5話 自業自得の打ち上げ花火
数ある作品の中から本作をお選びいただき、ありがとうございます。
拙い部分もあるかと思いますが、最後までお楽しみいただければ嬉しいです。
5話 自業自得の打ち上げ花火
王都の夜空に、ひときわ大きな「辺境最高!」という火花が散った。
アルマード公爵邸のテラスでは、喉を押さえて悶絶する父様と、右往左往する医師たちの姿があった。
「……ッ!?(ドォォォン!)」
彼が怒りに任せて私を罵ろうとするたび、口からは七色の煙が吹き出し、耳からは陽気なラッパの音が鳴り響く。
私がかけた『因果応報・デリバリー』は、ただの沈黙の呪いではない。
「私に対して抱いた悪意の総量」を、「強制的な賞賛と祝祭の音」に変換する高等術式だ。
「閣下、落ち着いてください! 喋れば喋るほど、邸の屋根が火花で焦げていきます!」
「……ッ、……ッ!!(パラリラ、パラリラ!)」
翌朝、王都の新聞にはこう書き立てられた。
『アルマード公爵、突如として辺境狂い(フォロワー)に転向か? 深夜に及ぶ爆音の辺境賛歌。近隣住民からは苦情の嵐』
数日後、公爵は呪いのショックでやつれ果て、何とか魔法騎士団の解呪班によって「爆音機能」だけは取り除かれた。しかし、代償として彼の自慢だった豊かな髪は、呪いの余波でショッキングピンクの天然パーマに固定されてしまった。
そんな中、彼は学園にいるディーンに一通の「命令書」を送った。
『ケイトを即刻、地下牢へ連行しろ。逆らうなら廃嫡だ』と。
だが、それを読んだディーンは、学園の事務室で静かにその紙を破り捨てた。
「お兄様、お父様からお手紙?」
私が顔を出すと、ディーンはかつてないほど清々しい笑顔で言った。
「ああ。ただのゴミだ。……それよりケイト、私は決めたよ。私はアルマードの家督を継ぐのをやめる。公爵家は、あのピンク色の頭の男と一緒に滅びればいい」
「あら、潔いわ。じゃあ、辺境に来ます? おじい様なら『土魔法の使い手なら、ちょうど新しい開拓地の地盤固めに欲しかったんだ』って大喜びすると思いますわ」
「……土魔法を土木作業に使うのか。だが、今の私にはそれが一番似合っている気がするよ」
自分の命令が無視され、さらに「跡取り」であるはずのディーンから「絶縁状」が届いた時、公爵はついに正気を失った。
「おのれ、あの出来損ないの娘……! 辺境伯の力など、王家に泣きつけば……!」
彼は最後の望みをかけて、国王陛下への謁見を申し入れた。
だが、彼を待っていたのは陛下の慈悲ではなく、冷徹な事実だった。
「アルマード公爵。そなた、辺境伯から届いた報告書を読んでおらぬのか?」
「報告書……? いえ、まだ……」
「そなたの娘、ケイト・アイゼンガルドは、学園の演習で王都の防壁を強化する理論を証明した。さらには、そなたが送った刺客を返り討ちにし、国家反逆罪にも相当する『禁忌の呪術』を公爵家が秘匿していた証拠まで突きつけてきたのだ」
王様の横には、なぜか茶をすする祖父・辺境伯の姿があった。
「いやあ、うちの孫娘は優秀でな。公爵殿、娘を『無能』と決めつけて追い出した割には、その娘に家の不正をすべて暴かれるとは……まさに自業自得、というやつだな。カカカ!」
公爵は膝から崩れ落ちた。
爵位の剥奪、資産の没収。そして何より、彼が軽蔑していた「魔力が薄い娘」に、その魔力によってすべてを奪われるという屈辱。
「お兄様、見てください! 辺境行きの馬車、特等席を予約しておきましたわ!」
「……ああ。王都の窮屈な椅子より、馬車の揺れの方がずっと心地よさそうだ」
学園の正門。
ピンク色の髪で収容所へ送られていく元公爵の背中を、私たちは一度も見送ることなく、辺境行きの馬車に乗り込んだ。
私の隣には、もう氷の仮面を被っていない、少しだけお節介な兄。
そして、私の手の中には、どんな呪いも、どんな鎖も断ち切る自由な風。
「さあ、お兄様。辺境での生活は忙しいですよ? まずは私の護衛兼、お茶会用の美味しいお菓子作りから覚えていただきますからね!」
「……私はいつから、公爵令息からお抱えパティシエになったんだ?」
馬車は、高く澄み渡った青空の下、力強く走り出した。
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