4話 実家からの刺客は、とっても「軽かった」
数ある作品の中から本作をお選びいただき、ありがとうございます。
拙い部分もあるかと思いますが、最後までお楽しみいただければ嬉しいです。
4話 実家からの刺客は、とっても「軽かった」
平和な(?)学園生活を揺るがす影は、意外な場所から現れた。
放課後、私が購買部で「辺境直送・激辛干し肉」を買い占めていた時のことだ。
「……見つけたぞ、一族の恥晒しめ」
背後から声をかけてきたのは、実家のアルマード公爵家が飼っている暗部「影の牙」の面々だった。
彼らは父・公爵が「言うことを聞かない娘を連れ戻し、無理やり政略結婚させる」ために放った刺客。
全身を黒装束で包み、いかにも「裏稼業です」という空気を醸し出している。
「お父様も相変わらずね。こんな公衆の面前で、恥ずかしくないのかしら」
「黙れ! 公爵閣下の命により、その不遜な口を呪術で封じ……――」
刺客が不気味な呪いの呪文を唱えようとした、その時。
彼らの足元から、ボコボコと不吉な泥が噴き出した。
「なっ、なんだ!? 動けん!」
「お兄様?」
現れたのは、顔色の悪いディーンだった。彼は土魔法で刺客たちの足場を固め、そのままコンクリート詰めのように固定してしまった。
「ケイト、逃げろ! こいつらが使うのは『血の呪縛』だ。公爵家の血を引く者なら、抗うことは……」
「お兄様、胃薬飲みました? 顔色が土魔法と同じ色ですよ」
私は平然と刺客の一人に近づき、その額を指先でツンと突いた。
「この程度の呪術、辺境の冬に比べれば、冷たいかき氷を急いで食べた時の頭痛より軽いですよ」
「さて、お父様。娘に呪いを送るなんて、お行儀が悪いわ」
私は刺客が放とうとした「声を奪う呪い」を、人差し指一本で受け止めた。
指先でくるくると回る黒い霧。これが、アルマード公爵家に伝わる禁忌の呪術。
「ケイト! 触るな、それは術者にしか解けない――」
「お兄様、魔法には『等価交換』と『ベクトル』という概念があるのをご存知?」
私は風魔法で、その呪いの塊を極限まで圧縮した。
さらに、水魔法のレンズで太陽光を集め、呪いに「熱」というエネルギーを添加する。
「辺境流・挨拶の作法――『因果応報・デリバリー』!」
私が指をパチンと鳴らすと、黒い塊は音速を超え、王都の中心にある公爵邸へと飛んでいった。
狙いは正確。お父様が今まさに、豪華な椅子に座って「ケイトは今頃泣き叫んでいるだろう」とワインを飲んでいる、その口の中だ。
その数分後。
アルマード公爵邸では、大騒動が起きていた。
「……っ!? ……っ!!」
公爵は、自分の声が一切出ないことに気づき、顔を真っ赤にしてのたうち回っていた。
しかも、ただ声が出ないだけではない。
ケイトが「風」と「熱」を混ぜたせいで、彼が何かを喋ろうとするたびに、**口から派手な花火と『辺境バンザイ!』という爆音**が飛び出す呪いに書き換えられていたのだ。
「閣下! 何をおっしゃって……ドーン! パチパチパチ!(辺境バンザイ!)」
「あわわ、閣下が発火している!」
使用人たちが混乱する中、公爵は自らの呪いによって、一晩中「辺境の素晴らしさ」を爆音で夜空に打ち上げ続ける羽目になった。
学園の廊下。
刺客たちがシュールなオブジェとして中庭に飾られるのを眺めながら、ディーンは深いため息をついた。
「……ケイト。父上の呪いを、あんなふうに書き換えて送り返すなど、前代未聞だぞ」
「あら、お父様も寂しいかと思って、賑やかにして差し上げたんです。親孝行でしょう?」
「……もういい。私が間違っていた」
ディーンは、妹を守ろうと必死だった自分を笑うように、肩の力を抜いた。
この規格外の妹に、守りなど必要なかったのだ。
「お前は風だ。……どこまでも好きに飛んでいくがいい」
「ええ。でも、お兄様が飛べなくなったら、私が嵐で無理やり飛ばしてあげますからね」
「……それは、勘弁してくれ」
ようやく少しだけ笑った兄の横顔を見て、私は満足げに干し肉を噛み締めた。
辺境の風は、今日も絶好調。
王都の空を、少しだけ面白くしてあげようと思う。
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