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14 消えない瘴気

「失礼いたします」

扉の奥には2人の人物がいた。1人は白髪混じりの壮年の男。宮廷医師の証である銀の徽章を胸につけている。もう1人は紺色のローブを羽織り宮廷医師と同じく証である徽章をつけた魔導士だった。


「殿下はこちらです」

セイレンが寝台へ2人を案内すると医師がすぐさまルーシャの診察を始めた。

額へ触れ、脈を測り瞳の様子を確認する。しかし、診察を進めるほど男の表情は険しくなる一方だった。

「何か分かりましたか」

セイレンの問いに宮廷医師は首を横へ振った。


「脈や瞳からみても異常はありません。また毒や感染症の兆候もないでしょう。ですが熱だけが異常に高いです。」

「原因は」

「申し訳ございません。私の診る限りでは熱が高い原因を判断できません。」

その答えに部屋の空気が重くなった。


その沈黙を破ったのは他でもない若い宮廷魔導士だった。


「私にも診せてもらえますか?」

男はゆっくりと寝台へ近づきルーシャの手にそっと手を重ねた。淡い光がふわり手を包み込み次第に身体全体へと広がる。

部屋の中を再び静寂が飲み込んだ。魔導士は口を閉じたまま意識を集中させる。


やがて光がルーシャの身体の中心に集まりわずかに強まった……。


その時———


バチッ


光が火花の様に散った。

その現象に一同は目を見開く。


「今のは何ですか?」

セイレンが魔導士へ視線を向けて問う。魔導士は何も答えず再び魔力を注ぐ。だがしばらくするとまた同じ現象が起きた。


「答えてください」

セイレンの低い声が魔導士の身体を震わせる。


「……これは、」

魔導士は両手を握りしめボソボソと呟いた。

「ありえません……。殿下の体内に何か異質な気配が存在します。」


「異質な気配?それは魔法のことですか?」


「いえ、確かに魔力の流れは存在します。しかし、この感じは…魔力による干渉ではありません。」


「どういうことですか?」


「私にも完全には分からないのですが…」

魔導士は眉間に皺を寄せながら苦し紛れに答える。


「まるで別の何かが殿下の体内に流れ込んでいます。」

部屋の空気が張り詰め、セイレンが再び口を開く。

「あの時の瘴気…」

その言葉に魔導士は顔を上げセイレンをじっと見る。


「瘴気を浴びたのですか?」

魔導士の声色が明らかに変わった。先ほどまでの戸惑いはなく、警戒と緊張の声色だった。


セイレンは短く頷く。


「黒い霧の様なものが地面を張って流れ込んできました。だが殿下だけでなくあの場にいた皆が浴びているはずだ」


「間違いありませんか?」


「はい。ただ瘴気は大量に吸わなければ一時的な症状だけのはずでは?」

その答えに魔導士は険しい表情でしばらく考え込み再び口を開いた。


「まず知っていただきたいのですが、魔法とは世界に満ちる魔力を借りて奇跡を起こす術のことです。」そういうと、男は自らの手のひらに小さな光を灯した。淡く揺れる光が部屋を照らす。


「火を生み、水を操り、傷を癒やす。様々な術がありますが、その全ては世界の理の上に成り立っています。」

男の手のひらからスッと光が消える。


「つまり魔法とは、世界が本来持つ力を正しく利用しているだけなのです。」


「ですが殿下の体内にあるものは違います。」

魔導士の声は重かった。


「私が感じた気配は魔力ではありません。世界の理に従う力ではない。」


その答えにセイレンの瞳が細まる。


「それがあの時の…」


「おそらくは……。例えるなら魔法が川の流れを利用する力だとすれば、瘴気はその川を汚し、流れそのものを変えてしまう毒です。」


「本来なら相容れない存在なのです。セイレン殿がおっしゃる通り人の身体に入り込めば拒絶反応を起こし一時的な症状が出ますが、やがて消滅するはずでした。そしてより濃いものであっても先程の聖属性の魔力が触れた時点で浄化できたはずです。」


そして苦しげに続けた。


「ですが殿下の体内にある瘴気は消えていない。まるで根を張るように体内で留まり続けています。」

そういうと魔導士は手をかざし再びルーシャに光を与えた。先ほどよりも強い光を与える。

「私が今できる最大の力で殿下の体内の瘴気を薄めます。」


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