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リーディア  作者: シュタイン
第一章 復讐を担う者
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第十六話 悪魔の取引

 新たな依頼を持ち込んだ二人の少女が帰った後、叶未と悠江は墓人と話を行っていた。


「今回は現地調査も含めての仕事ってことでいいんスか?」


 悠江の疑問を受け止め墓人が答える。


「そうだね。四災人の一件で向こうに調査員も兼ねているエンジニアも派遣してしまったからね。仲介人の方もしっかりとした確認まではしていないだろうから君たちの方で事実確認をしてもらいたい」


 仲介人。

 この部隊に依頼を行いたい依頼者はある特定の手順を踏んだ上で接触でき更に仲介人が最後の関門として依頼者を見極め、そのお眼鏡に適えば事務所の場所を教えられようやく依頼まで辿り着ける。

 ネット社会でネットを介さずスパイのような方法を取ることができているのは仲介人の特殊な異線(レイル)のおかげで、仲介人がいるからこそ手順も事務所の場所もインターネットに流出することがない。

 

 手順についてもまるで謎解きのようなものになっており根気強く解かなければいけない。そういった理由から安易には依頼はできず真に復讐を望む者しか辿り着くことはできない。

 仲介人の目利きも確かなものであり、正当性に欠ければ教えられることはない。

 ただ、念のために事実関係を隊の方でも調査している。万が一の間違いを防ぐためである。


「うーん、菊咲組の人に直接聞いてみる?倉竹って人いますか?って」


 叶未が唐突に直接的に敵の本拠地に乗り込んで聞いてみるかと言い出して、何言ってるんだといった顔を悠江は向けるが次の瞬間には真面目に考え込む。


「馬鹿なんですかって言いたいとこですが、案外アリかもッスね」


「えっ?ありなの?」


 深く考えずに言ったからなのか、肯定されて驚きの声を上げる。


「こっちもカタギとは言い難いので乗り込むなら身分を偽ってッスね。菊咲組が任侠を大事にしてるのは周知の事実。そう簡単にカタギに手は出さんでしょう」


 悠江の作戦は何かしらの事情を聞ける立場になりきって乗り込むというものだ。


「菊咲組が倉竹を探しているという話もさっき言ってたんスよね?」


「ああ、確かにそんなことも言っていたよ」


 悠江の問いかけに墓人は一つ頷いて回答する。


「なら、探偵にでもなりきって行方を捜しているフリでもしておけば(やっこ)さんにも利にはなるでしょう」


 理由はともかく捜索しているならそこに乗っかる形で利を示して話を聞ければ収穫はあるだろうという計算の(もと)乗り込むことに賛成の意を示した。

 そもそも所属している組が探しているなら現在行方が分かっていないということでもあるのだから、そこから探す必要が出てくる。

 依頼者二人も行方については分からないという風に話を終える直前に語っており、僅かな手がかりでも欲しいというのは悠江の本音であった。

 こういった部分でエンジニアが活躍するのだが、いないものは仕方がないと嘆息する悠江。


「それでうまくいくかな?」


 叶未は若干の不安を抱えて疑問をぶつける。依頼の達成には自信があってもその場の思い付きを採用されたのだから当然と言えば当然かもしれないが。


「なるようになるでしょ。とりあえず俺らの正体さえバレなければなんとかなりますよ」


 軍属であるという一点のみを隠したうえで逃げ切れれば十分であるだろうと思案していた悠江。

 仮に身元を偽証していることが判明してもそう簡単にはそこに行きつかないはずであろうから軍と菊咲組の関係に亀裂が走ることはない、それは墓人も同じ考えであった。


「とはいえ、菊咲組は超がつくほどの武闘派集団だ。乗り込むなら細心の注意を払ってくれ」


 墓人の懸念事項は身元を偽ったことが相手方に露見してしまった後にある。発覚すればおそらくは国軍の本部軍にも見劣りしないような精鋭が出てくるであろう。

 それによって部下が死ぬかもしれないことは彼が憂慮しているところであった。

 とはいえ、今更危険がつきもののこの仕事で死について何か言う必要もないとも考えていたからこそ、それ以上は何も言わなかった。

 





 話を終えて、事務所があるビルでオフィスのようになっている隊員や隊長たちが普段デスクワークを行っている場所の隣にある部屋で、叶未と悠江は装備を整えている。

 今回は菊咲組と直接やり合うことが仕事ではないため、専用の封武以外にも正規軍でも扱われる一般的な装備も備えておく。逃走せざるを得なくなった際に時間稼ぎをするための装備を。

 仕事自体は明日からであるため、一応のチェックをして明日すぐに始められるように持参しやすくまとめておく。様々な装備が壁に掛けられていたり、金属製の底が浅い箱の中に綺麗に並べられていたりとする中でその反対側は個人のロッカーが存在していた。

