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軍服を脱いだら、お見合い相手が上官でした――冷徹な大将閣下は男装少尉を逃がさない(※溺愛されています)――  作者: 玖条 レイナ


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第三十二話 深紅の振袖と麻布の戦場 

「ん……」


(あれ? いつもよりベッドが狭いな? なんでだっけ……?)


 窓から太陽の光がやさしく降り注ぐ。

 蘭は微睡みの中で昨夜の出来事を思い出していた――。


(――確か、昨日は白銀と銀座に買い物に行ったけど琥珀お義姉様に捕まって――)


(――琥珀お義姉様と清野閣下も一緒に白銀の屋敷に帰ってきて……)


(……琥珀お義姉様がオレと一緒に寝たいって駄々をこねて……)


(駄々をこねて――)


「結局一緒に寝たんだった!!」


 蘭はハッとし、菫色の瞳をバチっと開ける。


「ヤバイ、今日は白銀本家への顔合わせじゃないか!!」


 ベッドから身体を起こそうとするも、なぜか身体が動かない。


「……何で――?」


「ん……りゅうじぃ――」


 その疑問を解消するかのように、隣から声が聞こえる。


「こ、琥珀お義姉様……!!」


(抱きつかれてるから、動けない――!!)


「こ、琥珀お義姉様! 離してくれよ!

 朝だぞ! 起きろ!」


「………………ん? りゅうじ?」


「オレは清野閣下じゃなくて蘭だぞ!」


「……ん〜〜〜〜?」


 琥珀色の瞳がとろんとして、焦点が定まっていない。


「龍司ぃ〜、朝のア(・)レ(・)はぁ?」


 琥珀の腕の力がどんどん強くなる。


「アレ? 何だそれ?

 ってか、オレは清野閣下……龍司じゃない! だから離してくれ!!」


「ひどいよ龍司ぃ〜、いつもはすぐに接吻してくれるのに〜」


 琥珀が甘えるように頬を膨らます。


「せ、せっぷん!? せっぷんって何だ!?」


 琥珀の手が蘭の頬を撫でる。

 そして、顔がどんどん近づく。


「龍司からしてくれないならぁ、今日はボクからするぞぉ〜」


 琥珀の手が蘭の頬から唇に滑り落ちる。


「ん〜〜〜……」


「え? あ? ちょっ!!

 こ、こここここ琥珀お義姉様ぁぁぁぁぁ!?」


(もしかして接吻って――“口吸い”のことかぁぁぁぁぁ!?)


「あ、あ、あ――」


 琥珀の顔がどんどん唇に近づいてくる。


「あ、い、いや――、し、しろがね……!」


「た、助けてぇぇぇぇぇ!!

 白銀ぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」


 ――ダン!


 蘭の叫びを聞きつけ、白銀が蘭の部屋の扉を蹴破る。


「蘭! どうした! 何かあったのか!?」


 息も絶え絶えに白銀はベッドを見る。


 そこには、琥珀に迫られている涙目の蘭。


「し、白銀!! お義姉様に……!

 琥珀お義姉様に、“口吸い”されるぅぅぅぅぅ!!」


 蘭は琥珀の顔を両手でガードし、接吻をされないように死守している。


「ら、蘭! 姉上も何をしている!!」


 白銀は寝ぼけた琥珀を蘭から引き剥がす。


「あん……」


 ベッドに倒れ込んだ琥珀に枕を与えると、琥珀は枕に向かって「龍司ぃ〜」と頬ずりしていた。


「しろが――あ、龍也……。その、ありがと……」


 琥珀から解放された蘭は白銀に抱きしめられていた。


 濃紺と白の色違いのお揃いの寝間着――。

 シルクの滑らかな肌触りが心地よかった。


「ああ、無事だったか……?」


「……なんとか――」


「そうか」


「そ、それはそうと、そろそろ離してくれないか?

