6話 失ってから気づくのは、あまりに遅すぎて
数ある作品の中から本作をお選びいただき、ありがとうございます。
拙い部分もあるかと思いますが、最後までお楽しみいただければ嬉しいです。
6話 失ってから気づくのは、あまりに遅すぎて
王都の北端にある、荒れ果てた更生施設。
かつての栄華を失い、ピンク色の髪もすっかり色褪せた元アルマード公爵は、石壁に囲まれた独房で、一枚の新聞を握りしめていた。
そこには、辺境で開催された「魔導収穫祭」の様子が映し出されていた。
写真の中で、眩いばかりの笑顔を見せるケイト。その隣で、穏やかに微笑みながら、土魔法で豊かな大地を耕しているディーン。
「……あんな顔、家では一度も見せなかった……」
彼は思い出す。
六歳のケイトが、小さな手で一生懸命に描いた自分の似顔絵を。「お父様、お仕事頑張って」と差し出されたそれを、無能の落書きだと破り捨てたあの日を。
八歳のディーンが、妹を恋しがって泣いた時、「弱者は切り捨てろ」と冷たく突き放した自分の声を。
彼の手元には、辺境伯から届いた一通の書面がある。
それは謝罪を受け入れる言葉ではなく、たった一行の「事実上の死刑宣告」だった。
『お前の娘は、今や我が領地の、そして国の宝だ。お前という濁った過去が、彼女の清らかな風に触れることは二度とない』
「私が……私が間違っていた。ケイト、ディーン……頼む、戻ってきてくれ……!」
彼が震える声で叫んでも、返ってくるのは冷たい風の音だけ。
彼を縛るのは、かつて自分が愛娘にかけようとした「孤独」という名の、解けない呪いだった。
一方、王都から遠く離れたアイゼンガルド辺境伯領。
そこには、王都の窮屈なドレスを脱ぎ捨て、動きやすい魔導作業着に身を包んだ私の姿があった。
「お兄様! そこ、もっと土を盛り上げてくれないと! 水が溜まっちゃうわ!」
「わかっている、ケイト。……だが、これ以上土を盛ると、隣の村まで堤防が繋がってしまうんだが?」
ディーンは額の汗を拭いながら、杖を振るう。
学園では「氷の公子」と呼ばれた彼の土魔法は、今や辺境のインフラを支える「土木の守護神」として領民に拝まれていた。
「お兄様、お疲れ様。はい、特製のミント水よ」
私が風魔法でキンキンに冷やした水を渡すと、彼は美味しそうに喉を鳴らす。
「ふぅ……。王都にいた頃は、こんなふうに自分の魔法が誰かの役に立って、直接『ありがとう』と言われるなんて想像もしなかった。……あんな家、もっと早く捨てればよかったな」
「うふふ、そうでしょう? ここは風も水も自由なんですもの」
辺境伯の孫バカが止まらない
「ケイト! ディーン! 休憩にせんか! 今日の獲物は最高級の『スノーグリフォン』だぞ!」
向こうから、巨大な獲物を片手で引きずりながら、おじい様がやってくる。
辺境伯は、優秀な孫二人が領地に来てからというもの、若返ったのではないかと思うほど元気だ。
「じい様、それはまた……。解体するだけでも日が暮れますよ」
「何を言う! ケイトの水魔法なら一瞬だろう? その後はディーンの土窯で蒸し焼きだ! 家族で囲む食卓に、これ以上の贅沢はないわい!」
夜。
暖炉に火が灯り、テーブルには溢れんばかりの料理が並ぶ。
かつて王都の屋敷で、冷え切った空気の中、無言で食べていた食事とは正反対の光景。
「ねえ、お兄様。明日は北の山まで、新しい魔力水晶を探しに行きませんか?」
「いいだろう。だが、あまり無茶をして山を吹き飛ばすなよ?」
「失礼ね。あれは『整地』って言うんですわ!」
笑い声が響く。
窓の外では、心地よい夜風が木々を揺らしていた。
過去の呪縛はすべて風に消え、私たちの前には、どこまでも自由な大地が広がっている。
もう二度と、この温もりを離さない。
私は、隣で笑う兄の手をギュッと握りしめました。
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