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軍服を脱いだら、お見合い相手が上官でした――冷徹な大将閣下は男装少尉を逃がさない(※溺愛されています)――  作者: 玖条 レイナ


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第十話 十五万円結納金テロ

「白銀閣下、お茶、こちらに置いておきますね……」


 大将執務室に入るなり、白銀とは目も合わせずに、入り口に一番近い机――作戦会議用の机の端に、湯呑みを置く亜嵐。


 置いて早々に一礼し、立ち去ろうとする。


(これで龍生副官に言われた仕事はおしまいだ!

 こんな所にいつまでいてたまるか!!) 


「おい、どこに置いている。

 俺にそこまで取りに歩かせるつもりか――?」


 低い声。

 だが、愉悦と失笑が混ざる声――。


「……くっ!」


 亜嵐の肩がビクッと跳ねる。

 そして、菫色の瞳でキッと、声の主を睨みつける。


「今! そちらに! お持ちします!!」


 乱暴に宣言すると、再び湯呑みを持ち、意を決して白銀大将に近づく。


 一歩。また一歩。


 亜嵐の黒い軍靴が深紅の絨毯に沈む。

 白銀に近づく度に、心臓の音が大きくなる。


(オレは何を緊張している!!

 いつも通りに過ごせば何も問題ない!!)


 視界の端に、白銀の髪が近づく。


 亜嵐は白銀と目を合わせないように執務机にお茶を置いた。


「お待たせしました!

 オレはこれで失礼します!!」


 クルリと踵を返す亜嵐の腕を、白銀が捕らえた。


「…………ッ! 何だよ! 離せよ!!」


「…………やっと目が合った――」


 瑠璃色と菫色がかち合う。


「…………はぁ?」


「弁当――美味かった」


「…………っ!」


「玉子焼きも、今まで食べた中で一番美味かった」


 白銀の指先が、弁当箱を愛おしそうになぞる。  


「……そ、そうかよ!」


(赤くなるな! 赤くなるな!

 オレの顔、赤くなるなー!!)


(今まで食べた中で一番だなんて嘘に決まってる!)


「……し、白銀閣下は嘘が苦手なんですね!」


 亜嵐は憎まれ口を叩く。


「……俺は嘘はつかん。

 特に、お前にはな――」


「…………はぁ!? どーゆー意味ですか!?」


(意味が分からん!! と言うか早く手を離せよぉぉ!!)


「……そのままの意味だ――」


「…………くっ……」


「あの……、そろそろ手を離してくれませんか!?」


 ぐいっ、と腕を引かれ、白銀との距離が縮まる。

 息が、顔にかかる距離。


「こんな所、誰かに見られたら誤解される――っ!」


 白銀の視線が亜嵐の唇に落ちる。


「……誤解など、させておけばいい」


「何を……!!」


「……俺は、気にしない――」


(いや、気にしろよぉぉぉぉぉ!!!)


 亜嵐の顔が引きつる。

 それに反比例して、白銀の口元が緩む。


「――そうだ、亜嵐少尉。

 今夜、弁当の礼に“オムライス”を食べに連れてってやる」


「はぁ? オムライス!?」


「俺の行き付けの店だ――」


「そ、そんなことは聞いていない!」


(コイツ、オレが見合いで食べたいと言ったの覚えてたのか……!?)


「ただ、午後から最優先に片付けなければならない仕事がある。

 一度、外出する。俺が戻るまで軍にいろ――」


「………………」


「返事は?」 


「くっ……。はい、分かりました、白銀閣下――」



✕✕✕


 昼休みが終わり、亜嵐は大部屋で先週捕らえた暴動についての報告書を書き上げていた。


(週明けには提出出来ると言った手前、今日中にやらないと――)


(それにしても“おむらいす”か――)


(龍生副官に玉子焼き食べられたからちょうど腹が減ってたんだ)

 


「おい、龍ヶ崎少尉、大将閣下にお茶出しに行ってからなんだか機嫌よくないか?」


「行く前はあんなにガチガチに緊張してたのにな……」


「大将閣下と何かあったのか……?」


「おい、そこ! 何をコソコソ話してる!」


「なんでもありません! 上官殿!!」


 こうして、午後はつつがなく時間が過ぎていったのだった。



✕✕✕


 ――ファン、ファファファ、ファン。

 

