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軍服を脱いだら、お見合い相手が上官でした――冷徹な大将閣下は男装少尉を逃がさない(※溺愛されています)――  作者: 玖条 レイナ


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第二十四話 ハイカラさんのおもてなし

「では帰るぞ」


 白銀が一歩近づいてくる。


「ま、待ってくれ、しろが――龍也!」


「……なんだ……」


「こ、この……」


「この……?」


「この“回覧板”はどうすればいい!?」


 亜嵐は回覧板を大事そうに胸元に抱く。


「……は?」


「だから! この回覧板はどうすればいいんだ!?

 オレは“龍生副官”からこの回覧板を持ってくるように頼まれたんだ!

 龍生副官がいないのなら、上官のお前に聞くしかないだろ!」


「………………」


 白銀は溜息をつき、自分の顔を手で覆いながら左右に首を振った。


「回覧板などどうでもよい」


「ど、どうでもいいわけないだろ! ここには軍事秘密とかそういうなんかよく分からん大事なことが書いてあるんだろ!?」


「……そんなに大事ならお前がずっと持っていろ」


「はぁ!? そんなことしたらオレは軍法会議(ぐんぽうかいぎ)にかけられるぞ!」


「……俺が許可する。

 だから回覧板を抱えて俺の車に乗れ」


「なっ! お前それ、職権乱用だぞ!!」


「職権を乱用して何が悪い――。

 稜に夕飯を振る舞うのだろ? 早く帰って準備をしないと客人()を持たせることになるぞ……?」


「ぐぬぬぬぬ……」


「分かったなら俺について来い。

 誰にも会わずに車まで連れて行ってやる」


「………………」


 亜嵐は白銀を睨んだまま、白銀の後に続いたのだった。



✕✕✕


 

 大将閣下専用のエレベーターと裏階段を通って駐車場にやってきた二人は、白銀の車に乗り込んだ。


 バタン。と扉が閉まる。


「……どうした? 何か不満でもあるのか?」


「……いくら大将閣下が許可したからって、軍の機密を持ち出すのは納得できない――」


 蘭は頬を膨らませる。  


「なんだ、まだ拗ねているのか?」


「拗ねてって――」


 ――ぷにっ。


 蘭が頬を膨らませながら運転席側を向く。

 すると、白銀の長い指が蘭の頬をツンとつついた。


「っ……!! 何しやがる!!

 白銀お前――!!」


「白銀ではない。……『龍也』だ――」


 瑠璃色の真剣な瞳。

 蘭の菫色の瞳が大きく揺れる。


「ッッ!! ば、馬鹿じゃないのか!?

 呼び方なんて関係ないだろ!!」


「関係なくない」 


「っな!! くっ……りゅ、龍也お前今なにやった!」


「何って、我が()()()殿の頬が膨れていたから触りたくなった」


「さわっ……! 触りたくなったってそんなことで――!」


「そんなことではない」


 白銀は蘭の頬に手を滑らせる。


「……蘭、お前……。

 今日、稜のことばかり話すではないか――」 


「はぁ? だって昨日迷惑かけちゃったし、今日はそのお詫びをしようと――」


「――気に食わない」


「なにっ?」


「お前は、俺のことだけ考えていればよいのだ――」


 白銀は何ごともなかったかのようにハンドルに手をかける。そして、アクセルを踏み車の運転を始めた。


(な、なんなんだよぉぉぉ! コイツぅぅぅぅぅ!)



✕✕✕



 白銀邸に着くやいなや、蘭は自室に直行した。


 そして、十五分ほどたち、リビングに戻ってきた。


「しろが――じゃなくて、りゅうや……」


 おずおずとリビングにやってきた蘭の姿を見て、白銀は目を見開いた。


 蘭は髪を解き、紫色の矢絣柄の着物に紫紺の袴を履いていたのだ。


「りゅうや……、これ、結んでくれないか……?」


 頬を真っ赤に染め、菫色の瞳をキョロキョロさせて、蘭は白銀に紫色のリボンを差し出した。


「今日はさ、龍生副官に“蘭”としてお詫びを兼ねたおもてなしをするわけだろ?

 だからさ、“亜嵐”じゃなくて“蘭”の方がいいかなと思ったんだけど……」


 蘭は恥ずかしそうに顔を背ける。


「リボンがうまく結べなくて……」


「……………………」


「あ、その……無理にとか言わないから――」


 白銀は無言でリボンを受け取る。

 その際、蘭の手に白銀の指が触れた。

 

「……お前はどこまで俺を試せば気が済むのか……」


「え? 何か言ったか?」


「いや、何でもない――。

 結んでやるから後ろを向け」


 蘭の菫色の瞳が、ぱぁと輝く。


「ありがとな! 龍也!」


 蘭はサッと後ろ向く。

 無防備な後ろ姿に白銀は蘭に気づかれないように深呼吸をした。


 サラサラした藤色の髪を、白銀の長い指が撫でる。


「ふふふ、ちょっとくすぐったいな……」


 蘭が肩を揺らす。


「……動くな――。

 まともに結べない」


「あ、あぁ。すまない」


 白銀は蘭の髪を手ぐしで梳かし始める。そして、耳の上の髪をひとまとめにして、そこに紫色のリボンを結んでいく。

 蘭は白銀の手際の良さに感心していた。


(前、簪も挿し直してもらったし、やっぱり侯爵閣下はリボン結びもお手の物なんだな――)


