃんと迎えに行くからさ!」


 龍生は亜嵐にウィンクをする。


「……蘭、俺がいる。

 だからなにも心配する事はないぞ」


 龍生の言葉に間髪入れずに白銀が被せる。


「いや、龍生副官ならオレが“猫”を被りきれなかった時に誤魔化してくれるかな〜と思って……」


「あはははは! そっちの心配ね!

 大丈夫だよ! 龍也がちゃんと助けてくれるよ!」


「――当然だ」


「……………………白銀はそのままでいいって言いそうだから、あんまり助けてくれそうにないんだよな……」


 白銀の言葉にボソッ嘆く亜嵐。


「何か言ったか? 蘭」


「ひぃ! な、なんでもありません!」


 亜嵐は敬礼し、後部座席に戻っていった。



✕✕✕


 カフェ・ノワールに着くと、三人は思い思いの注文をする。


「僕はこの四種のソースがけオムライスにしようかな? 最近ノワールで人気なんだって!」


「それって……」


「――ご明察! 亜嵐くんが店で出せばいいって言ってくれたから、出してみちゃいました〜」


「――龍一郎さん!」


 三人分のお冷を持ってきた刻藤が墨色の目を細める。


「え? このオムライス、蘭ちゃ……亜嵐少尉が発案者なの??」


「発案者っていうか、流れに任せたらこうなったと言うか……」


「ふーん、まぁいっか!

 じゃあ僕はこれにするよ! 二人は?」


「俺は珈琲と……亜嵐は何を食べたい?」


「んー、今日は“まかろにぐらたん”と“はっとけーき”にしようかなー?」


「え! そんなに食べるの!?

 やめといたほうがいいんじゃない!?」


「亜嵐……、これから採寸をするんだ。

 ハットケーキはやめてカルピスぐらいにしておけ――」


「ん〜、じゃあそれでいいや!」


「いやいや! マカロニグラタンも結構お腹にたまらない??

 まったくぅ、龍也は亜嵐少尉に甘いんだから……」


「……龍一郎。

 俺も亜嵐と同じマカロニグラタンを貰う」


「はいよ〜!

 ご注文ありがとうございます〜」


 刻藤は注文を取り、カウンターへと戻る。


「オレ、“まかろにぐらたん”も“かるぴす”も初めてなんだ! 楽しみだ!」


 亜嵐の弾けるような笑顔に目を細める二人。


(それにしても龍也、蘭ちゃんにカルピス飲ませるだなんて……)


(カルピスは“初恋の味”って言うけど――まさかね)


 龍生は静かに思うのだった。




ご覧いただきありがとうございます!


白銀本邸からの帰り道、帯を解かれて手慣れた(?)介抱を受ける蘭ちゃんと、激しく勘違いして冷や汗を流す龍生副官!


そして体調不良のまさかすぎる原因(プリン6個の食べ過ぎ)と、白銀大将の手配によるノワールでの「初恋の味(カルピス)」&「マカロニグラタン」の和やかな腹ごしらえ、いかがだったでしょうか?


亜嵐に激甘な白銀大将と、ハイカラなメニューに目を輝かせる蘭ちゃんのやり取りを楽しんでいただけたら嬉しいです!


【★次回予告★】


第38話『若奥様のお見立て』!


ノワールでお腹を満たし、腹をくくってついに試練の白銀本邸へと到着した亜嵐たち。


「猫」を被って緊張しまくる亜嵐を待っていたのは、瑠璃お義母様&琥珀お義姉様によるまさかすぎる大歓迎!?


「オレ」という一人称も、男装姿もすべてを丸ごと温かく包み込んでくれる二人に感動したのも束の間、ドレスの着替えを巡る激しい攻防戦がスタート!


さらにサロンでは、衣装問屋の商人から聞こえた「若奥様」という言葉をひそかに噛み締める白銀大将と、超絶可憐なドレス姿に変身した蘭ちゃんの甘すぎるやり取りが炸裂して――!?


笑いあり、温かい家族愛あり、そして甘々あふれる試練のお泊まり初日の模様をお楽しみに!


「帯を解く大将の手慣れ感にニヤニヤした!」「プリン食べ過ぎな蘭ちゃんが愛おしすぎる!」と思ってくださったら、下にある【ブックマーク】や【星の評価(☆☆☆☆☆)】で応援していただけると、執筆の物凄い励みになります!

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