07 あなたは嘘が下手
その沈黙が、妙に息苦しかった。
ルーシャは視線を逸らすように窓の外を見る。
帝都の空はまだ淡く赤く染まっているのに、胸の内だけが冷えていく。
「……あなたは」
静かな声が零れる。
「最初から全部知っていたの?」
セイレンは否定もしなければ、肯定もしなかった。
「護衛として任を受けた時点で、ある程度は」
「どうして私の護衛を引き受けたの?」
その問いに、セイレンはすぐには答えなかった。
窓の外では、夕暮れの最後の光がゆっくり夜に呑まれていく。白銀の髪だけが淡く照らされ、その顔は相変わらず感情を見せない。
「命令だったからです」
まるで最初から用意されていた答えのようだった。
「……それだけ?」
「それ以上の理由が必要ですか?」
冷たい返答に胸の奥が痛む。
だが同時に少しの違和感が残る。
彼は何かを隠している。
本当にそれだけならどうして彼は一瞬だけ答えに躊躇ったのだろう。
「あなた、嘘をつくのが下手なのね」
考えてもいなかった発言だったのだろう。セイレンの青い瞳が大きくなる。
「なぜ、そう思われるのですか?」
静かに返された声は、落ち着いていた。
けれどルーシャは気づいていた。
ほんの僅かに。
本当に僅かにだけ、その声が硬い。
ルーシャはふっと笑みを零す。
「だって、あなた」
母の髪飾りを指先で撫でながら、ゆっくりと言葉を続けた。
「いや、なんでもないわ」
セイレンは、小さく息を吐く。
「……観察がお好きなのですね」
「護衛騎士が怪しい人だったら困るでしょう?」
冗談めかして返すと、セイレンはわずかに視線を逸らした。
「怪しい、ですか」
「少なくとも普通ではないわ」
ルーシャは静かに彼を見る。
「まるで、“これから起きることを知っている人”みたい」
その瞬間だった。
セイレンの呼吸が、ぴたりと止まったのは。
蝋燭の火が揺れる。部屋に落ちた沈黙は、先ほどまでとは違う重さを帯びていた。
ルーシャは思わず目を瞬かせる。
今、確かに。
初めてセイレンが動揺した。青い瞳が静かに揺れている。けれど彼はすぐに目を伏せ、感情を押し隠すように口を開いた。
「……買い被りです」
低い声。だが余裕はない。
ルーシャは小さく首を傾げる。
「そうかしら」
「北部を知る人間なら、誰でも危険は予想できます」
「でもあなた、“予想”している人の話し方じゃないわ」
静かな指摘だった。
セイレンは答えない。
その沈黙が、逆に何かを肯定しているようだった。
やがて彼はゆっくりルーシャへ視線を戻す。
青い瞳の奥に、今まで見えなかった影が落ちていた。
「……殿下」
低い声。
「これから先、誰を信じるかは慎重にお決めください」
「それは、あなたも?」
その問いに、セイレンは一瞬だけ言葉を失った。
そして……。
「特に、私を」
静かにそう告げた。




