魔王様(♀)、春休みのレクイエム
エイプリルフールの朝に起きてみると、春休みの魔王様(♀)がなにやらリビングを席巻している。……見れば、ハードカバーの絵本を端から順に並べていた。
「なにを作ってらっしゃるのですか?」
召使いの私の問いに、魔王様ははつらつと答える。
「お墓じゃ。分からんか?」
「墓!?」
するとこの絵本の列は墓標……。
「なんて遊びをしてるんですか!!」
「これ召使い。墓を倒してはならんぞ」
「倒しませんて」
よく見ると、広い区画には、りかちゃん人形のような女の子が二人、仰向けに寝かされている。怖い……。
「なぜお墓を……?」
すると彼女は人形の女の子の名前を挙げ、言った。
「そりゃ、キララちゃんとラブちゃんが死んじゃったからにきまっとろうが」
「死んじゃったんですか!?」
「わらわが殺した」
「……」
怖い……。
しかし思えば魔王なのだ。幼稚園のお遊戯会では"火の精霊"などという、つなぎの役に甘んじていたが、本当はいつか書籍化されるかもしれない魔王様なのだ。人形ぐらい殺すだろう。
その、仰向けに寝かされた女の子たちは、さも無念そうに空を見上げている。横になると目を閉じるようなゴージャスな犠牲者ではないので、彼女らの目はかっと開いたままだ。それが約十センチ隣で並んで寝かされている。目を閉じるまもなく殺されたのだと思えば、ひたすらに怖い。
なお、このうち、"キララちゃん"の方は魔王様(♀)のオトモダチではなく、妹の姫(4)のオトモダチだ。
彼女は最近新しく始まったプリキュアに人魚が出てくるせいか人魚ブームで、このキララちゃんに足まであるドレスを着せ、足首のところを輪ゴムで結んでいる。
こうすると輪ゴムがドレスを締め、またその先が放射状に広がるので確かに人魚のように見える。ふよふよと中空を姫(4)が泳がせれば、そこはまるで大海の一風景となる。わけだ。が……、
このようにうつろな瞳で空を仰いだまま"死んで"いると、
「この娘は息を引き取る前、どのような拷問を受けたのだろう」
と思えてしまって怖い。輪ゴムが何かの拘束具にしか見えなくなってしまうのである。
繰り返すが春休みの魔王様(♀)である。リビングに立てられた墓標をそのままに、召使い2(嫁)と姫(4)の三人で遊びに行かれてしまった。
がらんと静寂の部屋。音もない空間でカーテンに淡くさえぎられた光を受けながら、目を見開いて死んでいる二人の人形たち。
怖い……無音が怖い……。
そんな魔王様(♀)も、今年から小学生だ。大きなランドセルを背負って、一体どこまで歩いていくだろう。……間違ってもホンモノのオトモダチを「わらわが殺した」とせずに済ませてほしいところだ。
……それにしても、時がたつのは早い……。