「蘭、結び終わったぞ」


「おお! ありがとう、龍也ー」


 蘭が白銀に向き直ろうとするも、なぜか肩を掴まれる。


「……龍也?」


「……髪は結び終わったが、袴の紐も曲がっているぞ。――急いで着替えてきたのか?」


 そう言い終わらないうちに、白銀の腕が蘭の細い腰――袴の紐に伸びる。


「りゅ、龍也……!」


「……せっかくのハイカラさんだ。

 俺が結び直してやる――」


 まるで後ろから抱きしめられているような態勢で、白銀が袴の紐を解く。 


「ちょっ――」


「……心配するな。“結び直す”だけだ――」 


 解かれた紐をぐるっと後に回し、また前に持っていく。

 そしてお腹の前でリボンを結び直す。


 ギュッとしまった袴に、蘭は顔を耳まで真っ赤に染めていた。


(こ、コイツに――! 髪のリボンだけじゃなくて、袴のリボンまで結ばせてしまった――!!)


(恥ずかしすぎるだろ!! 白銀にリボン結びが苦手なことがバレてしまったじゃないか……!!)


「……あ、あの。龍也……」


「――蘭、こっちを向け」


 白銀の声に恐る恐る振り返る蘭。


「………………ど、どうでしょうか……?」


(オレの馬鹿ぁぁぁぁぁ!!

 “どーでしょうか”じゃねぇだろぉぉぉぉぉ!!)


 白銀が蘭の全身を見る。


(うわぁぁぁぁ、見られてる! 何かを確認されてる!!)


(やっぱり亜嵐のままでいればよかったか!?)


 蘭は白銀を直視できなかった。


「…………蘭」


 名前を呼ばれ、全身がビクッとはねる。


「どこからどう見ても、立派な女学生だな――」


「………………それって、褒めてるのか?」


「もちろん」


 そこには、いつもより頬が緩んだ大将閣下の姿があった。


「あ、じゃあオレ、早速夕飯作るな!」


 蘭は逃げるように厨房に向かう。

 だが、一度振り向き白銀と向き合う。


「龍也……。リボン結んでくれて、ありがとな!

 お礼にお前の分の肉じゃが(甘煮)に肉いっぱい入れておくな!」


 そう言い放つと、トコトコと厨房に走って行った。


「…………………………」


(蘭。お前のその姿、俺だけのモノにしたいなどと言ったら、お前はどんな顔をするのだろうな――?)


 白銀は手のひらに残った蘭の髪の感触を確かめるように、後ろから抱きしめた感覚を忘れないように――。

 静かに瑠璃色の瞳を閉じた。           




第24話をお読みいただきありがとうございました!


前半の車内からすでに甘々でしたね……!

蘭ちゃんの頬をツンとつつきながらの、

「気に食わない。お前は、俺のことだけ考えていればよいのだ――」

という大将のド直球な独占欲爆発!言われた蘭ちゃんも「な、なんなんだよぉぉぉ!」とパニックになっていましたが、読者の皆様いかがだったでしょうか?笑


そして後半、龍生副官をおもてなしするための「ハイカラさん(紫の袴)」姿!

リボンが上手く結べず照れる蘭ちゃんに、無言で深呼吸をして理性を保ちつつ、髪のリボンだけでなく袴の紐まで結び直してあげる大将……(※実質バックハグです!)。

「俺だけのモノにしたい」と心の中で呟きながら目を閉じる大将の尊さに、書いていて胸がいっぱいになりました!

恥ずかしさから「お肉いっぱい入れておくな!」と厨房に逃げていく蘭ちゃんも健気で可愛すぎましたね!


【★次回予告★】


第25話『ハイカラさんの夕餉』!


龍生副官の(超ナイスな)アシストのおかげで、無事に大部屋の目を盗んで帰宅できた二人。

ついに今夜、龍生副官を迎えての「手作り肉じゃが(甘煮)夕食会」がスタート!


「猫を被ったハイカラさん」として健気におもてなししようとする蘭ちゃんでしたが、大将の「俺の婚約者」アピールと溢れ出る独占欲で、現場は早くも波乱の予感……!?

さらに「二人きり」の時に約束した『龍也』呼びが、まさかの形で龍生副官にバレてしまい――!?


そして宴の序盤、大将が繰り出した「とんでもない行動」に、蘭ちゃんと龍生副官が絶叫!?


「大将の独占欲と甘やかしが最高!」「肉じゃが夕食会が楽しみ!」と思った方は、ぜひページ下部の【☆☆☆☆☆】やブックマークで応援をポチッとお願いいたします!

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