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12 森の先の灯り

「団長、出発の準備ができました!」

1人の騎士が急いでセイレンの元へやってきた。


「一刻も早くこの場から出発する。それと近くに宿がないか別動部隊を組んで探せ。お前は布と水を」

「ハッ」

セイレンからの指示を聞いた騎士たちはまた散り散りに去っていく。


使えなくなった馬車の代わりに用意された荷馬車。そこには簡易天幕を巻かれ外からは中が見えない様になっている。

皇女を抱えたセイレンはゆっくりと身をかがめ荷馬車の中にあった野営用の簡易的な毛布を床に敷いた。


慌ててやってきた騎士から水と布をもらうとセイレンはすかさず湿らせた布をルーシャの額にそっとのせた。今も尚、熱で苦しむルーシャの顔には汗が流れている。浅く荒い呼吸が、狭い荷馬車の中に微かに響く。セイレンは濡れた布を握り直し、熱を持つ額を静かに拭った。触れた肌は異様なほど熱い。


「……殿下」


セイレンは静かに呼びかけるが反応はない。額へ置いた布はすぐに熱を持ち、冷たさを失っていく。荷馬車がゆっくりと動き出した頃だった。長いまつ毛がかすかに震えた。


「……ん……」

掠れた声。

セイレンはすぐに顔を上げた。

「殿下……?」

青い瞳がゆっくりと開かれる。ぼやけた視界の中、最初に見えたのは白銀の髪だった。


「セイ…レン…?」

か細い声。意識はまだはっきりとしていないのか朦朧としていた。


「気分はいかがですか」

「…わからない…」

喉が焼けるように痛い。身体の奥に燻るような熱も消えてはいなかった。言葉を発するだけで息苦しかった。

セイレンは水袋を手に取りルーシャの口元へ近づける。

「少し水を飲んでください」

差し出された革袋を見てルーシャは小さく首を振った。

「ほんの少しで構いません」

静かな彼の声に促されてルーシャはゆっくりと口を開いた。冷たい水が喉を通る。それだけで少し意識が戻る感覚がした。


「……ありがとう」

小さく礼を言うがセイレンは何も言わず水袋の口を閉じた。その時だった。


外から馬と蹄の音が近づいてくる。


「団長!」


セイレンが天幕を少し開く。外には息を切らした騎士が馬に跨ったまま立っていた。


「ここから半刻ほど先に小さな宿場があります!」騎士は荒い呼吸のまま続けた。

「街道沿いの交易宿です。部屋も確保できます!」その報告を聞いた周囲の騎士たちの表情がわずかに緩む。

このまま移動と野営を続けるのは危険だ。

セイレンは小さく頷いた。


「進路を変更する。先行隊を出して周囲を確認しろ」

「ハッ!」

「それと今すぐ皇城へ早馬を送り宮廷魔法使いと医療術師を呼べ。」

王城から出発してまだ数日、北部からの援助を待つより王城の方が早いだろう。騎士はすぐに馬首を返して駆けていき荷馬車の中に再び静寂が戻る。


「……宿?」

ルーシャは弱々しく呟いた。

「えぇ」

セイレンは天幕を閉じながら答えた。


「少し休めます」


その言葉を聞いた途端、張り詰めていた緊張が切れたのか、ルーシャの瞼が再び重くなる。


「……そう……」

安心したように小さく息を吐く。

セイレンはそんな彼女を静かに見つめた。


やがて荷馬車は速度を上げ、薄暗い森の奥へ続く街道を進み始めた。遠くには小さな灯りが見え始めていた。北へ向かう旅路の中で、ようやく見つけた束の間の休息だった。

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