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リーディア  作者: シュタイン
第一章 復讐を担う者
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第三十五話 解析

「解析結果はどうなってるかなぁ」


 喜々として叶未は自分の封武で解析した結果が頭に入ってくるのを感じる。

 とはいえ、専門的な成分を伝えても伝わらないので、わかりやすくまとめられたものではあるが。

 能力の使用には直感的に理解していれば問題なく扱えるため、そういった作りになっている。そもそも、本人がどれだけ勉強しようとしても、頭に入らなかったので能力の方が歩み寄っている可能性すらある。

 指輪型封武の解析を聞くと、叶未は笑みを消し代わりにきつい表情を浮かべていた。


「これ、東グリナダ産の封武っぽいよ。そっちでしか加工できない金属が使われてる」


「中東で少し前に革命を起こした国ッスよね。革命後は独自の封武生産技術で輸出を行っているとか」


 悠江はその程度なら、なぜ厳しい顔をする必要があるのかと疑問に思った。独自技術で封武の生産と輸出をしている国でこちらにも輸入品は流れてくる。仕入れた店も一つや二つじゃないはずだ。

 血吸いの大蠍(ブラッドスコーピオン)が入手していても不思議ではない。現場に欠けた敵の封武の欠片にそのようなものが混じっていても、普通に大手で金を払えば手に入る代物だ。


「東グリナダは確か、他国に出す品で使っていない技術もあるそうですが」


 案内人が唐突に言う。


「自国の切り札みたいなもんッスね。でもそれはこの国にもある話で…まさか」


「その技術が使われてるみたい」


 案内人も悠江も叶未に同調する形で表情が険しくなった。この国にいる犯罪組織が他国の秘匿技術が使われた武器を手にしている。


「一応、東グリナダの武器を奴らが盗んだ可能性もあるッスけど、もしあいつらが国の組織なら…」


 血吸いの大蠍(ブラッドスコーピオン)が東グリナダと繋がっているかもしれない、そう言いかけて悠江は口を閉ざした。新たな戦争の火種を予感させるような不吉な言葉を外に出力したくなかったのだ。


「待って、今隊長達がもてなしてる他国の使節って」


 墓人らが迎えた他国の将軍、その所属国を叶未は思い浮かべて段々と犯罪組織の背景に確信を持ち始めた。


()()()()()ッスね…」


 現在来日しているのは東グリナダの一団である。とはいえ、それらを迎えているのは墓人を始めとした一級の戦力と官僚である。護衛の名目と国の戦力を誇示する意味合いで集められている。

 訪ねてきた目的は軍事訓練の視察であるが軍務大臣は警戒を怠っていなかった。革命からそう長い時間が経っていなくとも、国として十分に安定しているし武力もまた侮れるわけではないために今後の東グリナダの動向を注視していた。

 

 ただし、一軍そのものが来訪しているでもなし、使節に来ている者だけで国を揺るがす何かが起こせるとは悠江も叶未も思っていなかった。墓人までがいて身動きを取らせるはずもなく、けれど血吸いの大蠍(ブラッドスコーピオン)の封武の欠片に東グリナダの秘匿技術が使われていること、彼らが動き出したタイミングでその原産国が来日したのもただの偶然とは思えなかった。

 

「だいぶきな臭いッスよこれは」


「隊長にも知らせておくべきかな」


 悠江と叶未は二人で顔を見合わせながら、事態の深刻さを思う。


「知らせた方がいいでしょうね。万が一に備えてあちらを捕らえるのに主戦力は間違いなく隊長ッスから」


「何を企ててるのかは定かじゃないけどこっちの組織の方は私たちで止めないとね」


「国が絡んでるんスよ。御大層なことやるつもりなのは間違いないッスよね」


「今は天空の国が日本(ここ)に来てるから、そっちにも火の粉が飛ばないといいけど」


「それ、は大問題ッスよ」


 顔の筋肉が強張った悠江は真剣にこの騒動で天空の国が他の地に飛び立ってしまったらどうしようかという思考に呑まれていた。ただでさえ、次の休暇までかの国が滞在しているという保証がどこにもないのにトラブルが発生して飛び立ってしまえば、少女を送り届けるという名目で天空の国に赴くことも困難になってしまう。

 ゆえに迅速に解決する必要が余計に出てきてしまった。


「叶未さん、何モタモタしてるんスか。早く敵を探し出して潰すッスよ」


「急に元気になるじゃん」


 呆れ顔で出口へと促す悠江を見ながら、後ろを付いていく叶未。


案内人(ガイダー)さん、一つ頼まれてくれる?」


 ふと足を止めて、事務員姿の彼に一つ声をかける。彼は首を僅かに傾けながら話を耳に入れる。


───────────────────────────────────────────────


「とりあえず、隊長に連絡しましょう」


 横浜支部から離れて電話を取り出して悠江は動きが速くスマホをタップする。

 天空の国が退去する危機を感じていつも以上にやる気に満ち溢れているようだ。普段から仕事に手を抜くことはないが特別熱意を持っているわけではない。だが、今はむしろ自分のギャンブル天国のためにひたすら敵を血祭りにあげてやろうと、叶未以上に血の気が多くなっている。

