衝撃の月曜日と、無自覚な特別扱い
「はぁ……今日からどういう顔して航太と話せばいいの……?」
月曜日の朝。
昇降口で上履きに履き替えながら、結愛は深いため息をついていた。
金曜日のカフェ事件から始まり、空き教室での爆音敬語逃走。思い出せば出すほど顔が熱くなり、一人で自爆悶絶しそうになる。
(うぅ……『航太』って心の中で呼ぶだけでも心臓が持たないのに……っ!)
下を向いてウジウジと廊下を歩き、意を決してガラッと教室の扉を開ける。
しかし、その瞬間に結愛が目にしたのは、いつもと明らかに違う教室の空気感だった。
なんだか朝から妙にざわついている。特に教室の中央、航太の席の周りが。
「え、佐藤くん……? 嘘、めちゃくちゃカッコよくない……!?」
「髪型変えたの? すごい爽やか! どこで切ったの?」
女子クラスメイトたちがキャーキャーと黄色い声を上げ、航太の席を遠巻きに囲んでいる。
(え……なに、何が起きて――)
人垣の隙間から見えたその姿に、結愛は息を飲んだ。
重めだった前髪が爽やかにセットされ、少しのぞくおでことすっきりした眉。元からの鼻筋の通った綺麗な顔立ちとスタイルの良さが、隠しきれずに完全に露わになっている。
暗いイメージが微塵もない、洗練された雰囲気を纏った『イケメン』がそこにいた。
「あ、うん。週末にちょっと雰囲気を変えてみようかなって……」
女子たちに囲まれ、少し照れくさそうに頭をかく航太。
そのあまりの破壊力に、結愛の胸がドクンと大きく跳ね上がった。
(ななな何が起きたの!? 週末に何があったの!? 航太が……航太が超絶イケメンになってるんだけどーーーっ!!?!?)
パニックになる脳内で、同時に猛烈なモヤモヤが湧き上がってくる。
今までは、自分だけが知っていた(と思い込んでいた)航太の優しさとカッコよさ。それが一瞬にしてクラス中にバレて、他の女子たちが興味津々に話しかけている。
(ウチだけの航太(※心の中の呼び捨て)だったのに……っ! なんでみんな群がってんの!? なんか嫌だ……嫌だ嫌だ! ウチ、何焦ってんの……っ!?)
嫉妬と焦りと独占欲がごちゃ混ぜになり、胸が苦しくて破裂しそうだ。
直視できなくなった結愛は、逃げるように背を向け、自分の席へ向かおうとした。
――その時だった。
「あ、ごめん。ちょっと失礼」
航太が女子たちの問いかけをあっさりと遮り、結愛の方へ歩き出す。
そして、逃げかけた結愛の目の前に回り込むと、真っ直ぐに視線を合わせてきた。
「星野! おはよう」
「っッ!?!?」
人垣を背にした航太が、イメチェンした超絶男前な顔面を至近距離で覗き込んでくる。
あまりの至近距離に、結愛の思考回路は完全にフリーズした。
「……あのさ、どうかな、星野」
航太は周囲の女子からの視線なんて1ミリも気にしていない様子で、少し不安そうに、でも真っ直ぐに結愛の瞳を見つめる。
「俺、変じゃないか……? ちゃんと、星野に似合ってるのか見てもらいたくてさ」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜ッッッ!!??!?!?」
耳を疑った。
周囲の女子に褒められてもどこか他人事だった男が、結愛『だけ』の評価を求めて、結愛『だけ』のために髪型を変えてきたのだと告白しているのだ。
嫉妬からの、落差100%の超・特別扱い。
結愛の脳内キャパシティは、音を立てて木っ端微塵に砕け散った。
「へ、へんじゃなィです、た、大変格好良いとおもひますッ!!」
噛み倒した謎の言語を大爆音で吐き出すと、結愛は真っ赤な顔のまま、ガタタッ!と自分の机に突っ伏した。
「えっ、星野!? 大丈夫か!? 顔、すごく赤いぞ!?」
焦った航太が「星野、熱でもあるのか?」と心配そうに肩を揺さぶってくるが、その至近距離からの声すら今の結愛には猛毒である。
「た、大変申し訳ございません……ッ! 現在、当機のメインCPUが想定外の過熱により熱暴走を起こしております……ッ! つきましては冷却処理が完了するまで、話しかける行為を一切禁止とさせていただきますッ!!」
机に顔をうずめたまま、ロボットのような棒読みの爆音敬語で応答する結愛。
完全にテンパって言語体系まで壊れ始めた様子に、周囲の女子たちは「えっ、佐藤くん何したの……?」「星野さん大丈夫……?」とヒソヒソ。
航太は「熱暴走……? 冷やす……?」と大真面目に言葉通りに受け取り、「分かった、冷たいお茶買ってくるから待ってろ!」と慌てて購買へ走っていってしまうのだった。
教室の入り口では、一部始終を見ていたリオが、ニヤニヤと口元を歪ませながら親指を立てていた。
(航太きゅん、最高のアシストありがと〜っ! 結愛、今週も頑張って耐え抜きなよ〜?)
波乱とキュン死に満ちた、新しい一週間がこうして幕を開けたのだった。




