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リーディア  作者: シュタイン
第一章 復讐を担う者
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第四十六話 スカイルーラー

「そうか、わかった」


 部下から何かを聞いてローライは小さく首を振って返答とした。


「この子の特徴に合う迷子の届け出は確かにあったがいずれもその日中に家に帰っている。ましてや、空港の記録からも天空の国の住人で子供だけで降りた記録や家族で降りた記録が見受けられない」


「そうッスか。ん?天空の国の人ってそんなに下に降りたがらないものッスか?」


 悠江は明確に肩を落としながらも、自身が抱いた疑問を言葉にする。


「ああ、そもそもこの国の住民は訳ありが多いからな。天空の国の庇護下でなければもはや生きることができない者も多い。幸いにして食料を輸入する事態には陥っていないからな。十分国としては運営できている」


「よく言えば愛国心、悪く言えば閉鎖的かな?でも、各国の文化が少なくともこの街に点在してるのはおかしくない?」


 実際に触れていなければ、知ることもできないほど精密に他国の文化や建造物、料理を作って見せているので叶未はそこに着目したようだ。


「住民達は一体どこから来たと思う?」


「それは元々、ここの生まれでは?」


「いいや、始まりはアメリカと同じ移民さ。それも各国からのな」


 悠江は驚きと共に得心がいった。墓人に事前に聞いた話では一人の異線敷く者(レイラー)によって国が浮かび成り立っていると聞いたが、では住民はどこから来たのか。

 能力が生み出しているとはさすがに考えられなかった。それは古い文献であり定説ともされる『異能限界論』に反すからだ。

 即ち、人類の異線(レイル)には一つの限界があり犯してはならない領域がある。

 そこに踏み込まないように人の能力は遺伝子レベルで自身に制限をかけているというものだ。

 実際に、一人たりとて生命を創造するに足る異線(レイル)を発現させたことはない。

 もしも、その領分を踏み越えられるのならそれはもはや新たなる歴史の転換点となることだろう。


 そのようなこともあり、悠江は住民達の由来をずっと考えていたのだが、複雑に考えるよりむしろもっと単純な話だった。

 あるいは当然なのかもしれない。

 基本的には空港に張ってあったような結界で大抵の外敵は追い払えたはずであるから、移り住むには安全性は保障されているとも言えた。

 今回の蠍は一部の例外であるかもしれないが、一度は軍を一つ追い払った実績を持つため心強いのは間違いないだろう。

 

 そして、おそらくは独自の文化の形成は各国からの移民が持ち寄った自国の文化を融合させた結果に起きた化学反応とでも言うべき現象なのだろう。


「移民がこの国にやってきて更に独自の文化を生み出していったわけッスか。それは興味深い。ある種の研究テーマになっても面白そうッス」


「大学で研究してるとこなかったっけ?」


「叶未さん、不定期でどこに現れるかもしれない天空の国を本当の意味で研究できると思うッスか?少なくとも国が出てきてすぐに動かないと間に合わない可能性もあるんスよ。研究分野に分類されてるはいいものの、資料自体も数があまりないんで日本では扱ってる専門家の頭数がほとんどいないのが現状ッス」


「じゃあ、ここの芸術品とかお土産に持って帰ったら喜ばれるかな?」


「販売されてるものならいいんじゃないッスか。展示物は流石にそこの責任者さんにぶん殴られる気がするッスよ」


「まあ展示物には手は出さないけど。ローライさん、こっち睨まないでよ!」


 何やら不穏な方向へと会話が進み始めて、叶未は弁解を述べる。

 とはいえ、ローライも冗談の類であることは理解していたので叶未を睨むのはすぐに中止した。


「っと話が大分脱線したッスけど、結局この子の身元はまだわからないってことッスかね?」


「届け出を出していないだけで迷子の可能性はまだ残っているだろう。そういう人間は数は限られているがいないことはない」


「じゃあとりあえずは、ここの主さんに会いに行く形でいいッスかね?」


「勘違いであるだけで日本の迷子の可能性もあるから引き続きお前達が彼女と同行しろ」


「へーい」


 本人が行かなければいけないと感じたのみであり、確実に出身地かは実のところよくわかっていないし、本人の移動手段や熱意に負けて同行を許したものの実際に天空の国出身であるかは担保されていない。

 故にローライの言うことは至極最もであって、今はまだ身柄を預かっておくことにした。

 ここに来たがっていた理由も判然としないため、そこを明確にしなければいけないとも悠江らは考えていた。

 

