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リーディア  作者: シュタイン
第一章 復讐を担う者
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第二十九話 対人戦闘訓練

「それじゃあ始めるよ」


 墓人は白い空間の訓練所で自分と、医療班の二人を除いた全員が睨み合っているところに声を発する。


「始め」


 その一言から戦いの火ぶたが切られた。


───────────────────────────────────────────────


 事の発端は、朝のことだった。

 昨日の天空の国の速報が忘れられずどうしても集中力を欠いてしまっていた者がいた。

 悠江である。

 また、葉音や叶未、紡も国そのものが気になっていたり埒外の能力の話から興味を惹かれたりと、依頼中でも気が散っていた。

 確かにいつ現れて消えていくかもわからないような国が来ているのなら、気になってしまうのも無理はないだろうが、それでも集中を欠いた状態で依頼に赴けば思わぬ怪我を負ってしまうかもしれない。

 そのことを危惧した墓人は、少しでも気が紛れるように戦闘訓練の実施を提案した。

 隊員全員のバトルロイヤル式で。

 戦いで集中力を取り戻そうというのもいかがなものかと思うが、全員が互いに強者であることを理解しているために生半可な状態で戦うわけにはいかないと、危機感を持てるだろうというのが墓人の考えだ。

 隊全体を引き締める目的もある。

 要は、ただの荒療治である。

 

 特に大きな関心を向けていなかった美穂と拳陽にはとんだとばっちりである。

 けれど、実力を高め合う意味では滅多に隊員全員が揃わない中で全員が揃って戦えるというのは良いのかもしれない。

 悠江や興味を持っていた他の者たちも訓練で疲れれば多少は頭から離れるだろうと賛成した。

 そして、現在に至るのである。


───────────────────────────────────────────────


「まずは、一番近接弱い人から!」


 そう言って叶未が地面を蹴って近づいたのは悠江である。


 なお、今回訓練所では実戦で使う封武を使用している。

 だが、当たったとて死ぬことは無い。

 訓練所がゲームのように攻撃をヒットポイントに換算し、0になれば観戦している墓人らの方に飛ばされるという設定になっているからだ。

 痛覚はあれど、本物の傷になることはなく実戦さながらで戦うことが出来る。

 国軍本部にも似たようなものはあるが、実践の緊迫感を味わえるという意味においてはこの場所ほどではない。


 接近して、大鎌を振り下ろす叶未。

 タッグを組んでいるだけあって、自分の得意で潰せる相手をよく理解しているようだ。

 しかし、それは悠江も同じであり。


「甘いッスよ」


 斬られたかに見えた悠江は霧となって消え、気づけば別の場所にいた。


「分身ね、じゃあこっちは本体か?」


 背後から紡が近づいて、悠江の身体を糸で絡めとる。

 そのまま、首を絞めてしまおうかと縛る力を増すがまたしても霧となって消えた。


「俺、臆病ッスから。この状況なら一番新入りの自分が狙われやすいの分かってるんでそう簡単に姿は見せないッスよ」


「霧分身なんて、器用だね…」


 拳陽は悠江を褒めながらも別の人間を狙いに行く。


「まぁそう来るとは思ったよ」


 悠江に意識を割かれていた紡の隙を見逃さず、近づいて打撃を加える。

 けれど、紡もそのことは予想していたのか糸で壁を編んで鋼鉄よりも高い硬度のそれで防ぎきる。

 

「『大地喝采』!」


 その様子を見逃さず、美穂は地面に鍬を突き立てると土の大津波を発生させる。

 

 墓人があらかじめ、美穂に不利が生じないように操作盤を使い、地面を土に変えていた。


 拳陽と紡、近くにいた叶未さえも巻き込んだ大質量攻撃。

 大抵の人間はこれで終わりとなるが美穂に油断は無い。

 この程度の攻撃でやられるようなら、まず職務の中で生き残れないからだ。


「危なー」


「いつも思うけど規模感は凄いな」


「生き埋めはかっこがつかないよね…」


 暢気に土を分解して難を逃れていた叶未と、普段から見ていても驚かされた紡。

 拳陽も余裕そうな様子を見せている。


「やっぱそう上手くはいきませんよね」


 予想通りではあったが、少し肩を落とす美穂。


葉華扇(ようかせん)


