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リーディア  作者: シュタイン
第一章 復讐を担う者
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第四十五話 素晴らしきかな人生

 天空の国、とある都にて。

 身体に獣の毛皮を羽織った一人の男は、ホテルの最上階を堂々と自らの組織で貸し切って、今窓ガラスからグラスに注いだシャンパンを喉に流しながら下を見下ろしている。

 眼下に臨む美しき景色はまだ昼間であることを忘れさせてしまうほどに輝いて見えた。

 もっとも、男が同じ見え方をしていたとは限らないのだが。

 傾ける酒は彼にとって弔いの意味を有していた。

 広がる街は、賑わいを見せるビルから中央には現代の建築物にはあまり目にすることはない明確な城とも呼べる物が聳え立っていた。西洋風の城を舐め回すように確認してから男はグラスを置いて、大きく腕を開きながら笑う。


「逝ったか。まあ俺が死なせたんだけどな。どうせあいつらのことだ、泣き喚いてただろうな」


 現場を直視していたかに思える発言をしながら、けれどどこか寂しそうに徐々に声を細めていった。


「だが、よくやってくれたさ。それにどの道捕まった代償にしちゃ十分な待遇だろうよ。獲物に損害を与えられたんだからせめて満足に散ってくれや」


 窓を音を立てながら叩いて下を行く人々を今度は噛みつく勢いで睨み付ける。


「しっかし可哀想によ。これから起きることを何も知らないで歩いてんだから。これもまた人生ってやつかね。一寸先は何が起こるか分からない、起きた先に待っている物も見えない。そこが地獄か天国か。素晴らしきかな人生!」


 この場には誰もいないというのに一人、大仰に芝居がかった言動を繰り返す男。

 誰か他に部屋を同じにしている第三者でもいれば、彼が酔っているのだろうと推測してしまうだろう。

 同じ組織の人間が見てもいつも通りだと感じるのみであろうが、そうでない人間はグラスが置いてあることから酒を呑んだ結果だと思っても無理はない。

 けれど、酒の強さは折り紙付きであるために泥酔しているなんて事は無い。

 

 すると、机に置かれたスマホを手に取って一つの映像を覗く。


「さて、どれだけの被害を出したのか確認はしとかねえとな。…あ?なんだ、こいつは」


 爆発させたことは認識していても被害の程まではまだ、確認していなかったため初めて見た光景に驚愕を隠せなかった。

 彼の直属の部下が自身の異線(レイル)を使って視界をそのまま男のスマホに投影させているが、映像は目で撮影をしている部下の動揺が伝わるように僅かに揺れている。


「こいつは一体どうなってやがる。()()()()()()()()()()()()!」


 現場の様子を見て、死体も怪我人も救助活動を行っている様子も何もなく、ただ唖然としてるだけの兵がいるのみで建物以外に被害が出た様子が一切見受けられず、憤った男。

 自らが爆裂させたとはいえ、仲間の死を以てして天空の国に損害を与えるはずが、時間がかかると行っても復旧可能な建築物しか破壊できていないことは流石の彼でも許せなかったようだ。

 怒りを持て余したのか、室内に炎が漏れ出てしまう。


自分(てめぇ)の部下の命を使ってまでしてできたのがこんなつまらねぇ喜劇とはな。シェイクスピアならもっと上手く書けたかもな」


 拳を握りしめながら苛立ちを隠すことのない異様な笑みで、心の内に烈火の如き情動を抱え込みながら彼はスマホを握り壊した。


「本国の連中もこんな役目を押しつけたんだ、どうせなら思い切り壊してやるさ」


 そこで一体何を考えたのか、彼はそんなことを確定事項のような言い方で誰に対してか言い放った。


「呑気にしてんなよ、この国も、本国の奴らも。俺らが総取りしちまうぞ」


 葉巻に火を着けて、これから自分たちが起こす何かを思いながら途端に不敵に笑い出した。

 不気味であり、そして狂暴さも感じられるその顔は彼の部下達でさえ、怖気を覚えてしまうだろう。

 見慣れた笑みよりもより一層背中を走る強い寒気はきっと部下の面々は同じ場に居たくないと考えるだろう。それは軍人であろうともあるいは一般人であろうとも同じ結果が得られるだろう。

 

「蠍と俺は機を窺ってるからな。このデオルグ様がな!」


 男、デオルグは蠍の長として沸き立つ炎の熱を抑えることもなく景色を揺らめかせながら次の策を講じる。

 彼は気付いていない。映像の端には紅の髪色をした大鎌を扱う少女がいたことを。


───────────────────────────────────────────────


「よくもまあタイミング良く爆破できたものだよね」


 叶未は外に出て爆散された光景を眺めながら、ローライに危険が去ったことを告げるように声の抑揚をできる限り加えながら話しかける。


「どこかに監視を担当していた部下でもいたんだろう。どうやって尋問していたかを知ったかは知らんがな」


間諜(スパイ)でもいたのかな?」


「ない、と言いたいが異線(レイル)によってはあり得なくはないな。内部のチェックも完璧とは言い難いしな」


 顔の中央に皺が集まっていくかのように苦い顔をするローライ。考えたくはなくても可能性としてはあり得るし、事実彼と部下達が尋問している最中に起こったためそれを偶然と片付けるには無理があった。

