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軍服を脱いだら、お見合い相手が上官でした――冷徹な大将閣下は男装少尉を逃がさない(※溺愛されています)――  作者: 玖条 レイナ


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第二十一話 初めての味、初めての名前

「待たせたな――」


 店員との話が終わり、ポツンと待っていた亜嵐の元に白銀が戻ってきた。


「え? あ、い、いや!

 ぜんぜん! 全然待ってない! ――です!」


 急に話しかけられて挙動不審になる亜嵐。

 そんな亜嵐を見て、白銀はフッと口角を上げるのだった。



✕✕✕ 



 白銀と亜嵐は食品売り場に向かう。


「白銀、先に言っておくがオレはそんなに料理が得意ではない」


「……そうは見えなかったが――」


「それは作れるモノしか作ってないからだ!」


「ほう……」


「つまり、なにが言いたいかと言うと――」


「オレは、作れるモノが少ない」


 亜嵐はドヤ顔で言い放つ。

 その自信に満ちた表情に白銀は目を細める。


「そこでだ、いいことを思いついた」


「……いいこと?」


「ああ!」


「ノワールの龍一郎さんを屋敷に招いて――」


「却下だ」


「えっ!」


「まだ何も言ってないぞっ!」


「……亜嵐。

 さっきも言ったが、俺の前で()()()の話をするなっ」


「なっ!」


(さっきは他の女って言ってたぞ!)


(女の話も男の話も出来ないんなら、何の話をすればいいんだ!?)


「…………亜嵐。返事は?」


「……っ、は、はい!

 分かりました!!」



✕✕✕



 食材売り場では、白銀が味噌や醤油、砂糖などの高級な調味料を次々と選んでいく。


(おいおい……、そんな高級品、滅多なことには使えないぞ!?)


「……亜嵐。他に欲しいモノはあるか?」


「あっ……、お野菜とか、お肉とか、お魚の干物とか……」


「それと、卵……?」


「……卵は大事だ。

 卵がなければ、玉子焼きが食えんからな――」


「はぁ、まあそうですね……」


「それと、俺はお前が作る料理なら多少焦げていようが、不味かろうが、何でも食べる。

 ――覚えておけ」


「はあ……、そうですか……」


(何でもって、重くないか――?)


(ん、待てよ……。“何でも”ってことは――)    


(白銀はやっぱりオレを餌付けして“食べる”気なんじゃないか――!!)



 食材を選び終えた二人は、買い込んだ食材や調味料をデパートボーイに預ける。


「裏通りに白銀家の馬車が停まっている。

 この荷を馬車まで運んでくれ――」


「はい! 畏まりました、白銀様。

 いつもありがとうございます!」


 デパートボーイは率先して荷物を持ち、馬車まで運ぶ。その中には、例の胡蝶蘭柄の弁当箱もあった。



 荷物を積み終え、デパートボーイが深々とお辞儀をする。


「ご苦労だった」


「いえいえ! 滅相もございません!

 またのお越しを心より、お待ちしております」


 デパートボーイが去っていくと、白銀は御者に声を掛ける。


「俺たちはもう少しここにいる。

 先に屋敷に戻り、荷物を稜に引き渡せ」


「はっ! 承知致いたしました」


 御者は恭しく頭を下げ、馬車を走らせた。


 ――パカラッ。パカラッ。


 軽快な蹄の音が遠ざかる。



「白銀……、今日はその、ありがとうございました」


(結局、全て白銀に買ってもらってしまった――)


(いったいいくらくらいなんだ? 庶民のオレには到底想像もつかない金額だぞ!?)


「……礼などいい。

 これにて、護衛任務は終了だ。

 ――大義であった」


「はぁ、結局、護衛らしいことなにもしてないんですけどね……」


 亜嵐は苦笑いを浮かべる。      


(街灯に照らされる白銀。いつもの軍服じゃないから変な感じだな――)


 その時――。


 ――チャララ〜ララ、チャラララララ〜。


 どこからともなくラーメン屋台(チャルメラ)の音が聞こえてきた。


「お! チャルメラだ!」


「チャルメラ……? なんだそれは?」


「白銀……、お前“チャルメラの音”を知らないのか?」


(まぁそうか。侯爵閣下が庶民の食べ物なんて知るわけないか――)


