いかのおすし
みなさんは『いかのおすし』をご存知だろうか。
地元ローカルなのか、はたまた全国的に掲げているものなのかは知らない。とにかく、近所の警察が掲げている標語の一つだ。
子供たちの、不審者に対する心得であり、五条ある内容の頭文字をとって『いかのおすし』である。
その内訳として、
いか・・・(知らない人に)ついて「いか」ない
の ・・・(知らない人の)車に「の」らない
お ・・・(怖い人や嫌なことをする人に会ったら)「お」おごえを出す
す ・・・(知らない人に連れて行かれそうになったら)「す」ぐに逃げる
し ・・・(何かあったら)「し」らせる
うん……
……
…
これ、どうして「いかのおすし」にしたんだ。全国からのツッコミ待ちなのか。ツッコむことすら野暮なのか。
いや、確かに、料理の調味料の「さ、し、す、せ、そ(砂糖、塩、酢、醤油、味噌)」も意味のある言葉じゃないさ。味噌の「そ」なんてこじつけさ。
だけど、「調味の基本の「さ、し、す、せ、そ」」と言えば、語呂も悪くないし、ハウツーっぽいニュアンスがにじみ出てる感がある。
しかして「いかのおすし」。思い浮かべるのは弾力のある白い胴体(外套というらしい)と酢飯の甘酸っぱい匂いだけだ。これで不審者の対応を連想しろというのは、「ネギトロ不味いな」と聞いて「クワトロ=バジーナ」を連想するより難しい。(なんのこっちゃ)
これが「おもいだして」とか「わすれないで」とか「あぶないよ」とかなら分かるのだ。でも「いかのおすし」はないだろう。「いかの寿司」は何も悪くないのだ。いかのおすしと聞くたびに不審者を思い出されたのでは、全国のいか様に対する風評被害ともなりえないだろうか。
てか、いか様としても勘違いを呼ぶ。いかという海洋生物がどれほどの不遇の中に生きているかがこの一事でも分かりそうなものだ。
ともあれ、防犯対策を「いかのおすし」とする必然性が見出せない。別に語呂あわせで標語にすることもないのではないだろうか。誰か何か、もう少し工夫できなかったものか。
「じゃあお前やってみろよ」というのなら、替え歌大好きな未来の文豪矢久勝基、一役買ってやってもいい。もちろんただじゃやんないけどな。
なににせよ、別に「いかのおすし」という名のおかげで覚えやすくなってる標語でもなく、別に笑いが取れる語呂あわせでもない。何を持ってこんなのを採用したのか、正直理解に苦しむ。
……そう思っていた時期もありました……。
うちの魔王様(♀)は六歳、姫(4)は四歳となった。
「いかのおすし」を理解できる歳となったのと、だからこそ、私が「いかのおすし」に触れる機会ができたわけだ。
私は上記の論陣を元に、さんざんっぱら「いかのおすし」を悪し様にした。
このままではいかが勘違いされたままだと。今こそ立ち上がれ。今こそ……革命の時なのだ、……と、私はどこかの独裁者のように拳に力を込めて子供たちに語ったわけだ。
魔王様(♀)も姫(4)も、とりあえずふんふんとおりこうさんにその様を聞いていたので、私は最後に、
「だいたい、これで覚えられるか?」
と訊いてみた。
「「いか」って言われたら何を思い出す?」
そしたら、ヤツラはへーぜんと答えやがったのだ。「ついて「いか」ない」
「じゃあ「す」は!?」
「「す」ぐに逃げる~~~~」
「お!!」
「「お」おごえをだす~~」
「……」
パパ呆然。猫まっしぐら。
……ごめん、「いかのおすし」
キミこそヒーローだった……。




