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ちょっときいて  作者: 矢久 勝基


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魔王様(♀)が得てきた教訓

 聞いてもらうほどの話ではないが、矢久童話のネタになりそうな教訓的題材を得たので記録のために記しておく。

 それ以前に、矢久童話というのは、自分の娘に「そういう部分を大事にしてほしい」といった意味で読ませたいと思い綴る童話群のことで、年に一作品ペースで描かれるシロモノだ。

『最後のクリスマスプレゼント』

『悪魔の残した歌』

『ぽぽちゃんのさがしもの』

 現在三作品がリリースされているが、実際子供に読ませたことはない。まぁ万が一読むことがあっても、彼女が童話を必要としなくなってからだろう。

 そういう性格を帯びた……娘が童話という概念から消えたら描かなくなるであろう、幻の作品群である。

 なお、矢久動画というものも若干存在し、これもまた存在自体が幻となっているが、よく見たら矢久童話も矢久動画も、ガンダム映画『逆襲のシャア』にでてきた『ヤクトドーガ』とほとんど音が一緒だね!!


 さて、年末のある日、魔王様(♀)は悄然として幼稚園から帰ってきた。

 理由は初めよく分からなかったが、今の幼稚園は過保護なもので、後で担任がわざわざ理由を連絡してきてくれた。

 曰く、「魔王様(♀)はカルタが強いんですけど、今日最強の勇者と当ててみたら、一方的に負けたんです」とのこと。

 いや、これしきのことで「大丈夫ですか? がっかりしてませんか?」と連絡してきてくれる時代だ。 それは同時に、そういうアフターケアがなければ怒り出すモンスターもいるということかもしれず、報告を受けた私に、別の意味での戦慄が走る。

 とにかく負けたらしい。毎日母親(嫁)に、勝利の報告をしていた魔王様(♀)にしてみれば初めての敗北であり、さぞ残念だっただろう。

 しかしその後、落ち着いてきた魔王様(♀)は、先生が連絡してきたことを知らないまま、相手が何枚、自分が何枚で負けたということを報告してきた。

 私はとりあえず、

「負けたのに、嘘をついて『勝った』報告をしなかった部分が偉い!」

 と、逆に勢いよく褒めておいた。


 それから冬休みとなった。

 年末年始の三週間というのは、本来私にとって例年修羅場なのだが、今年はコロナ渦の影響で、時間に余裕がある。

「休めるってすごいことだな……」

 と思いながら気持ちを新たに2021年に臨もうとしたら、新年早々緊急事態宣言のせいでまた休まされているわけだが。

 とにかく余裕があった。おかげで魔王様(♀)との時間をとることができた。そのため、

「よし、じゃあ今度は勝てるように練習しよう」

 と、いうことになった。


 というのも、そのカルタを使って、一月末に『カルタ大会』というものがあるらしい。

 カルタはなんとクラスの全員が一セットずつ個人所有。年末は私物はすべて持ち帰るということで、家にあったのだ。

「いっぱい練習すれば、次はきっと勝てるよ」

 魔王様(♀)はそれに乗った。そんな彼女を待ち構えていたのは、大人気ないオトナ(私)との真剣勝負である。

 まぁ、一つも容赦しなかったので私が負けることはなかったのだが、いっぱいやって、「こうやればもっととりやすいかも」みたいなのを言ってみたりして、とにかく何度も試行錯誤した。

 ……結末は読めたと思うので、もったいぶらないで言ってしまうが、それで今日、最強勇者に勝って帰ってきたのであった。


 そんな報告だけならただの親バカだが、年末に一方的な敗北となったそれが、今回勝てたということは、やはりすばらしいことだったと思う。

 いや、それより、年末に敗北したことが今日の勝利に繋がったのなら、そのことにこそ意味がある。

 つまり負けが、今日の勝利のために必要だったということ。

 年末、なんとなく勝っていたら、魔王様(♀)は努力というものを知らなかっただろう。そうなっていれば、最強勇者の方が年末に本気になって、今日の結果はまるで逆のものとなっていたかもしれない。

 今回の話は、勝ったことが大切なのではない。

「たとえ一度は負けたとしても、がんばれば勝ちは見えてくる」ということが、事実として顕在したことが、魔王様(♀)にとって、大切だったのだと思う。

 負けは大切だ。実力もないのになんとなく勝利してしまうことよりも、本当の実力を身につけた、価値のある勝利を生み出してくれる。

 もちろん、現実は甘くはなく、それでも勝てないことはある。どんなにどんなにがんばっても、勝てないこともある。

 しかし、幼稚園という限られた空間で彼女がそういう体験ができたことは非常に幸運であり、……きっとそのうち忘れていってしまうことなのだろうけれども、彼女の潜在意識の一部となった経験であってほしいと思ってやまない。

 負けは、本当の勝ちを得るために必要なのだと信じてほしい。そして、負けに諦めないでほしい。


 本当に単純な出来事で、童話のタネにしかならない話だけれども、「努力は、実る。負けも、大切な要素だ」ということを、私も覚えておきたいから、これを書き残しておきたいと思う。

 とりあえず、勝ってきた魔王様(♀)を、私は抱きしめんばかりに褒めた。

 その後、「だけど油断はするな」と言ってみる。

 『勝って兜の緒を締めよ』……それが勝利に沸き立つ彼女にどれだけ響いているかは怪しいけれども、それもこれも含めて、娘はどういう要素までを学んで、大人になっていくのだろう。

 ……実に、楽しみじゃないか。

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