 携帯でメッセージを送るとそのままポケットに片づけて、歩き出す。

 

「ひとまずはこれで隊長にも今回の事態のきな臭さは伝わったはずッス」


「いざという時は向こうの鎮圧は隊長にやってもらおうか」


「まぁ、中将も傍についてるらしいんでよっぽどのことがない限り問題なく場を治められると思うッスけどね」


「でも実際、中将達って私らより強いのかな?」


「そりゃ強いでしょ、戦力上でもこの国最高戦力に位置付けられてるんスよ」


「隊長とはどっちが強いかな?」


「それは…わからないッス」


「訓練付き合ってもらっても軽くあしらわれるもんね」


「テレビで中将の戦ってるところみたことあるッスけど、あれも相当化物でしたよ。化物に化物ぶつけたらどうなるかとかわかんないッスよ」


「戦ってみたいもんだねぇ」


「無茶言わないでくださいよ」


 明らかに立場が上の相手に戦いを挑みたいと発言する叶未に驚愕しながら引き気味で視線を送る悠江。

 彼は肌感覚で勇猛より無謀であろうと思いつつ、再び歩き出して駅へと向かう。

 

 一度宿舎に戻って少女に問題を解決してから天空の国に向かう旨を伝えるために帰還するのだ。

 電車に乗って宿舎に入ると、管理人である老齢の女性が庭で少女の相手をしている姿が見て取れた。割と我儘を言っているようなのだが、管理人は笑顔で相手をしているようであった。

 高齢であるはずなのだが、背に一本軸の入った背筋の伸び方をしている管理人は始終楽しさを見せながら相手をしていた。


「管理人さん、ありがとうございますッス」


「あら、二人ともおかえりなさい」


「これお土産です」


 叶未が駅で購入した菓子折りは管理人に手渡す。


「おお、これは美味そうじゃ!」


「君のじゃないッスよ」


 少女が受け取ろうとしたところを服の襟を掴んで持ち上げて阻止する悠江。


「はーなーせー!」


「ふふ、お茶を淹れるからみんなで食べましょう」


 管理人の言葉を聞いて、隙をついて悠江の手から逃れた少女。

 

「ほれお主ら、行くぞ」


 場所を把握していたのか、宿舎の管理人の部屋へと真っ直ぐ向かっていく。

 二人は急いで話してもう一度行動を再開したいと思っていたのだが、管理人からも笑みを浮かべた誘いを受けて断り切れずに追従する。

 色々と衝撃的な情報も多く、頭を休めるのも必要だと感じたのも事実であったからだ。


「ふぅ」


 管理人の部屋で煎茶を淹れられ、横浜のレンガを模したような菓子を開けて一人ずつ小分けに包装された菓子を口に放り込む。

 全員が温かいお茶を飲んで一息ついたところで、話を始める。


「さて、君を天空の国に送り届けるのは俺らが仕事を終えてからになるッスけど、問題ないッスか?」


「ふむ、それはすぐ終わりそうか?」


「それはよくわかんないッス」


「それでは困る。あの国が飛び去ってしまえば帰れぬではないか」


「なので必死にやるッスよ」


「妾を先に送ることはできぬか?」


「そうしてあげたいのは山々なんだけど、こっちも急ぎだからさ」


 悠江に代わり叶未が返答する。


「もちろん、君を送り届けるのも十分優先事項なんで終わり次第すぐに行くッスよ」


「うむ…無理は言えぬか。では、なるべく早く頼めるか」


 少し落ち込み気味に言いながら、少女はお茶を啜る。空になった頃に管理人が再び急須からお茶を注ぐ。

 暗くなった表情に罪悪感を感じながらも、よからぬ企みが蠢いているかもしれない状況も無視することはできないために任務を優先する。


「叶未さんこの茶飲んだら行きましょう」


「そうだね、あんまりのんびりしすぎると何をされるかわかったもんじゃないからね」


 熱いお茶を息をかけて冷ましながら、少し勢いをつけて飲み干す二人。


「あら?もう少しゆっくりしていってもいいのではないかしら?」


 管理人にそう言われて心揺らいだ二人だが、断って部屋を出る。


「貰ってきた資料も精査しなけりゃいけないんで、時間を使い過ぎれないんスよ」


「まぁそうなのね。じゃあ気を付けてね」


「はい」


「了解ッス」


 二人は少女と管理人を残してその場を立ち去る。



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