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軍服を脱いだら、お見合い相手が上官でした――冷徹な大将閣下は男装少尉を逃がさない(※溺愛されています)――  作者: 玖条 レイナ


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第二十八話 手を繋ぐ前に

 白銀の車で銀座に着いた二人は並んで大通りを歩いていた。


「そう言えば、()とこうして歩くのは初めてだな――」


 白銀は目を細める。


「確かに……、この前の百貨店(デパート)も亜嵐だったもんな〜」


 蘭は隣を歩く白銀を見あげる。


(コイツ……、悔しいけどやっぱり顔はいいんだよな……)


(さっきから、モダンガールたちの視線が痛いし……) 


 蘭が白銀の顔を凝視していると、白銀がふと、目線を合わせる。


「……どうした? もう、腹が減ったのか?」


「……なっ!」


「心配するな。

 買い物が終わったら、ノワールに連れて行ってやる」


「……それまで、何を食べたいか考えておくといい」


 白銀は蘭の頭をポンと撫でた。


「……………………分かった」


 蘭は少し頬を膨らませる。


(……子ども扱いしやがって――)



 銀座の大通りには、様々な人がいた。


 モダンな日傘をさし、ワンピースの裾をフワリと翻しながら歩いているモダンガールたち。

 昔ながらの着物を着て出歩く女性たち。


 薄紫の着物に、深紫の袴をはいて歩いているハイカラさんスタイルの蘭は、どんな衣装のご婦人方よりも気品に溢れ、すれ違う人々は皆、振り返る程であった。


 振り返る人々を白銀は不機嫌に睨みつける。


(蘭を凝視してよいのは、この世で俺だけだ……)


「――蘭」

「――龍也」


 二人は同時に名前を呼んだ。


「な、なんだよ……」


 蘭は少し警戒するような視線を向けた。


「――手を、繋がないか……?」


「……え?」


「ここは人が大勢いるから、はぐれないように――だ」


「…………………………」


「蘭、今日は俺にお前をエスコートさせてくれ」


「……………………」


 白銀が蘭に手を伸ばす。


 蘭はキョロキョロと辺りを見回し、諦めるように――嬉しさを隠すように――手を伸ばす。


「……しょうがない! 龍也が人混みにはぐれないように、オレが手を繋いでやるよ」


 イタズラっぽく笑う蘭に、白銀は目を細める。


「ああ、よろしく頼む――」


 白銀は肩をすくめて見せる。

 だが、口元は隠しきれないほどに上に上がっていた。


 二人の手がゆっくり近づく――。


 あと、数センチで指が触れ合う距離。



 その時――!


 ――プップーーーー!!


 けたたましいクラクションの音。


 二人は視線を上げ、振り返る。


 そこには黒塗りの公用車が全速力で近づいてきていた。


「――ッ! 途中で軍を抜けたのバレたのか!?」


「いや、そんなはずはない! だが、あれは――」


 ――キキッーーー!


 公用車は白銀と蘭の前で止まる。

 止まるやいなや、後部座席のドアがガバッと開いて、中から桜色のワンピースに桜色のクロッシェ帽を被った絶世の女性が顔を出す。


「こんなに面白いイベントに、ボクを呼ばないなんてどういう用件だい?」


 琥珀色の瞳が獲物を狙った猛禽類のように細められる。


「こ、琥珀お義姉様――!!」


 蘭の声が驚きで上ずる。


「姉上! いったいなんの用だ!」


「用事も何も、明日、本家に顔合わせに行くんだろ?

 こんな面白い――失礼、大事なことをなぜボクに黙っている!」


「清野に嫁いだ姉上には関係ない!

 ……それに、こうなる事が目に見えているからだ!」


「ふふふ、分かっているじゃないか――」


 琥珀は車から上半身を出すと、蘭の腕を掴む。


「今のハイカラさんスタイルもかわいいし、似合っているけれど、我が義妹をボクが立派なモダンガールに仕立ててあげるよ!

 楽しみに待っているんだね、龍也!」


「えっ、ちょっと――!」


 琥珀は蘭の腕を引っ張り、車に乗り込ませた。


「運転手! 早く車を出せ――!」


「まって! りゅ、りゅうやぁぁぁぁぁ!!!」


「ら、らんーーー!!」 


 二人は必死に手を伸ばすも、琥珀の命令で、無情にも車が猛スピードで発進する。



 後に残ったのは車の排気ガスのみ……。


 白銀が手を伸ばしたままの格好で固まっていると、背後からポンッと肩を叩かれた。


 白銀が後ろを振り向く。


 すると、そこには眉間にシワを寄せた清野が立っていた。


「………………清野……お前……」


「…………すまない。琥珀が暴走した」


「……暴走……?」


「…………龍一郎か?」


「いや、今回は白銀本家の()()が口を滑らせられたらしい……」


「…………………………」


「………………すまない、あんなに暴走されては、私でもどうすることもできない――」


「…………姉上の暴走は今に始まった事ではないが――。

 義兄上も苦労されているんだな――」


「――龍也。ノワールに行って珈琲でも飲むか……。

 今日は私の奢りだ――」


 陸軍大将・白銀 龍也は、海軍大将・清野 龍司に慰められながらノワールに向かうのだった。



✕✕✕



 琥珀に手を引かれ、蘭は琥珀御用達の高級洋品店に連れてこられていた。


「あ、あの……、琥珀お義姉様――。これはいったい――」


 蘭の目の前には色とりどりのワンピースやドレス。振り袖などの反物。綺羅びやかな貴金属類がこれでもかというほど、並べられていた。


「今日はこの店を貸し切った。

 蘭、思う存分試してみてくれ!」


 琥珀の瞳が細められる。


「で、でも――!