 様子見に徹して動いていた葉音もここで仕掛ける。

 彼女が空中で舞うと扇の動きに合わせて、鋭くなった葉が飛び交う。

 葉音の持つ封武は植物を急成長させる力を持ち、彼女の異線(レイル)は木の葉や花を硬く、鋭く強化させ操る。

 林や森においては、圧倒的ともいえる力を発揮することが可能だ。

 普段は必ずしも植物が群生しているとは限らないので、植物の種を常備しながら封武の助けで武器を増やしている。


 無数の葉が上から無造作に降り注ぐ。

 雨となったその攻撃に霧で試合前から姿を隠していた悠江でさえ、堪らず姿を見せて攻撃を防いでいる。各々の手段で攻撃を捌いている中で、叶未が攻勢に出る。


 分解した地面の瓦礫を操って頭を防ぎながら、他の体の部位に関しては最低限の回避行動のみで接近を試みている。

 被弾がないわけではない。

 叶未のHPカウントはどんどん減っている。

 痛覚だって存在している。

 けれど、その顔は笑みで満たされており痛みをまるで感じさせない。

 

 浮かべた瓦礫を足場に上で陣取っていた葉音に鎌の射程圏内まで接近する。

 普通に瓦礫を飛ばしたところで弾かれるのは目に見えていたので、近距離に持ち込んでしまおうと考えたのだ。

 時間をかければもっと硬度のある攻撃を放つことはできるのだが、この雨の中でその余裕はない。

 よってそれが叶未の最適解であった。


大華吹雪(おおはなふぶき)


 自分の周囲に大量の花びらを展開し、球体になるように自身を囲む。

 同時に、視界を覆うほどの花びらが叶未を襲う。

 

 叶未は一切動じた姿を見せず、鎌を回転させながら花びらを防ぐ。

 この数瞬、葉音の意識が叶未に集中したことで他の隊員への飽和攻撃が止んだ。

 隙を見逃さず、各自が動き出す。

 

 紡は指を巧みに動かし、糸を編んで一帯に張り巡らせる。


「『糸紡ぎ』大蜘蛛の巣」


 張った糸の上に足を乗せて跳躍する。一気呵成に上空の二人の間に割り込んだ紡は、再び指で糸を紡ぐ。


「『糸紡ぎ』双白(そうはく)の薙ぎ糸」


 鋼鉄よりも遥かに強度のある糸で薙刀を作り出し、二人に襲わせる。

 咄嗟の反応が遅れた二人は花や鎌で防ぐものの、体勢を崩してしまい地面に墜ちる。

 

「『大地喝采』鹿の角」


 美穂が鍬を土に振るうと大地が鹿の角の形になって地に墜ちた二人に突貫する。

 土煙が舞って叶未と葉音の姿が消える。


「『多重衝撃拳(マルチインパクト)』…」


「咲き誇れ、炸裂する霧(ミストフラワー)


 図らずも連携を取る形となった紡と美穂の意識の隙間を搔い潜り、拳陽と悠江がそれぞれ自身の技を撃ち込む。

 拳陽は美穂に対して懐に入り込み右手で拳撃を放つ。

 鍬の柄で辛うじて防御するが、何故か、腹部と背中にも衝撃が発生する。それにより美穂は僅かに苦しげな表情を浮かべる。

 拳陽の多重衝撃拳(マルチインパクト)は自身が殴ったものに対して、殴った箇所とは別の箇所にも衝撃を生み出すものだ。一度の打撃につき、他の部位にも攻撃を受けるという近接において厄介極まりない代物だ。