「チャルメラっていうのは、夜鳴きそばのことで……“ラーメン(支那そば)”って言えば分かるか?」


「支那そば……」


「オレ、けっこう好きなんだよね」


 亜嵐がニカッと笑う。

 亜嵐の笑顔を、白銀は見逃さない。


 ――きゅるるるる。


 笑顔と同時に亜嵐のお腹が鳴る。


「……腹が減ったのか?」


「あ、その……。

 チャルメラの音聞いたらお腹空いてきちゃいました――」


 亜嵐は恥ずかしそうに俯く。


「……食べに行くか?」


「えっ!」


「だって白銀、屋台とか食べたことないだろ?」


「………………ああ、初めてだ」


「だが、俺はお前の“好きなモノ”を知りたいんだ――」


「はぁ……、さようですか――」


 亜嵐はお腹に手を当てる。

 

(なんか、見合いの時もそんなようなこと言われた気がするな……)


(……変な白銀……。でも……)  


「……じゃあ、一緒に食べましょうか!」


(白銀のことなんてどうでもいいや! 取り敢えず、今は支那そばだ!)



 亜嵐の言葉を合図に、二人は音がする方角に足を進める。


 屋台は百貨店(デパート)から少し歩いた路地裏で営業していた。

 風よけの帆布に『支那そば』と書かれた暖簾がかかっていた。


「おやじ〜、支那そば二杯くれ」


 亜嵐は暖簾を潜り、屋台の店主に話しかける。


「はいよ〜」


 店主が支那そばを作り始める。 


「しろがね――」


(あっ! ここでオレが“閣下”なんて呼んじゃったら、コイツが陸軍大将の“白銀侯爵閣下”だと周りにバレてしまう……)

 

(陸軍大将だって分かったら大混乱だし、せっかく私服を来てお忍びできている意味がなくなっちゃうよな……) 


「あのさ、ここではさ、お前のこと――」


「“名前”で呼んでもいいか……?」


「……? どういう意味だ?」


「だからさ、今日だけの“作戦”っていうか、時と場所に合わせてって言うか……」


「…………?

 ……まぁ、好きにしろ」


「じゃあさ……」


「りゅ……、りゅうや――」


 亜嵐の菫色の瞳がキョロキョロと動く。


「『龍也』もここに座れ!」


 はにかんだ様な亜嵐の微笑み。

 心なしか、顔が赤く染まっていた――。


 白銀は混乱した。

 瑠璃色の瞳は瞳孔が大きく見開かれる。


 突然の“名前呼び”に、白銀の鼓動が早まっていく。


(……今、何が起きた……!?)


(名前で……呼ばれた、のか……?)


『龍也……』


 蘭の気恥ずかしい笑顔が脳裏に焼き付く。


「おい、龍也! なに止まってるんだよ!」


「あ、ああ。すまない――」


 先に屋台の椅子に腰を下ろし、白銀が座るのを待つ亜嵐。


(たまには、こういうのも悪くないな――)


 白銀がフッと口角を上げる。


「……支那そば、楽しみだ――」


 二人は顔を見合わせていたずらっぽく笑い合う。


「――龍也にも、初めてのことがあったんだな」


「ああ……。お前が来てから俺の毎日は初めての体験ばかりだ――」




第21話をお読みいただきありがとうございました!


ついに……ついに放出されました、蘭ちゃんからの最大級の不意打ち爆弾ワード。


「『龍也』もここに座れ!」


正体を隠すための作戦とはいえ、ハニカミ赤面笑顔での名前呼びは反則すぎますよね。

普段は冷徹で完璧な白銀大将が、まさかの突然の「りゅうや」に脳内大パニックを起こして、瞳孔全開&心臓バックバクでフリーズしている姿……!


「おい大将、完全にノックアウトされてるぞ!」と脳内ツッコミが止まりません笑


前半では「俺の前で他の男(龍一郎さん)の話をするな」と分かりやすくヤキモチを焼いていた大将ですが、この一撃で全ての不機嫌が消し飛んでお釣りが来ているのが最高に現金で愛おしいです。


次回、第22話『交換条件』もお楽しみに!


幸せなデート?から帰宅した二人ですが、お留守番をしていた龍生副官がなにやらご機嫌斜めな様子。

蘭ちゃんが副官を気遣う姿に、大将の「嫉妬センサー」が再び大暴走!

なんと大将から、蘭ちゃんへ“とんでもない交換条件”が突きつけられます……!


「大将のフリーズっぷりに悶絶した!」「『りゅうや』呼びのごちそう、美味すぎました!」と思ってくださったら、ぜひページ下部の【☆☆☆☆☆】やブックマークで応援をポチッとよろしくお願いいたします!

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