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11 黒き瘴気

セイレンは周りの騎士たちに殿下を頼むと一言言い残し、再びローブの魔導士めがけて剣を構える。


「もう十分だ」


そう呟いた魔導士は不吉な笑みを浮かべる。刹那、地面に黒い紋章が浮かんだ。セイレンは魔導士の不穏な動きを察しすぐ応戦体制になるがセイレンの動きよりも先に魔導士は瞬時にその場から突然いなくなった。


消えた……?!


まるで魔導士は最初からその場にいなかったかの様に、そこには何の痕跡も残っていなかった。


「……チッ」


感情を表に出さないセイレンが舌打ちをした気がした。


あれ……?なんだろう……?前がぼやけて見える……。

ルーシャの足元がふらつき、視界が大きく揺れる。それと同時に酷い耳鳴りが襲った。


「殿下……?」

近くにいた騎士の声。返事をしようにもうまく言葉にできなかった。

頬が焼ける様に暑いのに指先は驚くほど冷たかった。


「……ッ」

一歩踏み出した瞬間、足の感覚はなく身体から一気に力が抜ける。


倒れる

そう思った刹那身体を強く支えられた。


「殿下!」

その声の主はセイレンだった。いつの間に戻ってきていたのか。彼は咄嗟にルーシャを抱き止め、その顔を覗き込む。

青い彼の瞳が私を見ているのかしら…?いまだに視界は不安定だ。


「顔色が……」

言葉にしたい。なのに喉が焼ける様に熱く言葉が出なかった。息苦しく、胸の奥が痛い。


「……瘴気か」


何…?なんて言ったの?


ルーシャの耳は酷い耳鳴りでほぼ聞こえない状態だった。


「セイレン…私……」

かろうじて出た言葉も声になっている中さえ分からなかった。


「ゆっくりで大丈夫です。ゆっくり呼吸をして。」

その言葉を最後にルーシャの瞳はゆっくりと閉じた。


「殿下……?!」

周囲の騎士たちの間に動揺が広がる。

「大丈夫だ…。眠っただけだ」

「しかし団長、瘴気を吸ったとなれば……」


魔物の住処や呪術に関わる場所に漂う“死の気配”。

それが瘴気。


「急いでこの場を離れる」

「ですが、残党は…」

「追うな」

セイレンの低い声は騎士たちの背中を震わせた。

「奴らの目的は殿下だ、第二波が来る可能性もある。」

誰も反論はしなかった。北部騎士たちは即座に周囲を警戒しながら陣形を組み直していく。

男は倒れ込むルーシャの膝に手を回しふわりと宙へ浮かせた。


「団長、あなたも早く怪我の手当を」

ルーシャを運ぶセイレンを見た1人の騎士が不安そうに近づく。

「あとだ」

肩から流れる血は激しくなる一方だった。それなのに彼は気にした様子すらない。


「馬車を替えろ」


セイレンはルーシャを抱えたまま短く命じる。


「この馬車はもう使わない」


先ほどまでルーシャが乗っていた馬車は、黒い矢と炎の痕で酷く傷ついていた。木板は焼け焦げ、瘴気のような黒い靄がまだ薄く残っている。


セイレンの指示を聞いた騎士たちは即座に動き出した。


「北側の街道へ迂回します!」

「負傷者は後方へ!」


飛び交う声の中、セイレンだけは一切周囲に気を取られない。その青い瞳は、腕の中のルーシャだけを見ていた。


熱い。


抱き抱えた身体が異常なほど熱を持っている。


「……瘴気の侵食が早すぎる」

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