 生じさせる衝撃を増やせば増やすほど一撃の威力は下がるが、それでも大抵の相手はダメージを受けることは避けられない。

 拳陽は自分の能力を理解しているからこそ、ただ愚直に拳の威力を上げるべく血が滲んでも皮が剥げても鍛錬を積み上げてきた。

 故に、威力が下がっても決して侮れるようなものではない。


 一方の悠江は、葉音の上空からの攻撃が止んだ際に完全ではないものの霧を込め圧縮した弾丸を用意して姿を隠しながら紡の死角にあたる位置に陣取り、機会(チャンス)を窺っていた。

 紡が仕掛けた直後のほんの少しの隙を突いて弾を撃った。

 中途半端とはいえ、それでも威力の高さは油断できない。

 命中した紡のHPバーは大きく減っている。


「流石にやるな」


 直前に糸で盾を編んでいたが、時間が足りず破壊され負傷を負った。


 美穂の側も拳陽に怪我をつけられたが、すぐさま距離を取って地面を操って障壁をいくつも作る。


「拳陽さんと接近戦はしたくないので、遠くから攻めさせてもらいます」


 紡は悠江と、美穂は拳陽と対峙する形になっており、だが隙を見せて攻撃を受けた側と未だ目立った負傷のない側とを比べれば有利な人間は誰か明らかだった。


「んじゃ、紡くん。このままやられといてくださいッス」


 霧で槍をいくつも作り上げながら紡に向けている。


「接近戦したくないのか…。でもそう簡単にいくかな…」


 不敵な笑みで挑発的に言葉を放ちながら構える拳陽。


「油断はほんとよくないッスよね」


 自分の右側、少し離れた場所にいる拳陽に対して拳銃を撃つ悠江。


「危ないね…」


「全員敵同士なんで、誰が誰を狙っても恨みっこなしッスよ」


「戦場のようだね…」


 弾丸をガントレットで弾き返した拳陽は、悠江への注意を少しばかり高めながら美穂に向き直す。

 向き合っていた者同士が再び火花を散らしながら、駆けて相手にぶつかる。


 紡は糸のテリトリーを自由自在に跳びながら、悠江の動きを制限しつつ糸で斬り刻もうと指を動かす。

 悠江は霧で感知し最小限の動きで避けつつ、漂わせている霧からナイフを作り取り出し、左手で首に向けて刃を這わせる。

 紡は避けながら糸で腕を縛り、そのまま切り離そうとする。

 しかし、悠江は腕から霧を発生させ実体のあるそれは拘束を内側から緩め、腕を抜き取る。

 そのまま、他所に向け弾丸を何発も放つと、物理法則を無視したような動きで真っ直ぐ飛んでいた弾丸は急旋回して一斉に紡に対して撃ち込まれる。

 

「『糸紡ぎ』糸繭(いとまゆ)


 自分を繭状に編んだ糸で守り切った紡。

 悠江はどの角度からも攻めきれない硬度であると理解して一度後ろに引く。

 周りに張られた糸の位置は正確に把握していたのかそれを避けるように跳ぶ。


「うぇっ!」


 把握していたはずが後退している最中に何かに引っかかりよろけてしまう。


「繭に気を取られて気づかなかっただろ。周辺の糸にほんの少しだけ足元に糸を追加したんだ」


 転びかけた悠江に迫り、糸で手甲の形に編んでおいたものを装着して貫き手を心臓に向かって放つ。


「やっべ」


 反応が間に合わないと感じた悠江は負けを確信した。

 だが、諦める気はなかった。

 他所に放った霧の弾丸は、全て撃っていたわけではなく一発だけ残していた。

 

「保険が効いたな」


 弾が微かに紡の腕を逸らしたことで、左脇を大きく掠める程度に留まった。


「とはいえ、ダメージは大きいだろ」


「これで五分の条件ッスよ」


 一歩も引かぬ戦いが続けられていた。

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