 日が沈み、空が黄昏色に染まる時、陸軍省に十七時の課業終了を告げる喇叭の音が寂しげに響き渡る。


「よし! 今日もよく働いた!」


「これから飲みに行くぞ」


 大部屋の先輩や同僚たちが次々と帰り支度を進める。


「龍ヶ崎少尉も来るか?」


 同僚がからかいながら声をかける。


「龍ヶ崎はダメだ。まだ未成年だから酒は飲めん」


「そっかぁ、大将閣下のことを聞きたかったが、また今度だな!」


「……二度と聞くな!」


 亜嵐は菫色の瞳を吊り上げる。


「おお、怖い怖い」


「ではまた明日な!」


 同僚の賑やかな声が去り、ガランと静まり返る。


『俺が戻るまで軍にいろ――』


 白銀の言葉が頭の中で反復する。


(報告書は出来たし、“おむらいす”がなければもう帰りたいんだが……)


 ――ジリリリリ。ジリリリリ。


 大部屋の黒電話が鳴り響く。


(今オレしかいないし、仕方ない。出るか――)


「はい、こちら第一執務室、龍ヶ崎少尉。何かありましたか?」


「ああ、ちょうどよかった!

 今、龍ヶ崎少尉あてにご実家からお電話です」


「え? はい。分かりました」


(なんだ? 龍ヶ崎家(うち)から電話だなんて珍しい――) 


「では、お繋ぎしますね――」


『亜嵐坊ちゃまですか!?』


「ああ」


『私です。女中頭の真夜(まよ)でございます』     


「どうしたんだ? 真夜。軍に電話だなんて――」


『それが、今しがた軍の黒塗りの公用車がお屋敷の前に停まって……!

 停まったと思ったら車の中から桐の木箱が出てきて、その中からたくさんの百円札が……!!

 百円札が千五百枚入ってて……!!』


「ちょ、ちょっと待て真夜。何を言っているのか意味が分からない――」


『つまりですね! 亜嵐坊ちゃま! 十五万円の結納金テロです!!』


「十五万円結納金テロ!?」


『昨日、()様とお見合いされた将校様がお付きの方に桐箱を運ばせてて……!!』


(……っ、白銀!?)


『桐箱を運ばれた将校様が“白銀家からの結納金です”と仰るもんで、旦那様と奥様が恐る恐る桐箱を開けられると……、結納金の目録と大金が入っていて……!!

 旦那様は腰を抜かされて奥様は高笑いが止まらなくなっておいでです!』


(桐箱を運んだ将校様……龍生副官か?)

 

(それにしても義両親の慌てよう……。想像がつく――)


(そりゃあ十五万円だなんて、家が何軒も建てられる額を間近で見せられたらあの二人なら踊り狂ってもおかしくはない――)


「まぁ、その結納金から元々あった借金一万五千円を返済しても、まだまだお釣りが来るってことだな――」


『はい! なので旦那様は今夜はすき焼きだと仰られて……。わたくしたち使用人も食べていいと……』


「よっぽど嬉しかったんだろ。すき焼きなんて、いつも食えるもんじゃないんだ。真夜もたらふく味わうといい――」


『亜嵐お坊ちゃま――!

 こんな大金を積む程、()様が魅力的だと言うことですね。

 ……くれぐれもご無理はされませんよう――』


「……ありがとう、真夜。()にも伝えておくよ」


『はい――。

 それでは、また――』


 亜嵐は静かに受話器を置く。


「まったく、白銀が言ってた()()ってこの事か?

 ……それにしても結納金で十五万円も普通払わんだろうっ!」


(庶民なら、一生遊んでいられる金額だぞ!?)



 

「――今、十五万円結納金テロと言ったのはお前か?」


「……え?」


 静まり返った大部屋に、紺碧の髪に浅葱色の瞳を持つ将校が現れた。


「か、海軍大将・清野(セイノ)閣下!!

 なぜ海軍のあなたがこんな所に……!?」


「なぁに、少し人を探していた――。

 貴様が亜嵐少尉だな――?」


 浅葱色の冷たい瞳が、猛禽類のように光る。 




最後までお読みいただきありがとうございます!


ついに海軍大将・清野閣下が登場し、第一執務室(大部屋)が一気に緊迫した空気に……!


そして白銀閣下の「十五万円(現代で言うと数億円レベル!)」という凄まじい額の結納金テロ、愛の重さと財力がぶっ飛んでいます笑


もし「白銀閣下規格外すぎる!」「清野閣下カッコいいけど怖い!」と楽しんでいただけましたら、画面下部にある【☆評価】や【ブックマーク】で応援していただけると、執筆の物凄い励みになります!


次回、この海軍大将の目的とは……!?

どうぞお楽しみに!

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