 部下への指示を出しながら一刻も早く、この隊舎を片付けさせるよう命じる。


 すると、一人の老齢の男性が近づいてくる。


「おうおう、ローライの坊主。これはまたえらいことになったな」


「ジェフリー先生、来ておられたのですか?」


「一応な。蠍の奴らの指紋採取やらを手伝って、さっき引き上げてきたとこだ。若いのが人手が足りないそうでな」


「誰?」


 叶未が親しげに会話している翁が何者であるかをローライに問う。


「ああ、こちらはジェフリー先生。元警備顧問で現在は科学捜査局の局長を務めていらっしゃる」


「よう、あんたが例の助太刀してくれたっていう奴か。礼を言わせてくれ、ありがとう」


 叶未に対して頭を下げて礼を述べる老人。

 ジェフリーと名乗った翁は、纏う雰囲気は明らかにローライに近しい武の匂いを叶未に感じさせていたが、その実体躯は女性の平均身長ほどである叶未と同じほどであった。

 若干小柄とも言える叶未と大差ない体格をしているというのに警備における最高責任者であるローライと遜色ない空気を持ち合わせている。

 それでありながら、科学捜査の局長を任じられているというのだから驚きを更に煽る。


「そんなに強そうなのに科学捜査のトップなんだね?」


「まあ、むしろそっちが専門だからな。自衛のために覚えた武術だったがなんだかんだ顧問までやらされてたよ。今は得意分野の方に収まったがな」


「先生、どう思われますか今回の事態について」


 事件が起きてすぐであっても、ローライは躊躇わず早速私見を求める。


「詳しく調べないことにはなんとも。ただ、お前さんらが尋問している最中だったんだからそこを狙った可能性は高いわな」


「やはり、そうですか」


「ついでに言うと、あの人間爆弾、おそらくは相当な激痛を伴う代物だろうよ。まったく犯罪組織ってのはイかれてやがるな」


「やり口が特攻隊みたいだね」


 叶未が唐突にその場に口を挟む。特攻隊の話題が悠江との間にあがっていたから口に出したのだが、二人は叶未に注目した。


「なるほど、特攻隊か。戦時中には多く居たと聞くが」


「ここじゃ無縁の話だったな。ローライ、お前さんもここの生まれだからあまり詳しくはないだろう」


「文献では聞いたことが。ですが、彼らが軍人のような大きな目的意思でやっていたとでも?」


「ない話ではないだろうよ。犯罪組織でも崇高な理念の下に集まっているのならそこまでの覚悟はあってもおかしくはないさ」


 ジェフリーは崩れた隊舎の様子を眺めながら、息を吐いた。


 三人が話し合っていると、背に何かを背負った一人の男が上から降りてくる。


「ちょ、何事ッスかこれ」


「なんということじゃ」


 悠江と記憶を失くした少女である。

 二人は駆けつけている最中に爆発音が耳に響いてきて、汗を垂らしながら急いでここまで来たのだ。

 辿り着いてみれば、隊舎が全壊しておりその姿は無残にも周囲に建物の壁や床であったものを飛び散らせてしまっている。

 少女も自分で何か起こるかもしれないと言ったはいいものの、流石にここまでの事態は想定していなかったようで驚愕に表情が形作られながら、顔が青ざめてきていた。

 

「皆は大事ないのか?怪我人はおらぬか?」


 悠江の背から飛び降りて少女はローライや叶未らに向かって問い詰める。


「怪我人はいないよ。全員爆発する前に逃がしたから」


「そうか、よかった」


 心から吐き出すように安堵しながら少女は血の気を取り戻す。


「その子が君たちが連れてきたという子供か?」


 ローライは悠江と叶未に問う。周辺では彼の部下達が撤去作業を行っている。


「そうだよ。名前も出自もわからないけど、本人が動物の帰巣本能みたいにここにくることを渇望してたからもしかしたら、天空の国出身かと思ってね」


「なるほどなぁ。しかし、どこかで見たような?」


 ジェフリーが膝を折って少女と目線を合わせると少女は目を逸らすことなく真っ直ぐと視線を交差させる。

 ジェフリーは彼女の瞳を見て、何か巨大な蛇にでも睨まれているかのような錯覚を覚えた。あるいは背中を駆け回る虫が存在してるかに思える悪寒までも感じ取った。

 自分は一体、何を視界に入れたのか。はたまた、何者と対話しようとしているのかそれがわからなくなり、途端に恐ろしくなった。

 けれど、絶対者のように感じた相手は無邪気に口から音を紡ぐ。


「なんじゃ?妾の顔に何か付いておるか?」


 ジェフリーはハッと気がついたように返す。


「い、いやなんでもねぇ。早く親御さんのところへ帰れると良いな」


「うむ、そう言ってくれて感謝するぞ」


 いつの間にか身体中に感じていた威圧感は消え、呼吸が荒くなっていたことを理解した。


「ジェフリー先生、どうかしましたか?」


「いや、なんでもねぇ。そうだ、こんなこと過去に一度しかなかったはずだ」


 一人呟きながらジェフリーは周辺を歩き回る。

 その姿を怪訝に思いながらもローライは少女の身元について調べさせていた部下に分かったことがあるのか問いかける。

 叶未と悠江はジェフリーの様子を心配していたが、触れてはいけない気がしてそっとしておいた。

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