 異線敷く者(レイラー)の中には異線(レイル)の作用で第六感が優れている場合がある。

 確かなパターン化をされているわけではないものの、一部の者たちには実際に精度の高い直感が備わっている場合がある。

 それが働く場合は不定期であり、叶未のように日頃から勘が鋭く時折大規模な何かに対する正確な直感が警鐘を鳴らす場合がある。

 他にも普段は鈍くても、危機に際して直感が働くなど第六感にまで異線(レイル)が影響を及ぼすこともある。

 そういった直感とは理屈以上に頼りになることが度々ある。

 そのため、悠江も少女が何か重大な予感を感じ取ったのではないかと睨んだのだ。


「ではとりあえず、車に向かおう」


「ん?どこかに移動するのか?」


 ローライに促されても、事情を知らされる前に悠江の背に乗って、隊舎まで急いで来たため、道中合流した後どこへ行くのか説明を受けていなかった少女は疑問を口にする。


「これから行くのはこの国の主様のとこッスよ。要件は分からないッスけど、なにか話があるらしく」


「まあ捕まりそうになったら暴れて逃げるから安心して」


「それはやめてくれ」


 本気か軽い嘘のつもりであったのか叶未が茶化したようにそう言うと、心から願うようにローライは即座に口を挟む。


「ジェフリー先生はここの指揮をお願いできますか?」


「あ、ああ。任せておけ」


 まだ動揺が抜けきっていない様子のジェフリーだが、できる限りで頭を切り替えながらローライの部下達に指示を飛ばす。

 元々は憲兵団の警備顧問であったからか、周辺に潜んでいるかもしれない蠍の仲間や、崩れた瓦礫を隣接する建物に衝突させないように片付けさせるなど抜け目がない。

 更には、周囲の民家や飲食店、屋台についても吹き飛んだ建物の破片が落ちていないか民間人に被害が出ていないかについても迅速に確認させるべく、指揮を執った。


「では、我々は行くとしようか。この国の首都へ」


 ローライを先頭にして、全員で街の北側の外縁にある車に乗り込むために移動を始める。

 途中、少女が祭りで賑わっている街中をあちらこちらへと足が赴いてしまっていたので、その度に悠江と叶未で引き戻した。


 外縁に到達すると、そこには門も外壁もないというのに結界で硬く守られている気配があった。

 悠江と叶未は体感しているが、どうにも強固な結界がいくつも存在していることに何度見ても驚きを隠せない。

 一つ、小さな小屋が辿り着いた場所にはあった。

 一見すると、山小屋のようにも見えるそれは実はただのフェイクであったことに気付かされる。

 ローライが周囲を歩んで、何歩か数えたところで停止するとその場で大きく足踏みを三回、更に足の裏で円を一度描くと小屋は分解され下から一台の車が上がってくる。

 それは、装甲車とも呼べる代物で少なくとも一般的な自動車ではないことは確かだった。

 抹茶よりも濃い緑の車は、乗るには広々としているだろうがデザインが無骨に過ぎた。


 ローライの部下達はどうやら、対面にあったもう一台の車に乗るようでそちらは深い青をしていた。

 ローライが扉を開けると少女が真っ先に乗り込んだ。

 後に続いて叶未は少女と同じく後部座席に、悠江は助手席に座った。

 乗ってみると意外にもシートはふかふかで座り心地の良さが体重を完全に預けずとも理解できた。


「おお、これはなかなか」


「軍事用みたいな見た目しといてちゃんと座りやすいんだね」


 二人は各々の反応を見せるが少女は特段関心を示さず、むしろ興味は天空の国の主にあるようだった。


 早速ローライが車を走らせると後方から部下の車が追従してくる。


「この国の主とはどんな奴なのじゃ?」


 出発してしばらく景色を眺めていた少女だったが、飽きたのか前に向き直って疑問を吐き出す。

 

「そうか、記憶を失くしてるんだったな。この国の主は遍く空の支配者(スカイルーラー)の異名を持つ女王様だ」


「女の人なんスね」


「ああ、この国の統治者として苦労をされている御方だ」


「尽力じゃなくて、苦労?」


 言葉選びに引っかかったのか叶未は不意にそんなことを言った。


「いや、尽力だな。苦労は失礼にあたる、忘れてくれ」


 ローライも思うところがあったのか自らが放った言の葉を撤回する。


「普段はやっぱ執務とかしてるんスか?」


「そうだ。やっていることは各国の大統領とそう変わらん。だが、国の維持に必要な方であるため、普段は警備が厳しい上に外に出るのもままならん」


「こんな言葉しか持ち合わせて申し訳ないッスけど、大変そうッスね」


「統治者とは得てしてそういうものだ。だから、我らでお支えせねばならん」


「蠍の件も胃を痛めてそうだね」


 叶未がどこからか菓子を取りだしては車内で食べ始める。


「ちょ、叶未さん、ここ他人(ひと)の車!」


「構わん。この車にはオートクリーンの機能が備わっている。大抵の汚れは残りもせん」


 少女も横からお菓子を取って仲良く隣り合いながら食べている。


「それで、蠍についてだが確かにお心を痛めている。私も辛い決断をさせてしまうところだった。そういう意味では君たちの援軍はありがたく思う」


「それって飛空挺を墜とすつもりだった話ッスか?」


「…気付いていたのか」


「そりゃね気付くッスよ」


「何かそうする理由でもあったの?」


 これまで二人が聞こうと思いながらも聞くことができず、更にいまいちローライを信用し切れていなかった一因となる話を引き出そうとする。

 そこには彼なりの国を思っての意味があったのだが、ここで語られることはない。


「御前に行くまでは待ってくれ。俺の独断で話していい内容ではないものの含まれるからな」


 そう言って彼はその場で回答をせずひたすら運転を続けた。

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