 こんなにたくさんの中からなんて選べない」


「大丈夫だよ、蘭。選ぶのは()()だ。

 さぁ店主、この娘に似合いそうな服をじゃんじゃん持ってきてくれ」 


「畏まりました」


「さぁ、蘭。まずはこれからだ――」


 琥珀が手に持ったのは白を基調としたレースやフリルがたくさんついているワンピース。


「試着室に一緒に入るよ」


「えっ! 一緒には入るのか!?」


「もちろん! ボクが上から下まで、全て着付けてあげるよ――」


「ひぃぃ!!」


(助けて!! 龍也!!)


「さぁ、まずはその着物を脱いで!

 自分で脱げないなら、ボクが脱がせてあげるよ」


 琥珀が舌舐めずりをする。


「は、はい! 今すぐ脱ぎますー!!」


 蘭は涙目になりながら、琥珀の指示に従うのだった。


(琥珀お義姉様……、剣術指南してる龍也より怖いかもしれない――!!)




✕✕✕



 どれくらい時間がたっただろうか……。

 真上にあった太陽が、今ではすっかり、沈みかけていた。


(オレは今日、一生分の着替えをした気分だ――)


「うん! どれも似合っていて可愛かったね!

 試着した服を全部白銀邸に送ってくれ――」


「お、お義姉様! 全部はさすがに多すぎる!!

 それに、値段だっていくらになるか…………!!」


「何を言っているんだい、蘭?

 男なら、好きな女に毎日可愛い服を着て欲しいものさ!

 それに、これくらいの甲斐性がないと侯爵としてやっていけないぞ」


「いやいや! オレは質素に暮らせればそれでいいんだよ!」


「質素なんて言っていられないよ、蘭。

 侯爵夫人になるなら夜会やら会食やらで、ドレスなんていくらあっても足りないくらいさ」


「侯爵夫人が毎回同じ衣装とか、白銀家のメンツにかかわるからね!」


「確かにそれもそうかもしれないけど……。

 でも、限度ってものが――」


(それにオレ、別に侯爵夫人になりたいわけじゃないし……) 


「何か言ったかい? 蘭」


「ひぃぃぃ! なんでもありません!!」


 蘭は無意識に敬礼していた。


「ま、明日の顔合わせの衣装も決まったし――。

 今日のところは龍司たちと合流しようか――」


 琥珀は振り返り、蘭の全身を舐め回すように見る。


「それにしても蘭――。

 キミは素晴らしいものを持っていたんだね。

 男装なんかしていては、宝の持ち腐れだよ」


「はぁ? 何のことですか!?」


「とぼけなくていいよ、ボクはしかとこの目に焼きつけた。ボク手ずから採寸をしたんだ、間違いない!」


「…………ッッ!!」


 蘭は顔を真っ赤にして両腕で胸元を隠す。


(あれのどこが採寸なんだよぉぉぉぉぉ!!) 


「龍也も隅に置けないね。さすがのボクでもそこまでは見抜けなかったよ! 

 しかも龍也はまだ手出しすらしていないんだろ? これは早速自慢しないといけないね」


 琥珀は鼻歌混じりに店を後にする。


「龍也たちはおそらくノワールにいるよ。

 蘭、ノワールまでボクの()()をしてくれないかい?」


 元々、軍人気質の蘭は、琥珀の要求を無下にする事はできない。

 琥珀もそれを分かってた頼んでいるのだ。


「承知しました! お義姉様!」


 蘭はビシッと敬礼をする。  


(やっぱり陸軍大将(龍也)よりも怖いかもしれない――)


 蘭は洋品店に入った時のハイカラさんスタイルから一転、琥珀に着せ替え人間にされたままの服装――芥子色(からしいろ)に黒いベルトのモダンガール衣装で、琥珀の警護に勤しむ。

 慣れないヒラヒラした裾に苦戦する蘭を、琥珀色の瞳が楽しげに見つめるのだった。




ご覧いただきありがとうございます!


銀座の大通りで良い雰囲気になり、あと数センチで手が触れ合う……!という甘すぎる瞬間に、まさかのクラクション爆音と共に琥珀お義姉様が襲来!笑


連れ去られた蘭ちゃんは高級洋品店で恐怖の「着せ替え&手ずから採寸プレイ」に直面し、一人残された陸軍大将の白銀は、海軍大将の清野義兄さんに珈琲を奢られて慰められるというカオスな展開となりました。


大将よりお義姉様の方が怖いと確信した蘭ちゃんでした笑


【★次回予告★】


第29話『モダンガールと閣下の焦燥』!


ノワールで蘭ちゃんの帰りを待ちわびる白銀大将。

蘭を独占されてイライラする中、自分の「ある重大な失態」に気づいてしまい、一人勝手に大打撃を受けて焦燥に駆られることに……!?


そこへ、琥珀お義姉様にプロデュースされた可憐なモダンガール姿の蘭ちゃんが登場!

認めたくはないけれど、あまりの可愛さに言葉を失い跪く大将。


そしてお腹をすかせた蘭ちゃんのために、大将が繰り出した禁断の「社交界マナー(嘘)」とは――!?


「社交界のマナーだ。口を開けろ――」


とんでもない嘘をついて「あーん」で餌付けを始める大将と、素直に信じる蘭ちゃんの甘い攻防をお楽しみに!


※すみません!29話にかっこいい白銀大将はいません!笑(ずっと一人で焦って重症です)

それでもよろしければ、ぜひニヤニヤしながらお付き合いください!


「着せ替えられた蘭ちゃんが可愛い!」「重症な大将が見たい!」と思ってくださったら、下にある【ブックマーク】や【星の評価(☆☆☆☆☆)】で応援していただけると、執筆の物凄い励みになります!

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