放課後のタピオカと、あざとい罠(のつもり)
日直事件後の駅前のオシャレなカフェ。
ウチは、少し大人っぽいストロベリータピオカミルクティーを注文した。航太は普通のストレートティーだ。
(ダメだ、ここで縮こまってたら『日誌の通りウチが航太を好き』って認めるようなもんじゃん! ギャルとしてのプライドにかけて、いつも通り余裕なフリをしてやる……!)
ウチは、昨日動画配信サイトの恋愛動画で見た『男子をドキッとさせる間接キステクニック』を思い出し、震える手でタピオカのカップを航太の前に突き出した。
「ね、ねえ航太。これ、マジで今バズってて超おいしいの。……ひ、一口、飲む?」
上目遣い。声のトーンは少し高め。完璧。
ウチとしては、「からかうなよ」って航太が照れてくれれば、日誌の件も「全部ただのからかいだしっ!」と言い張る計算だった。
しかし、今の航太は、ウチが思っている以上に『男』だった。
「あ、ありがと。じゃあ、一口」
航太は全く躊躇することなく、ウチがさっきまで吸っていた極太のストローをくわえ、ズズッ、とタピオカを吸い上げた。
「ーーーッ!!?!?!」
『あ、あ、あ、あ、間接キスしたァァァァァァ!!!!!!』
違うの! 動画では『えー、いいの?』とか言って男子がドギマギするって書いてあったの! なんでこの男はノーダメージで直に吸ってんの!?
っていうか、それ、ウチの口紅(ちょっと高かったリップグロス)がついてるストロー!!
「うん、甘くて美味しいな」
航太がストローから唇を離す。その唇が、ほんのりウチのリップのせいでツヤッとしている気がして、ウチの脳内のギャル人格は完全に爆発して消滅した。
「……星野? 顔、また真っ赤だぞ」
「あ、うあ……あ……」
限界だ。もうギャルのフリなんてできない。
頭が熱すぎて、涙目になってくる。ウチは両手で頭を抱えて、オシャレなカフェのベンチでずるずるとしゃがみ込んだ。
「無理無理無理無理! キャパい! 詰んだ! 航太のばか! なんでそんな普通なの!? ウチ、もう心臓が爆発して死ぬんだけど!!」
「えっ、星野!?」
「日誌のだって、ただのからかいじゃないし! 本当に航太から日差しを浴びたお日様みたいないい匂いだと思ったし、隣の席で毎日やばいし、黒板のときだってガチでカッコいいって思っちゃったし……!!」
テンパり度がMAXに達した結果、防衛本能が完全に壊れた。
隠したかった本音が、マシンガントークとなって口から全部漏れ出していく。
「ウチ、ギャルなのに、男の人と付き合いたいとか思ったことないのにっ……! 航太のせいで、毎日少女漫画みたいにバクバクして、もう意味わかんないしっ!!」
膝に顔を埋めて、萌え袖で顔を隠しながら、ウチは半泣きで叫んだ。
全部言っちゃった。ウチの片思い、完全に大破して終了だ。
ベンチの横でちっちゃくなって、顔を真っ赤にして泣きそうになりながら本音をぶちまけてくる星野。
140センチ台の小さな背中が、緊張と恥ずかしさでぎゅーっと縮こまっている。
「……星野」
俺は、自分の持っていたストレートティーのカップを、彼女の目の前にそっと差し出した。
「お、お茶なんていらないしっ……!」
「違う。……今度は、星野が俺の、飲む?」
「へっ……?」
星野が、涙目のまま、萌え袖の間からひょこっと顔を上げた。
「星野が俺のドリンクを飲んだら、これで本当にお互い様だろ?」
「な、なにが……」
俺はしゃがみ込んでいる星野と視線を合わせるために、自分もその場に片膝をついた。
まっすぐに、彼女の大きな瞳を見つめる。
「俺さ、星野が話しかけてくれるの、すっごく嬉しかったんだ」
「……え?」
「日誌の『すきかも』って文字を見たとき、心臓が止まるかと思った。……からかってたのは、俺のほうだよ。星野のテンパる顔が、あんまりにも可愛かったから」
星野の目が、こぼれそうなくらい丸くなる。
「だから、これは冗談でもノリでもない。……俺、星野のことが好きだよ。ギャルの星野じゃなくて、今こうして、真っ赤になってる初心な星野が」
夕暮れの駅前。
ド直球の告白に、星野は今度こそ、声も出ないほど完全にカチコチにフリーズした。
「ーーーーーーっっっ!!!」
数秒の後。
星野は自分のタピオカをひったくるように持つと、一気に立ち上がって、回れ右をした。
「む、無理無理無理っ! ガチトーンは反則だしっ!! 呼吸の仕方忘れた!! ウチ、走って帰る!!」
「あ、おい! 星野、ドリンク!」
「明日!! 明日の現文の授業のときに返事するからーーーっっっ!!!」
ちっちゃな体をこれ以上ないくらいフル回転させて、夕焼けの中に猛ダッシュで消えていく星野。
その耳の後ろが、夕日よりもずっと、真っ赤に染まっているのが遠目からでもよく見えた。
俺は残されたストレートティーを一口飲み、少しだけ冷たくなった喉に息を吐き出す。
「……明日も、机ガッチャンコだな」
明日、隣の席で、彼女は一体どんな可愛い顔をして、俺に返事をしてくれるんだろう。
そんなことを考えると、俺の胸の奥の鼓動も、やっぱり明日まで止まりそうになかった。
(一部完)
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