公開尋問と、まっすぐな悩み
「で? 朝の『返事につきましては鋭意作成中』ってな〜に? 昨日のカフェで何があったのかな〜?」
昼休み、チャイムが渡る廊下を尻目に、結愛は気づけばこの中庭のベンチまで連行されていた。芝生の匂いと、真昼の陽射しが降り注ぐ静けさ。普段なら騒がしい昼休みが、今はやけに静かに感じる。
腕を組んで木陰に立つリオが、猫のような笑みを浮かべてニヤニヤと尋問を開始する。その視線の先には、両手でお弁当箱を抱えてプルプル震える結愛と、ベンチに座らされている航太の姿があった。
「な、ななな何でもないし! 日直だったからただの業務連絡だし! リオ、変な勘繰りはやめてよねっ!?」
顔を真っ赤にした結愛が、毛先を揺らしながら必死に手を振る。
「ふーん? 業務連絡ねぇ。じゃあその『業務』の中身、詳しく聞かせてもらおっかな〜?」
リオがにじり寄りながら、結愛の顔を覗き込む。逃げ場を失った結愛は、ベンチの端に追い詰められながらもさらに首を振った。
「べ、別に大した話じゃ――」
――「カフェ」という一言が、記憶のスイッチを押した。
(星野のことが好きだよ。一軍ギャルの星野じゃなくて、今こうして、真っ赤になってる初心な星野が――)
ド直球すぎる告白の記憶が容赦なくフラッシュバックし、結愛の顔面はさらに茹で上がっていく。これ以上リオに突っ込まれたら、絶対にボロが出る。
「あ、あのっ、、現在、心臓の鼓動が規定値を大幅に超えておりますため、本日の協議はこれにて終了とさせていただきますッ!!」
「えっ、星野?」
「あ、ちょっと結愛――」
航太とリオが止める間もなく、結愛は爆音敬語を言い残すと、お弁当を持ったまま猛烈なダッシュで飛び出していった。
「……あーあ、逃げちゃった」
呆れ半分、面白がり半分で息を吐くリオ。中庭の向こうに目をやると、渡り廊下を猛スピードで駆けていく金髪の後ろ姿がちらりと見えた。
一方、残された航太は肩を落とし、深いため息をついた。
「……なあリオさん。星野、やっぱり俺と話すとき、すごく緊張してるよな……?」
「まあね。見ての通り、完全にキャパオーバー起こしてるよ」
「俺、星野にそんなに緊張されるようなことしちゃったのかな……」
航太は膝の上に置いた自分の手に視線を落とし、ぽつりと呟いた。その声には、いつもの呑気さではなく、どこか切ない響きが混ざっている。
「……星野ってさ、すごく可愛くて、クラスでも人気じゃん。見た目はおしゃれだし、話すと面白いし。……でも、一方の俺はなんの取り柄もなくて、地味でさ」
自嘲気味に笑う航太を見て、リオはふっと目を見開いた。
「……星野をもっと緊張させずに、普通に仲良くしたい。……それに」
航太はゆっくりと顔を上げると、真っ直ぐな目でリオを見つめた。そこには、普段の天然な彼からは想像もつかないような、真剣な男の顔があった。
「あいつの隣に並んでも、恥ずかしくない男になりたいんだ。……どうしたらいいと思う?」
「…………」
リオは一瞬、言葉を失った。
(……っ! ちょっと待って、この男……ド直球で天然超鈍感だけど、やっぱり気持ちちょーマジじゃん……!)
結愛が「距離の縮めかた」を一人で悩んでいる裏で、航太もまた「結愛の隣に立つにふさわしい男になりたい」と本気で悩んでいたのだ。
あまりにもまっすぐで重い航太の好意に、敏腕キューピッドの血が騒ぐのをリオは抑えきれなかった。
「ふーん……。そこまで言うなら、アタシがひと肌脱いであげようか?」
ニヤリといたずらっぽく笑うリオに、航太は「え?」とパチクリと目を瞬かせる。
「決まり! じゃあ次の週末、駅前に昼の12時集合ね。アタシが知ってる美容室とショップで、結愛のドストライクなタイプにバッチリ仕上げてあげるから!」
「あ、ありがとう……? なんか助かる」
「いーのいーの! 航太は黙ってアタシに任せなさいって!」
バシッと航太の背中を叩きながら、リオは心の中で口元を歪ませた。
(ふふっ……結愛、覚悟しときなよ? 来週の月曜日、アンタの心臓爆発させてあげるから――!)




