第三十話 訓練終わり!
「みんな前より強くなったかな?」
墓人は全員の様子を観察していると、以前よりも個々の技の冴えや力強さ、駆け引きのレベルが引き上がっていることに舌を巻く。
「紡君と悠江君はどちらも経歴的に見ても、元々強かったですがそれでも磨きがかかっていると思いますよ」
「美穂ちゃんもスカウトされた当初より戦況を見極める能力が高くなりましたね。拳陽さんは以前から強かったのでなんとも言えませんが」
医療班の麗衣とメロウも同じように彼らの成長を感じ取っており、それぞれの意見を述べる。観戦席が備えられている訓練場で、観戦しながらHPバーを操作盤で眺めて現在の負傷のほどを確認する。
一番減っているのは実は紡で、次点は悠江である。そして、悠江より多く残っているのは美穂と叶未と葉音で、拳陽が一番負傷が少ない。
「でも、バーが残っているのに叶未ちゃんと葉音さんの姿が見せませんね」
メロウは叶未と葉音が観戦席側に転送されていないことを疑問に思う。
ここでは痛みのみ存在し、実際の負傷は負わない。
けれど、斬り落とされた部分などについては動かすことが不可能になる。
ある種のバーチャル空間に近い特殊空間である。
死ぬわけではないし、何よりまだ緑のバーは残っている。ならば、生き残っているのだろうがどちらも戦いに参戦しないのが不可解であるというのがメロウの見解である。
「まぁ確かに。単純に足に攻撃を受けて動かせなくなったかもしれないけれど」
「もしくは、機を狙っているかだね」
麗衣の言葉に間髪入れず補足を入れる墓人。
「機、ですか?」
「叶未君は負けず嫌いだからね。やられたら同じやり方でやりかえしたいはずだよ」
「この混戦状態なら、それが訪れるのは遅くなさそうですね」
メロウは疑問を抱いたが、墓人と麗衣は彼女らの思考が理解できるのか、愉快そうに笑っている。
(そんなにおかしいことあったかな?)
言わんとするところは理解できたものの笑っている二人のことは理解できなかったようで困惑の色を表情に浮かべている。
「まぁゆっくり見ているといい。結果は私でも予想できないけどね」
全員が互角に渡り合ってみせるからこそ、墓人でも能力相性を考慮しても予測がつかなかった。
だからこそ、見ていて面白がっているのだろうが。
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「『大地喝采』螺旋土竜」
壁を生成しながら、拳陽の接近を拒みつつ後退して攻撃を仕掛ける。
土と岩でできた頑丈なドリルで突進していくモグラ。喰らえばタダでは済まないだろう。
「痛そうだね…」
左腕を大きく振りかぶった拳陽はドリルを正面から殴り、砕く。
異線敷く者は能力に体が耐えられるように、異線を持たない者より身体能力が高くなっている。
現代では持たなざる者の方が少数派ではあるが。
拳陽は一撃の重さをひたすらに鍛えぬいたことから、能力を使用せずとも美穂の技を正面から打ち砕く威力を拳に宿している。故にこのモグラも粉々にされてしまう。
「はぁ!」
自身の攻撃を正面から破られたとしても美穂は動きを止めず、鍬を何度も地に突き立てながら土を操り棘状で刺す。
「『多重衝撃拳』」
一撃のみ棘に拳撃を入れると無数の棘たちはそのまま崩壊する。
そのまま、拳陽は土の障壁を破壊あるいは飛び越えながら接近を試みる。
壁の上に立ち、大きく足に力を籠めると美穂の元まで飛んでいく。
迎撃する為に美穂もまた土で攻撃を行うが、全て砕かれてしまう。
「退場してもらおうか…」
拳陽が飛び込みながら腕を振るって美穂を倒そうとする。
「負けません!」
対して美穂も鍬を握りしめ、対抗しようとする。
