7話 それぞれの風、それぞれの土
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7話 それぞれの風、それぞれの土
辺境の生活も数年が過ぎ、私たちはすっかりこの地に根を張っていた。
かつて王都で凍りついていた私たちの心は、今、別々の温もりに触れようとしている。
ケイトの恋。
私の前に現れたのは、祖父の片腕である若き騎士団長、レオンだった。
彼は王都の貴族のようなおべっかは使わない。私が風の魔法で魔物をなぎ倒せば、「見事だ」と短く笑い、泥だらけになった私の頭を大きな手でわしゃわしゃと撫でる。
「ケイト、明日は国境の巡回だ。お前の風がないと、俺の馬は速く走れないからな」
ぶっきらぼうな誘い文句。けれど、その瞳には私を一人の令嬢として、そして一人の魔導師として慈しむ光がある。
お兄様とは違う、守られるのではなく「共に戦う」喜びを、私は彼との間に見つけ始めていた。
ディーンの恋。
一方、お兄様の隣には、領内でも評判の薬師の娘、エレンがいた。
彼女は、お兄様が「元公爵令息」であることなど露ほども気にしない。むしろ、お兄様が土魔法で開墾した畑で、薬草の育ちが悪いと本気で彼に説教をする唯一の女性だ。
「ディーン様! ここの土、また固すぎます! もっと愛情を込めて解してくれないと、薬草が泣いていますわ!」
「……すまない。エレン、君の言う通りだ。もう一度やり直そう」
あの冷徹だったお兄様が、困ったように、けれどどこか嬉しそうに頭を掻いている。
理論と効率で生きてきた彼を、彼女のひたむきな情熱が、ゆっくりと、けれど確実に溶かしていくのを私は知っていた。
絆は消えず、愛は広がっている。
ある日の夕暮れ。
私とお兄様は、領地を一望できる丘の上で並んで立っていた。
「……ケイト。レオン団長と、明日も遠出だそうだな」
「お兄様こそ、エレンさんに新しい薬草園の設計図を催促されていたじゃないですか」
私たちは顔を見合わせ、同時に吹き出した。
あの日、王都の学園で絶望の中にいた私たち。今はもう、お互いの背中だけを追いかける必要はない。
「お兄様。私たちはもう、一人で立って、誰かを愛せるようになりましたね」
「ああ。……だが、もしレオンがお前を泣かせるようなことがあれば、私は迷わずこの大地を割って彼を埋めるがな」
「ふふ、その時は私の嵐で、お父様みたいに打ち上げ花火にしてあげますわ」
血の繋がった兄妹として、世界で一番の味方であることは変わらない。
けれど、その絆を土壌にして、私たちはそれぞれ別の花を咲かせようとしている。
「さあ、帰りましょう。大切な人たちが、待っているわ」
私は風を纏い、お兄様は土を蹴る。
重なり合うことのない、けれど並んで進む二つの道。
その先には、私たちが自ら選び取った、光り輝く未来が待っていた。
完結
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