3話 辺境令嬢の「普通」は普通じゃない
数ある作品の中から本作をお選びいただき、ありがとうございます。
拙い部分もあるかと思いますが、最後までお楽しみいただければ嬉しいです。
3話 辺境令嬢の「普通」は普通じゃない
実技演習で岩石を豆腐のように斬り裂いた翌日。
私は「目立たず平穏に過ごす」ことを決意した。辺境伯の祖父様からも「あまり目立つと王都の軟弱な貴族が気絶するからな」と釘を刺されていたのを思い出したのだ。
まずは、学園生活の基本。お友達作りである。
「あの、ケイト様……。昨日の演習、素晴らしかったですわ! 私、Dクラスのミーナと申します」
おずおずと話しかけてきたのは、少し気弱そうな男爵令嬢だった。
よし、ここは淑女らしく、親しみやすい笑顔で。
「あら、ミーナ様。ありがとうございます。あんなの、辺境では朝の寝癖直し程度のことですわ。気にしないで」
「ね、寝癖直し……?(あの超圧縮水魔術が……!?)」
ミーナ様がなぜか真っ青になって震え出した。
おかしいわ。辺境では猛吹雪を散らして道を拓くのが日常茶飯事なのに、王都の方は驚きやすいのかしら。
優雅(?)なティータイム
学園の社交場、中庭でのティータイム。
私は辺境から持参した「特製のお茶」をミーナ様に振る舞うことにした。
「これ、辺境の特産なんです。滋養強壮に良くて、飲むと魔力が活性化するんですよ」
「まあ、素敵ですわ。いただきます……――えっ、ぐふっ!?」
一口飲んだミーナ様が、突然バチバチと全身から火花を散らし始めた。
魔力が活性化しすぎて、制御が追いつかなくなったらしい。
「大変! ミーナ様、落ち着いて。今、風で冷やしますわ!」
私は慌てて風魔法を発動させた。
……が、加減を忘れていた。
ティーセットも、テーブルも、ついでに近くで優雅に読書をしていた上級生たちも、私の「そよ風(本人談)」によって地上三十センチほど浮き上がり、そのままお城の噴水までスライドしていった。
「キャアアアアア!?」
「空を飛んでる!? 誰だ、無詠唱で浮遊魔法を広域展開したのは!」
騒然とする中、私は浮き上がったミーナ様を必死にキャッチして着地させる。
そこへ、騒ぎを聞きつけた生徒会の一団――そして、眉間に深い皺を寄せた兄・ディーンが現れた。
「……ケイト。また貴様か。今度は中庭を更地にするつもりか?」
「失礼ね、お兄様。お友達と親睦を深めていただけですわ。ほら、ミーナ様も『空飛ぶお茶会なんて初めて』と感激(?)して泣いていらっしゃいます」
「……それは恐怖で腰が抜けているだけだ。というか、その茶葉……まさか、『千年雪山の魔草』か? 国宝級の劇薬を学生に飲ませるな!」
兄のツッコミが冴え渡る。冷徹な氷の公子だったはずのディーンだが、最近は私を見かけるたびに、頭を抱えて「胃が痛い」と零すのが日課になりつつあった。
そんな騒動ばかり起こしているのに、なぜか私の周囲には人が集まり始めた。
「ケイト様! さっきの突風で、詰まっていた校舎の煙突が全部綺麗になりました! 掃除の手間が省けたと、用務員のおじいさんが泣いて喜んでいます!」
「ケイト様! その怪力……いえ、高潔な魔力で、開かなくなった地下倉庫の鉄扉をぶち抜いていただけませんか!?」
どうやら、「最強すぎるがゆえに色々とおかしい辺境令嬢」という属性が、一部の生徒たちに「頼れるアネゴ」として突き刺さってしまったらしい。
放課後、私が廊下を歩けば。
「ケイト様、お疲れ様ですっ!」と、屈強な騎士科の生徒たちが一斉に直立不動で挨拶してくる。
それを遠くから見ていたディーンが、信じられないものを見るような目で呟いた。
「……なぜだ。なぜ私の妹は、入学一週間で学園の裏番長のようになっているんだ……。父上には何と報告すればいい……」
氷の公子の仮面は、もはやヒビだらけである。
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