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ちょっときいて  作者: 矢久 勝基


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女神と天使の夏祭り

 コロナで『オリンピック、パラリンピック"以外"の』催しがすべてが中止になる中、夏祭りの一つもない夏に嘆いていた娘達を見た嫁が、なんとリビングにお祭りを再現した。

 すべてハンドメイド。数日前から、子供たちが寝静まると手元でいろいろなものを作り上げていたのだ。

 ぬいぐるみを使ったボウリングゲーム、割り箸鉄砲を使った射的ゲーム、ガチャガチャの玉を使った玉入れゲーム、水風船を使った魚釣りゲーム、牛乳パックを使った金魚すくい、家のものをかき集めて作ったくじ引き……。

 数日前に娘二人に謎の手紙の招待状まで作って、祭りの存在を知らせるのだから徹底している。


 リビングとベランダを"お祭り"にしてしまった嫁は、アトラクションに加えて、たこ焼きやらから揚げやら、何種もの軽食(本物)を提供する屋台まで開店してみせる。しかもそのすべての要素をフリーでは行わせず、硬貨のレプリカまで作り出し、二人に配ることまでした。

 娘達の一瞬の喜びのために母親が行った健気な努力。……こんなことができる母親が、令和のイマドキ、どれほど存在しているだろうか。


 一方、別の意味で、幼きとはいえ娘達もイマドキの子だ。テレビは楽しい、スマホもいじれる。凝ったおもちゃもたくさんある。

 ……そのような現代っ子が、ハンドメイドのお祭りで喜ぶのかという心配はあった。

 が、ふたを開けてみれば、もらった招待状の事実が嬉しすぎて朝早くに目が覚めてしまうほどに待ちきれず、期待したいからお祭りの準備ができるまで絶対に準備をみず、目をキラキラ輝かせながらお祭りが始まるのを待ちわびて、三分に一度「今何時? (始まる時間の)十二時まであと何分?」を繰り返す、純粋な子供たちの姿があったのだ。


 この親にしてこの子あり。私自身は仕事もあって、祭りが始まる時間は席をはずしていたのだが、そのようにキラキラ輝く娘達の瞳に映ったお祭りは、私が数時間後家に帰ってきてもまったく色あせることなく行われていた。

 娘達はずっと興奮したまま、何度も何度もハンドメイドのゲームを遊び、屋台のポテトチップスを食べながら、飽きることなく祭りを楽しんでいたのである。

 嫁にも感服するが、その厚意に対して素直に楽しめる娘達の純粋さに親は嬉しくなる。

「一度遊んで終わりかと思ってた」

 嫁の予想も無理はない。もちろん私もそう思ったが、娘達はリビングに並べられた"お祭り"にいつまでも感激し、くじ引きの結果に一喜一憂しては、次のアトラクションに向けてレプリカのお金を工面して、この時間が永遠であることを願っているようだった。


 うちの娘達は決して突出した能力があるわけでもないけれども、限りなく子供らしく人生を謳歌しているように見えるし、それって子供にとって、一番の幸せなんじゃないだろうかとも思う。

 やれ習い事だ。やれ塾だ……子供の可能性を見いだすことは、確かに大事かもしれない。でも、それに劣らぬ貴重な時間を、彼女たちは今、享受している気もする。

 子供の目を輝かせた母親の機転。母親のすることに目を輝かせる子供の心の美しさ……。

 この、普段のリビングやベランダとほとんど見栄えも変わらない空間に、なんだかカミサマが降り立っているかのようだ。


 そのカミサマの存在を、娘達には忘れないでほしい。

 小さな頃、彼女達を幸せにしていたカミサマがどんな存在だったかを、彼女達が大人になった頃、かみ締めてほしい。

 そして同時に、そんなふうにずっとずっと無邪気にはしゃいでいたのは、私達を幸せな気持ちにさせてくれる天使達だったことに、私達もいつか気づくのだろう。

 ……夏の終わりに花咲いた素敵な時間はその日、お風呂に入って寝る時まで続いていた。

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