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リーディア  作者: シュタイン
第一章 復讐を担う者
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第三十九話 待機

 天空の国に降り立った三人。

 現在地は国の比較的外側に座する飛空挺を着陸させる空港から離れた、観光街である。世界各国の料理や名産品が集まっておりその賑わいのほどは、世界中どの主要な観光地にも勝るとも劣らない。

 この街最大の見所となっているのはコンドラシア・バザールと呼ばれる市場であり商店を収容している建物は天井部が芸術作品としても評価されている他に天空の国ならではの意匠が施された陶芸品なども並べられており、主にプレゼントの目的で購入する観光客が多い。

 天空の国と世界中の特産品。空港にほど近いながらもそれらが一挙に味わえることがこの街を人気にさせている理由であった。

 また、巨大な公園も有しておりそこには最新技術を利用した異線(レイル)による球技が無料で遊ぶことが可能で大人も子供も一日を楽しめる施設となっている。

 記憶喪失の少女は、まずこの街から少し距離を置いた平原に降りて街に入った。すぐにでも空港に行かなかったのはこの街の宿に少女を泊まらせておくためであった。

 悠江も叶未も、少女の能力の移動手段としての優秀さについては知らなかったので辿り着くと即座に戦闘になるかと思っていたが、僅かに余裕を持って辿り着けたために安全な街の中でホテルに泊まらせておけばわざわざ、現場に連れて行って危険に晒すこともないと考えて宿を探していた。


「旅行サイトによると格安ホテルがこの辺にあるらしいんで、そこに置いていくッスよ」


「戦いでは役に立てぬからな。大人しくしておいてやろう!」


「そんな堂々と言うことッスか」


「まあこんなに早く着けるのは計算外だったけど、良い意味で誤算ではあったね」


「安全地帯に置いてくことができるッスからね」


「妾も加勢したいところではあるが、非力なのが悔やまれるのぉ」


 自分の感情からくる言葉であったのか目を伏せながら呟いた少女。左右を挟んで歩く叶未と悠江は気遣いながらも話を続ける。



「これからいくらでも成長するんスから、大きくなった頃にまた国の危機を救えばいいッスよ」


「国の危機に立ち会うようなことが人生で何回も起きるのはあんまり良いことには思えないんだけど」


 フォローの仕方が絶妙に的を外している悠江に対して苦笑しながら返す叶未。


「ふむ、安寧であることが民にとっても幸福であるからな。妾もそう何度も国難が起こらぬ事を願うぞ」


 目線が統治側のそれであったが、薄々天空の国でも重要な立ち位置にいる人間の関係者かもと疑ってはいたので驚きを露わにすることなくそのまま街中を歩き続ける。

 大通りから外れて人の賑わいがそれほど凄まじいものでもない辺りを移動しているが、治安がいいのか特に問題もなく歩行できている。

 そして、辿り着いた宿は五階建てほどのホテルで全体的に小さめの様相だが、サイトの評価は十分高い。

 中に入ってチェックインを行うと、ラウンジでは菓子が食べ放題になっており少女は存分に食している。緊急時とはいえ子供を一人で泊まらせておくのは心配があったが、念のために異常を検知する防犯用の発信器を購入しており、天空の国にきてすぐにそれを持たせた。


 鍵はカードキーでオートロックとなっているからか、悠江は少女に外に出るときは鍵を持って出るようにと言い含めた。

 

「じゃあ、ちゃんと待ってるッスよ」


「わかっておる。早よう行け」


「すぐに終わらせて親御さんのとこに送り届けるからね~」


「うむ、期待しておるぞ」


「だから誰目線…」


 部屋の扉を閉めてから、ホテルを出て二人は屋根に跳んで上がる。そして、悠江の霧が二人の身体に纏わり付く。外部からの姿を見えにくくし二人は外を十分知覚できる霧だ。人混みの中での全力疾走は難しくまた、どうしても目立ってしまうことから屋根に登りそこから、屋根伝いに走り街を抜けようと考えたがそれもそれで目立ってしまうので霧で身を隠した。


「行きますか」


「おっけー」


 屋根を渡って街を走り抜ける。足音が響かないからか、もしくは街の喧騒に紛れているからか誰も何かが上を駆けていくことに気がつかない。二人の速度には微妙に差があり、叶未の方が僅かに先を行っている。

 

 二人には確かな身体能力の差があるが、悠江の異線(レイル)の応用がそれを埋めていた。

 霧で自分を前に押し出しながら進んでいることでスピードを補っている。身体への負担もあるので一定以上身体能力を霧で引き上げることはできないが、走り抜ける程度なら負担は大きくない。

 悠江は普段から視認が難しいほど薄い霧を身体に纏わせながら、それを操ることで自分の身体の動きを素早くしている。

 視覚や聴覚といった五感は能力でもどうにもならないから、自身で鍛えるしかない。

 

 対して叶未は単純に身体能力や五感が優れすぎており、能力は戦闘の補助的な意味合いで使うことが多い。

 大抵の無生物は解析が即座に終わり分解出来るが、物量で押されるとそのうち体力が尽きて能力を行使できなくなる。一回に分解出来る物にも限界があるからだ。

 手で触れるか鎌で斬るかしなければ発動しないことも相まって、実は制限のある能力である。だから、むやみに能力メインの戦い方ができないのだ。

 だが、常人を遙かに凌駕する獣並みの五感と第六感は彼女を近接において拳陽に近い実力を発揮させている。


 屋根を走り抜けて街を過ぎ去って平原の地面に足を着ける。

 