直後、鍬と拳が激突する。
弾かれたのは拳陽の方だった。
「畑で鍛えられているので、舐めないでください」
「舐めたことないよ…特にそのパワーはね」
自然との触れ合いによって培われた足腰と腕力は伊達ではなく、この部隊にスカウトされた時から腕相撲ランキングトップを維持している。
武芸における技術面では粗削りでも力の衝突なら美穂に分がある。
しかし、それでも拳陽はただ弾かれただけではない。
「くっ!」
「『多重衝撃拳』遅延発動…」
遅れて発生した衝撃に苦々し気によろめく美穂。
力で勝っていたとはいえ、簡単に弾けてしまったことに違和感を持っていた美穂だが、この攻撃で合点がいった。触れた時に能力を発動させておき、いつでも衝撃を発生させられるようにしていたのだ。
そして、美穂もまたただ弾いただけではなかった。
「ふむ、お互い容易くは勝てないね…」
拳陽の着地点に対してあらかじめ土の剣山を作り出しておいた美穂。
弾き飛ばした先に追撃と言わんばかりに置いておいた罠を拳陽が踏んだことで発生したのだ。
腹部を貫通した棘を折ってそのまま動き出す。この空間であるから出血や内臓への深いダメージにはなっていないが、訓練所外なら相当な深手ではあるだろう。
無論、それは相対している美穂も同じであり何度も受けた拳陽の打撃に痛みを蓄積させている。
その時、二人に対して花びらが襲い掛かる。
「葉華扇」
美穂は土を壁にして防ぎ、拳陽は地面を殴りつけ浮き上がった岩や土を盾にしながら凌ぎきる。
「私も混ぜてもらえますか?」
「歓迎するよ…」
美穂の大規模攻撃で埋められたと思われていた葉音だが、封武で植物を急成長させその根で凌ぎ切っていた。脱出にそう時間はかからなかったが、辺りの瓦礫や土に隠れながら機会を探っていた。
しかし、一切負傷がなかったわけではなくそれなりのダメージを葉音も負っていた。
だからこそ、漁夫の利を最も得られる場合を慎重に観察していたのだ。
「葉華扇連華」
扇を使い、花と葉を舞わせ続ける。先ほどの奇襲よりも更に数を増したそれらは土の壁も破壊しながら直進し続ける。
拳陽は拳を連続で繰り出して、防ぐ。美穂も土の弾丸を飛ばしながら相殺する。
「今の状態でこの攻撃はキツイね…」
「これなら!」
地面を操り、再び攻勢に出る。葉音の足元から土が彼女を飲み込もうと蠢く。
これを葉音はすぐさま避ける。
だが、避けた後の彼女目掛けて人間が飛んでくる。
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「ちょっとちょっと、今登場しないでくださいッスよ」
目の前にすでに終わったとみなしていた叶未が現れて悠江と紡の間に割って入ったことに辟易した様子で言葉を投げる。
「動ける状態だとは思わなかったよ」
いつ仕掛けられてもいいように糸を紡いでいる紡。
「あんな簡単に負けちゃうのは許せないからね」
鎌を回して悠江と紡の視線を集めている叶未。
「紡くん、共闘でもするッスか?」
「彼女は厄介だけど、共闘しながら罠を仕掛けられそうだからやめておく」
「それはお互い様ッスよ」
「そうだな」
「負ける戦いになりそうだったから身を潜めてたけど、いい感じに盛り上がってきたから一緒に楽しもうね」
「お断りさせてもらうッス」
「二人とも、仕留めさせてもらう」
その瞬間、三人が一様に駆けだす。
悠江は霧を足場に上に駆け上って弾丸の雨を降らせる。
叶未は鎌で防ぎつつ分解した地面や瓦礫の刃を形成し悠江の側面に飛ばす。
紡も糸で切り裂きながら凌いで、更に指先を動かし糸を編む。
「『糸紡ぎ』牙糸!」
悠江と叶未の双方に対して、恐竜の牙のような糸で嚙み砕きに行く。