 その――、ちょっと恥ずかしい……」


「……俺はずっとこのままでもいいのだが――」


 白銀は最後にもう一度強く抱きしめる。


 ――ぐぅ〜。


「……っ! そ、その、安心したら腹減ったって言うか――その、あの……」


「ククク。朝だもんな。

 誰だって腹は減る――」


 そう言うと白銀は蘭を離す。

 柔らかな感触が白銀から離れた。


 ダボダボの寝間着から、昨夜見た光景が広がる。


「………………。厨房に行くか」


「お、おう!」


 

✕✕✕



 二人が厨房に着くと、昨日刻藤が持たせてくれた折詰で、龍生がサンドイッチを作っていた。


「あ、おはよー。龍也に蘭ちゃん。

 朝早いね」


「……お前もな、稜――」


「おはようございます! 龍生副官!」


 蘭はビシッと敬礼した。


「あはは。敬礼なんてしなくていいのに」


 龍生も笑いながら敬礼を返す。


「これさ、作ってみたんだけど食べてみてよ」


 龍生がメンチカツサンドを渡す。


「せっかくお泊りさせてもらったからさ、これぐらいはしないとなって思って――」


「りゅ、龍生副官は気遣いの塊だな!」


 蘭の瞳がキラキラ輝く。


「いやいや、それほどでもあるよ〜。

 だって、未来の白銀家家令になる予定だからね」


 龍生は白銀に向かってバチンとウィンクをした。


「……そうだな、期待している――」


 白銀はやさしく口角を上げた。


「うん! とりあえず食べてみてよ!」


「ああ」 

「お、おう!」


 白銀と蘭はメンチカツサンドを頬張る。


「うん! 美味い!」


 瑠璃色と菫色がかち合い、お互いに頷き合う。


「いつも白米だったけど、たまにはパンもいいな!」


「そうだな――」


「また、今度一緒に買い物に行こう」


「おう!」


 パクパクとメンチカツサンドを食べすすめる蘭。


「蘭――、口元にソースがついてる」


「……え?」


 白銀は、蘭の口元についているソースを指で拭う。


「………………あ、ありがと――」


 そして、無意識に指を舐めた。


「……なっ!」


「…………ッ! す、すまない!」 


 真っ赤になった蘭の顔。


(“味見”か!? “味見”なのか――!?)


 白銀も蘭から目線を逸らす。


「…………朝からお熱いことで――」


 二人のやり取りを、遠目で見つめる龍生であった。



「ふわぁぁぁ~、龍也、蘭、龍生の息子。

 いい朝だね」


 白銀と蘭の後ろから声がかけられた。


「おはようございます。清野様、琥珀様」


 龍生が一番に声を掛ける。

 その声に白銀と蘭も思わず振り返る。


 そこには、まだ眠そうな琥珀と、琥珀の腰に手を回して支えている清野がいた。


「おはようございます。清野閣下、琥珀お義姉様」


 蘭はサンドイッチを急いで食べる。


「……龍ヶ崎少尉、今朝琥珀が何か迷惑をかけなかったか?」


「えっ、あっ、その――」


(お前の変わりに口吸いされそうになった! なんて言えないだろ!)


(……というか、清野閣下、琥珀お義姉様と一緒にいるってことは……)


(もしかして、口吸い……してきたのか――?)   


 蘭は、顔から火が出る勢いで真っ赤に染まる。


「………………なにか、あったんだな。

 すまない――」


 清野が頭を下げる。


「い、いえ! 頭を上げて下さい清野閣下!!」


「全くだ。次からはきちんと姉上を管理してくれよ」


 慌てる蘭の肩を白銀が抱き寄せる。


「うわっ! お前もどさくさに紛れて何すんだよ!」


「……軽く朝食も食べたんだ。

 蘭、本家に行く準備に取りかかろう――」


「はっ! 本家に行く準備だって!」


 半分寝ていた琥珀の意識が覚醒する。


「そういうことはボクに任せろ!

