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リーディア  作者: シュタイン
第一章 復讐を担う者
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第四十三話 二方一両得一方損

 西側を担当していた悠江は現在、西部アメリカを彷彿とさせるエリアに来ていた。そうはいっても実際のその時代よりは活気もあれば清潔感もあったので雰囲気のみを楽しむテーマパークに近い雰囲気であった。

 射的ゲームやサイコロを振って予想した目が出れば一杯無料になる酒場や飲食店があるなど、心風祭も相まってどれも目を引く賑わいであったし、悠江も酒が無料になるかもしれないと思えばゲームに参加してみたいと心から考えていたが、今はその時間すらない。

 何か危険があってはいけないとホテルに置いていったというのに、迷子になって街中で事故にでもあったらとそのようなことを危惧している。 

 迷子が更に迷子になるという事態に面倒だと言わんばかりの顔を浮かべながらも、その実しっかりと霧を広げながら周囲を探っている。

 

 捜索に赴いた全員の中で悠江が最も索敵に長けていたため、西を探し終わったら他も悠江が向かうことになっている。効率よくかつ体力の消費を少なく探せるからこその、役割を自分で配役した。


「早く終わらせてカジノに行きたかったのに、どうしてこうもうまくいかないんスかね」


 建物間を渡り走りながら、背格好が似ている子供がいればその地点を確認する。そんな中で自身の遊興への渇望を募らせながら独り言ちる。

 彼は頭の中でカジノに行った際のことを思い浮かべながら、口角を上げ始める。自分がまずスロットで賭け金を増やして、ポーカーでは気前よく大金を賭けながら、最強の役であるロイヤルストレートフラッシュを相手に叩きつけるところまでをイメージしている。

 脳内における彼は酷く下品な顔をしていた。


「首都には確かオリジナルカクテルが有名なバーがあったッスね。ぜひとも祝い酒を頂きたいッス」


 SNSでも名の知れた店舗であるらしく、特に年の若い観光客が写真をよく撮るらしい。

 悠江も酒は好きだが、バーに行くことはあまりない。しかし、流石に噂になるレベルで美味しいと評判の酒があれば行きたくなってしまうものだ。


「次はあっちッスか。しかしまあ、天空の国の主に呼ばれるのは良いこととは捉えられないッスよね」


 見つけた後に向かう先のことを考えて、気分が一気に冷め上がる悠江。


「隊長の話によれば、この国そのものを一つの異線(レイル)として顕現させてるってことらしいッスけど一体どんな化け物なんッスかね」


 ローライは悠江達の正体に気付いていないようであることは彼はわかっていたが、もしも天空の国の主が気付くようなことがあれば色々と不味いと思案していた。

 だが、もはや考えても仕方なく現状、記憶を失っている少女を親の元へ戻すために動いていることもあり下手なことはできなかった。一応は軍人であるため、子供を放置しておくことも心情的には難しかった。

 

 何かを生み出し操る異線敷く者(レイラー)は特別視されるほどの希少さはない。能力の規模によっては資源問題や環境問題にも手を加えられるような能力の持ち主はいるにはいるが、その規模に至ることができた者は少なくとも観測されていない。

 小国とはいえ、国家規模の異線(レイル)を発動、維持させている時点でどれほどの怪物か想像もつかない。ましてや墓人の話では、世に現れるよりずっと昔から空に浮かび続けていたというのだから悠江にとっては戦闘力に直接関わらない力だとしても遙か格上の人物に思えた。

 空港を守っていた高性能の結界も存在していたのだから、首都にも同様かそれ以上の結界が張られていることが予見される。

 天空の国の持つ特性かはたまた、封武の一つであるのかはまだわからないがそれでも驚異的な防衛力の持ち主であることは窺えた。

 

 ただし、悠江にとってしてみれば警備最高責任者のローライならば出し抜けることから、少なくとも能力が戦闘に関わってこない可能性があるならば逃亡程度なら容易だと考えた。

 少女のことは気がかりであるから、どうにか保護だけは約束させてからもし露見すれば逃げようと思った。

 

「っとさて、今回は当たりッスかね」


 カフェの一つである建物に足を乗せて、眼下を見下ろす。その視線の先には少女が一人いた。


「遊びには連れてってやるから脱走はこれ以上やめてほしいッスね」


 視界が遠くまで及ばないのか、懐から双眼鏡を出して観察する。


───────────────────────────────────────────────


 追跡を続けながら、蠍の下っ端を睨み付けていたローライは相手が角を曲がり続け一軒の店に入っていったところを確認した。

 

(ただ呑みに来た訳じゃ無さそうだな。待ち合わせか?)