「いや~割と広かったッスね。でも、こっから空港まではすぐッスよね」


「そうだね。にしても、こんな綺麗に広がってる平原に道路があると違和感感じるね」


「田んぼに道があるのと同じ感覚じゃないッスか。都心ではあまり見かけないんで珍しいのもわかるッスけど」


「あれ?生まれは田舎の方だっけ?」


「東京ッス」


「…そっか」


 街に入るための一つの道路で話題を広げながら、あと少しの距離だと言って脚に力を込めて、地面を蹴り飛ばす。空港から街へ向けたバスなども通行しているため、霧を再び纏い走る。周囲と景色が同化するレベルのステルス性能だが、一日に使えるその霧の量は決まっている。

 戦闘に応用できるほど、悠江は使いこなしていないからか使う場面はかなり限定的である。


 途中で、この国独自の腹から蟹の鋏のような物が生えた虎型の異進生物(クリーチャー)の横を通り過ぎたが危うく気付かれそうになったので、素早く二人で片付けて先を進んだ。

 大まかに十キロほどの距離であるが、二人には大した距離ではなく空港に辿り着いても息切れ一つ起こしていなかった。


 堅牢な要塞を彷彿とさせるそれは、客を迎える空港とするにはあまりにも無骨でいっそ軍事基地の一つと言われた方が納得できる建造物であった。

 いや、現代の基地よりも中世ヨーロッパの城砦の要素があった。

 その複合化した要素の混在はあまりにも滑稽であった。けれど、威容が笑うことを許さずに更にはよく見れば周囲に張り巡らされた強固な結界は大抵の攻撃を跳ね返す物でアフリカの国家の一つがかつて攻め込んだ際、国内でも上から数えれば早いほどの異線敷く者(レイラー)を千名以上、兵器で言えばミサイル数十発以上に相当する人員が投入されても耐えきった歴史を誇る。


 オカルト界隈では空港の、その形と要素の混在こそが鉄壁の守りを実現しているのではないかとの考察まで噂話として存在している。

 果てはこの天空の国とは、一つの神器なのではないかとの説まで出ている。

 神器は眉唾物であることがほとんどで現代では、もはや存在を疑われることさえある。


 歴史が証明した守りによって多くの国々は攻めることを諦めた。それが現在(いま)、破られようとしている。

 民間人という盾を以て。


「すごい厳戒態勢だね」


「上から見てた以上に緊張感に包まれてるッスね。それに砲台まで準備されてるッスよ。最悪、撃ち墜とす覚悟ですかね」


 姿を隠しながら、空港に忍び込んで中を窺う二人。

 天空の国の兵は空港に逗留していた民間人を急ぎ観光街の方へと逃がしている。兵の間で怒号が飛び交って、指示を飛ばしているなど二人が以前見た国軍の訓練を思わせる光景であった。

 あるいは緊急時であるからそれを超えるかもしれない。


「外で飛空挺が停泊するのを待ちましょうか。ここにいても仕方が無いッス」


「そうだね、でも天空の国も砲撃準備をしてるなんて過激だねぇ」


「こっちの軍も妨害に遭ったとはいえ、追撃はすでに準備されているのに砲撃は確かに変ッスよね。そこまでやっちゃうとこっちが正当性を持って攻撃も可能になるっていうのに」


「しないとは思うけど、危険はあるよね。そもそも警備を担当してたのはこっちだし天空の国が危険を冒すメリットはないと思うんだよね」


 外に向けて歩きながら、この攻撃準備まで進めている現状について話し合う。

 

「そこで何をしている」


 停泊場に出て、ほどよい場所に隠れようとしていた二人に何者かが声をかける。


「!?」


「ふっ!」


 悠江は後ろに飛び退き、叶未は逆に前に出て右手で拳を形作り相手の顔に叩き込む。

 声をかけた者は掌で受け止める。

 すると突然、叶未が後ろに後ずさる。


「…!?()てて、なんだこれ」


「随分なご挨拶だな。声をかけただけなんだが」


 顎髭を蓄えた黒スーツの男は、涼しげに言い放つ。


「この男、さっき叶未さんが指揮官かもって言ってた人ッスかね。一体何をしたんスか」


「見えない攻撃?いやこれはどちらかというと」


「質問に答えろ。お前らはここで何をしていた。そもそも何者だ?」


 圧を強めた男は声色に重さが乗る。


「うーん、話せば長くなるんでここは一時撤退するッスね」


 一気に霧が立ちこめて、二人の姿を隠蔽する。

 指揮官の男は見失ってしまったものの、すぐに切り替えて再び周辺の指揮に戻る。


「まあいいだろう、大きな問題にはなるまい」




 霧に乗じて空港内部に身を潜めた二人は天井部の柱に座りながら外の光景を眺める。


「最近叶未さんの攻撃受けられすぎじゃないッスか。手ぇ抜いてます?」


「そんなつもりはなかったんだけど、自信失くすなぁ」


 頬を擦りながら、痛いことを動作で示す叶未だが実際のダメージはそれほどではない。


「まぁ、飛空挺が来たら一気に外に出ればいいよ。速度で出し抜けないことはないでしょ」


 獣のような笑みを浮かべながら次の標的を喰らうのを待つ。

 

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