 さぁ、蘭! こっちだー!」


 琥珀は白銀から蘭を引き剥がし、二階に連れて行く。


「さぁ、蘭! とびきりかわいく仕上げてあげるよ!!」


「あ、あと少しだけサンドイッチ食べたかったぁぁぁ!!」      



 琥珀の覚醒により、厨房に残された男性陣。


「あのー、朝ごはんにします?」


 空気を読んだ龍生の声だけが響くのだった。



✕✕✕



 ――数時間後。


「そう言えば、さっきまで聞こえてた蘭ちゃんの叫び声がやんだね」


 先に準備を済ませた男性陣にお茶を注いでいた龍生が言った。


「たしかに、あの野生児――失礼、軍人らしい絶叫だった」


 白銀が清野を睨みつける。


「……俺が見てくる」


 白銀が席を立ち上がる。


 その時、襖がスパーン! と開かれた。


「やぁやぁ諸君。待たせたね――。

 僕の最高傑作さ――!」 


 声の方向に一同が視線をむける。


 そこには――


 大輪の蘭とその周りを優雅に舞う蝶が描かれた深紅の振り袖を纏った蘭が立っていた。

 髪型も、いつもの無造作なひとつ結びではなく、きちんと纏められ、振り袖と同じ蘭と蝶の髪飾りを着けていた。


「……ど、どうかなどうかな? 変、じゃないかな――?」


 蘭は恥ずかしそうに、上目遣いで白銀を見つめる。


「「「…………………………」」」


 広間に数秒の沈黙が訪れる。


「……はっ!」


 最初に沈黙を破ったのは龍生。 


「……お~い、龍也? 息してる?」


 龍生が立ち上がったまま微動だにしない白銀の手の前でヒラヒラと手を振った。


「――ダメだ――完全に固まってる――」


 龍生がつぶやく。


「……どうやらあまりの衝撃で、呼吸の仕方も忘れたようだな――」


 次いで清野が声を出す。


「さすが琥珀だ。よくやった――」


「龍司……。これはボクだけの力じゃない……。

 蘭が本来持って生まれた天性のモノさ!」


 琥珀と清野が見つめ合う。


「あまりの衝撃で動かないって……!」


(それって……、おかしすぎて何も言えないってことなんじゃないのか――?) 


「……おい、白銀――。

 何か言ってくれよ……」


「………………はっ! すまない!

 俺としたことが、蘭のあまりの美しさに見惚れていた……」


 蘭の指がピクッと動く。


「……似合っているぞ、蘭――。

 綺麗だ――」


「そ、そうかよ――」


 蘭は白銀から視線を外す。


(いちいち大袈裟なヤツ……)


「じゃあさ! みんなそろったから車に乗ってー!

 今日は僕が白銀 龍也の運転手だ!」


 一行はいつもより、少し大きめの車に乗り込む。


「……………………」 


「蘭、緊張しているのか?」


「……こんなの、緊張しないヤツいるのか?」


「……違いない――」


 白銀はギュッと握りしめていた蘭の手に手を重ねる。


「――大丈夫だ、蘭。

 何があっても、俺がお前を守る――」


「――俺が、お前を認めさせてやる――」



 ✕✕✕


 龍生が運転する車が、麻布の白銀侯爵家本邸に到着する。


 見たこともない大きな門。

 その門を潜ると、巨大な屋敷が現れた。


「……これが、白銀の本家――」


「ああ、ここから戦場だ――」 




ご覧いただきありがとうございます!


朝から琥珀お義姉様の「口吸い」未遂で涙目になる蘭ちゃんや、メンチカツサンドの「指パク味見」ハプニングなど、白銀邸の朝は相変わらず大騒ぎでしたね笑


そして何より……琥珀お義姉様がプロデュースした「大輪の蘭と蝶が描かれた深紅の振袖姿」!!


あまりの可憐さに息を呑んで呼吸の仕方を忘れて固まる大将、いかがだったでしょうか?


【★次回予告★】


第33話『白銀家の洗礼』!


漆黒の陸軍大将服を纏う白銀、純白の海軍大将服の清野閣下、ロイヤルブルーのドレスの琥珀お義姉様、そして深紅の振袖に身を包んだ蘭ちゃん。

圧巻の存在感を放つ一行は、ついに麻布の巨大な白銀侯爵家本邸へと足を踏み入れる!


緊張をほぐすための「蘭からかい隊」の結成(?)や、白銀家の優秀すぎる家令との出会いを経て、案内されたのは重厚な大応接室。


その扉の向こうで待ち構えていたのは、白銀前侯爵夫妻と、冷ややかな視線を送る白銀家の重鎮たちで……!?


いよいよ始まる本家との対峙。緊張の一瞬をお楽しみに!


「本家との顔合わせが気になる!」「振袖姿の蘭ちゃんが可愛すぎた!」と思ってくださったら、下にある【ブックマーク】や【星の評価(☆☆☆☆☆)】で応援していただけると、執筆の物凄い励みになります!

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