 蠍にとっても襲撃後であり、更にはまだ別の狙いがあるはずだと考えていたローライは酒場に酒を呑みに来たわけではないことを見抜いていた。

 人質まで用意しておきながら名を馳せた犯罪組織が大した被害も出さずに終わるなど考えられなかったのだ。

 

(ここからじゃ様子は見えないな、当然か。仕方ない、顔を隠して中に入るか)


 窓は少なく、両隣には建物が隣接しており店の前後からでしか中を見ることはできなかった。故に覗こうとすれば不自然極まりないし、遠目から内部を詳細に探ることはできなかった。

 よって店に入るために、下に降りて屋台で観光客を装うための帽子をさっさと買い付けて自然体で振る舞いながら席に着く。

 店はラルモンド・スレーシャと言って、天空の国独自の内装をしていた。

 店内にはガラスの下に小川が流れており、店の床は下草で生えていたりと自然を肌で味わうことができる造りになっていた。

 店の奥にあるカウンターにローライは座ると、右斜め後ろ側のテーブル席に座る蠍の下っ端構成員に注意を向ける。

 

(先ほどまで戦っていたのに随分と豪勢な食事をしているじゃないか)


 その男とは直接的には戦闘行為を行っていないものの、争っていた組織の一人であるという認識はしていたからか闘争して時間もあまり経っていないのにステーキやフライドチキンなどの肉が盛り合わせられた皿がテーブルの真ん中に店主によって置かれた。

 ローライは悠江が最初から、あの逃走も作戦の内であると言っていた事を思い出していた。

 逃げるは敗北ではなく、戦略的撤退としての意味合いで行った。そうであれば、あの余裕も納得のいく話だと彼は差し出された水に口をつけながら一人、息を吐いた。

 まだ、仕事中であるために酒を提供している店でも満足に飲酒ができないことに僅かな苛立ちを覚えながら様子を見る。


 すると、扉から五名程で客が来店してくる。


「ああ、待ち合わせだ。おーい」


 蠍の下っ端である男の席に向かって手を振って、そのまま真っ直ぐそこに対して歩く。

 隣の席も合わせて椅子と机を並べると六人組ができあがる。


「しかし、間抜けだったよなあいつら。俺達のボスが入念に逃亡手段を考えていたっていうのにそんなことも知らねぇでよ」


「ほんとだよな。エネルギー面での問題があるとはいえ、あんな物を手に入れられたボスが凄かっただけかもしれねえけどな!」


 男達は声を張り上げて笑いながら、酒を喉に流し込みつつ肉を貪る。

 人目を憚ることもなく、聞かせてくれているのかと勘違いするほどには大声で話している。


(情報漏洩をもう少し気遣った方がいいんじゃないか。気が抜けすぎだろう)


 自分の部なら、その場で再教育の目的で殴り飛ばしてでも苛烈な訓練を課すぞ、と心の内で思いながらも話には耳を傾ける。

 だが、しばらく話を聞いていても特別に頭に入れるような情報が話題に出ることはなく、ローライはこれ以上は無駄な時間を過ごすことになりそうだと考えた。

 そして、下っ端達が店を出るところを見ると同じくローライも席を立った。


 店を出て、追跡を行っていると人目の無いところへと差し掛かった。

 ローライはこれをチャンスと考えた。なぜなら、彼らが店に滞在中に他のメンバーとの合流は首都で行うと聞こえたからだ。

 そこで、そのまま六人を拿捕するつもりで近づいた。


「少し、よろしいか?」


 多少丁寧さを意識しながらも敵に対する威圧を忘れることはなく、ゆっくりと歩んだ。


「なんだぁ?おっさん、俺らになんか用かよ?」


 最初に追い始めた下っ端構成員と思われる男が前に出て、目線を鋭くする。

 

「お前ら、蠍の一員だろう。俺の顔に見覚えはないか?」


 帽子を深くまで被っていたのでそれを取り除く。


「お、お前は!さっきの飛空挺をはじき返した…」


「そうだ。それで、要件だがとりあえず殴らせろ」


 自身が愛するこの国に人質という手段を取って空港を攻めてきたことに怒りを覚えていたからか、私情を挟みながらそう言った。


「ふざけんな、一人で俺らをどうこうできるわけねぇだろ!」


「さて、やってみればわかるだろう」


 ナイフ、銃、斧、短槍、二人は素手とそれぞれが武器や異線(レイル)を構えながらローライに相対す。


「死んでも恨むなよ!」


 岩が飛んできたり、風が塊となってぶつかりにきてその間を埋めるように四人が突撃してくる。


我が身よ、害な(スキ)すものを反射せよ(ーマ)!」


 攻撃がローライに届くと同時に、()()()()()()()()()が勢いよく後方に弾かれてしまう。


「カハッ!」


「グハッ!」


 まるで自分の攻撃を喰らってしまったような痛みを覚えながら、五人は意識を失う。

 残りの一人は最初に追跡した男だ。


「なにを、した?」


「別に何も。仕掛けてきたのはお前達の方だろう?俺はここに立っていただけだ」


「嘘だ!じゃあ、なんで俺たちがダメージを負っている」


「自爆しただけだ。気にすることもない。さて、じっくりと話を聞かせてもらおうか」


「ひっ!」


 手際よく、負傷した男達を縛り付けながらこれから起こる尋問の厳しさを痛感させる笑みを浮かべた。

 懐から、端末を出すとこの街の警備を担当している先ほど車を停めた隊舎に対して電話をかける。


「もしもし、すぐに回収に来てくれ。ああ、そうだ。蠍の連中だ。それから部屋を六つ空けておけ、尋問を行う」

 

 端末の電話を切ると、男達の縄を引いて歩き出す。ここで情報が得られれば天空の国と叶未達には有利となるだろう。

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