「『解体旧書」
「鎖霧」
叶未は糸そのものを分解し、悠江は鎖の形をした霧で牙を拘束し止める。
「やっぱり片方は相性が悪いな」
どちらを指している言葉かは明白で、紡は厄介そうに分解した方を見やる。
叶未はまず自分にとって制圧がしやすい方を片付けようと考え、紡に接近する。
紡が先ほど、叶未と葉音が戦っているところに乱入する形で奇襲を仕掛けたのは相性が悪いゆえに先に退場させておきたかったからだ。
「岩剣グラウディウス」
浮かせた瓦礫を圧縮して強度を高めた巨大な岩の大剣を生成した叶未は、岩の剣を悠江に向かわせながら自身は紡に近づく。
「チッ!」
自分の領域として周囲に張り巡らせておいた糸も、容易に分解されてしまい足止めにすらならない。それらの糸の一部を操って足に巻き付けるなども試みるが、どういう直感なのか直前に足を僅かに上げて避けている。
「『糸紡ぎ』双白の薙ぎ糸」
二つの薙刀が叶未の首の背後から襲う。処刑人が斬首を実行するかの如く無造作に振り下ろされるが、即座に身体を反転させ鎌で斬り裂く。そのまま再度身体を紡に向けスピードを緩めることなく前進する。
強引な身体能力の活用に紡は睨みつける。
(馬鹿げた身体能力と第六感のゴリ押しだな。なら…)
「『糸紡ぎ』大蜘蛛の巣!」
先刻よりもさらに密度を増した糸の領域。
だが、叶未は分解をしてしまおうと考えた。実際、それは可能であった。
けれど、そう簡単にはいかなかった。
「弾け、弦糸」
叶未の左側から周囲と色が完全に同化した糸が襲い掛かる。紡は叶未の第六感がどれほど働くかよくわかっていた。
殺気の籠められた糸でさえ彼女は反応してしまう。拘束目的の糸でさえ殺気が入るため反射的に避けられる。
だからこそ、殺す気のない糸で彼女を吹き飛ばした。
糸で大きく弾かれてしまった叶未はそのまま葉音に激突する。
「剣が止まったッスね」
悠江と紡は睨み合いながらも叶未の方角に警戒を向けていた。
「痛ぁ、ちょっと効いたかも」
強がりともとれる言葉で起き上がる叶未。
「叶未ちゃん、急にぶつかってこないで」
葉音は日常風景のように話しながら扇で叶未を薙ぐ。
それを後ろに跳んで避けながら着地すると美穂や拳陽とも闘気をぶつけ合う。
「うーん、折角だし全力を出し合って決着つけます?」
良い提案をしたとばかりに叶未は言う。長々と互角に傷をつけ合って、泥仕合を続けるぐらいならと彼女は提案したが、これに対して全員が悪くはないと思ったのか乗ってしまう。
「良いね…」
「まぁ、ダラダラとやるよりマシッスね」
「さっさと終わらせよう」
「私はどっちでも」
「勝って気持ちよく終わらせたいわ」
悠江と紡にも聞こえていたのか拳陽たちの方へと近づく。
そして、全員が睨み合うと全力を出し切って決着を着けるべく能力を発動させる。
「『解体旧書』!」
「『霧の箱庭」
「『多重衝撃拳』…」
「『華鳥風月』」
「『糸紡ぎ』」
「『大地喝采』!」
大きな力の奔流が空間を包み込む。
「決まるね」
観戦席で墓人は呟いた。
互いの力がぶつかり合って、その場が爆ぜる。
「うん、これは勝負ありかな?」
衝突した結果、全員が観戦席に送還されてしまった。
「互角で終わるとはね。これはこれで面白いじゃないか。二人とも、彼らに怪我はないだろうけど念のために診ておいてくれ」
「「はい」」
気絶しているだけで目立った外傷はついていないが何かあってはいけないと医療班の二人に指示を出す。
「けれど、以前よりもかなり成長していたね。今後が楽しみだ」
隊員たちの実力の伸びを実感して嬉しそうにしている墓人。
こうして、天空の国への渇望から始まった訓練は終了した。




