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05 語らぬ騎士

扉のそばにいる騎士はルーシャが近づくと一礼し、扉を開ける。


私を死なせないため……?

奇妙な言葉がルーシャの中で広がる。


「それはどういう意味……?」


そばを歩くセイレンに問いかける。


「他意はありません。あなたを守るということです。」


表情が一切変わらない男は淡々とそう告げた。


「……それだけには聞こえなかったわ」


ルーシャは小さく呟く。

セイレンは前を向いたまま歩き続けた。


「考えすぎです」


「でも、“死なせないため”なんて普通は言わないでしょう」


「普通ではないので」


あまりにも淡々と返され、ルーシャは言葉に詰まる。廊下を吹き抜ける風が、白銀の髪を静かに揺らした。


「……ミエルタは危険なの?」


思い切って問いかけるが、セイレンはすぐには答えなかった。


ただ一定の歩幅を崩さず、静かな足音だけが廊下に響く。その沈黙が、かえってルーシャの胸をざわつかせた。


「護衛が必要な程度には」


ようやく返ってきた声は、驚くほど平坦だった。


「それは私が皇女だから?」


「ええ」


セイレンは短く答えた。


「この国は、殿下が思っているほど安定していません」


「……どういう意味?」


セイレンは前を向いたまま続ける。


「北部には魔物の出る領域があります。国境線も安定していません」


そこで一度だけ間を置く。


「護衛が必要なのは、そのためでもあります」


その言葉のあと、セイレンはそれ以上何も言わなかった。

歩く速度も視線も変わらない。


まるでそれが“これ以上は話すべきではない”という答えそのもののように、沈黙だけが続いていく。


この帝国には魔物が存在することくらい私も知っている。

ミエルタが敵国との国境沿いにあり安定していないことも。


そんな当たり前のことを聞いているんじゃない。


なぜ彼はこうも淡々と答えるだけで、そこから先を閉ざすのだろうか。


言葉は届いているのに、その向こう側には触れさせてもらえない。

この城のことも、この帝国のことも私はまだ、何も知らないままだ。


———


迎えの馬車がすでに到着しており、セイレンは当たり前のようにルーシャへ手を差し出す。


骨ばった手は、年相応という言葉からどこか外れて見えた。


どれほどの時間、剣を握ってきたのだろうか。


この男は、私とはまるで違う場所を生きている。


そう思った瞬間、理由のない違和感が胸に残る。


馬車の中へと乗り込むルーシャの背を、セイレンは静かに見送った。


そしてセイレンは扉に手をかける。


「あなたは乗らないの……?」


その言葉に、セイレンの表情がほんの一瞬だけ揺れた。

理解と判断の間に、小さな“間違い”のようなものが差し込む。


だがそれは次の瞬間には消えていた。


「私は馬に乗るので」


平坦な声。


セイレンはそれだけを残し、扉を閉めた。

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