 男女で仕切りがされており、構造的には同じ部屋が二つ存在していることになる。

 それは外観とは明らかに異なる広さとなっており、なんらかの能力が働いていることは想像に難くはない。

 しかし、他の隊員たちも慣れてしまったのか今では疑問を抱くこともあまりなく、また誰に聞いても前からこうだと言われるだけで、結成した本人である墓人も信頼できる人に丸投げしたからよく知らないという有様である。

 危険物が仕掛けられていないことは全員確認済みなため、便利だからいいかというスタンスでビルの施設を活用している。


 二人はいくつか閃光手榴弾などサブウェポン数点をポーチに詰めてロッカーにしまっておく。

 その後は叶未はデスクワークを嫌々ながら行って、時折おやつを口に含んでいた。

 一方の悠江は早めに事務所を出て、街へと出る。


───────────────────────────────────────────────


 新宿、とある裏路地。

 大戦の影響で職を失った世代が未だにここで寝ていたり、あるいはごく小規模で売り払われている薬物によって廃人と化している者たちが横たわっている。

 そんな混沌とした場においてまるでそこだけ立派な大店であるかのような風格でテントが構えられていた。

 テントにはランタンが一つ吊り下げられており、他にもいくつかの装飾が施されている。無頼者が多い路地で生活する者たちもそこに触れることはない。

 都市伝説のように語られる噂として、そこに住むのは悪魔であると言われている。

 勿論、いくら頭のネジが外れた人間が多く住まうとはいえそんな話を信じてはいない。

 しかし、テントの主らしき男に以前殴りかかった人間がいたが、その者はその場で絶命した。

 そして、翌日なぜか川で水死体として発見された。その場で目撃した者は明らかに血を吹いて倒れたのを見たという。けれど、恐ろしさのあまり逃げ出してみればいつの間にか死体は無く川に移動して死因まで変わっていた。

 その不可解さに恐怖を感じた目撃者が、あいつは悪魔だと言って回り更にはその男を見た時の悍ましさを皆に語り、その様子から冗談ではないと理解させられた住人たちはテントの主を避けるようになった。


 悪魔の巣とも言えるそんな場所に一人の青年が足を踏み入れる。

 裏路地に住む者たちは薬物使用者もそうでない者も皆が警告を行う。

 そこに行ってはいけない、近づいてはいけない、と。

 けれど、青年は大丈夫だと言い聞かせて彼らを振り払い、構わずテントの中に入っていく。

 裏路地の住人たちは普段は顔を見合わせない相手やすぐに手が出て避ける相手まで誰も彼もが関係なく集まってざわざわと話し始める。

 あいつは死んでしまったのではないか、また、不吉なことが起こるといった風に。

 だが、青年は仕事帰りに居酒屋へ立ち寄るかのように気軽に入っていったため、知り合いか何かではと噂する者もいた。


「邪魔するぞ」


 そんなテントに入っていった青年は普段の口調ではなく、声色もどこか迫力を有していた。


「おや~?おやおや、斗霧(しなぎり)さんじゃありやせんか?お早い訪問でございやすね~」


 テントの主は侵入してきた青年、悠江相手に胡散臭さのある喋り方で出迎える。

 その男は見た目にも信用のおけなさがあり、ホームレス特有の汚れが目立つ服に顎髭を蓄えながら、しかし眼光はどこか相対した人間を値踏みするかのような鋭さすらあった。

 悠江は一切その眼に竦むことなくテントに座る。


 中には武器や道具などが丁寧に並べられており、どこか店に置かれた商品を思わせた。

 テント内は怪しげな雰囲気と高級店のような威風堂々とした存在感が同居していた。

 商品を挟んで悠江と対面に座る男は薄く笑みを浮かべていた。


「お前がバイトを何人も間に挟んで連絡を寄越したんだろう。回りくどい真似をしやがって」


「へへ、あっしみてぇなのが軍に属してらっしゃる斗霧さんに直接連絡なんて恐れ多い。勘弁してくだせぇ」


「思ってもないこと…。まぁいい、要件を話せ」


「若けぇのにせっかちでいけねぇや。とはいえ、斗霧さんもお仕事があるのでしょう?話を進めさせてもらいやす」


「相変わらずどこまで知ってるんだか。お前が敵でなくてよかったよ」


 笑みはそのままにしかし、どこか真剣な空気を纏わせた男はそこに言葉を返す。


「あっしはただの商人。誰の敵にも味方にもなりやせん。ただ、面白い商品が入ればお得意さんには紹介させていただきやすがね」


 悠江は目の前の男に宝石のような矜持を感じ取り、毎度のことであるものの底知れないと思いを巡らせていた。

 

(怖い奴だ)


「さて、本題に入りやしょうか」


 テントの真ん中には少しだけ高さのある台が用意されており、そこに男は一つの注射器を載せる。

 他に並べられている商品とは一線を画すような力強さを有しており、注射器には金と銀の二匹の蛇の装飾が巻き付いており煌びやかさすら放っていた。


「…これは?」


「新作の封武でごぜぇやす。しかも!半ば『神器』に片足を突っ込んだ選りすぐりの逸品ですぜ」


「『神器』だと?そのクラスということは…」


「へい。斗霧さんの封武と同じ製作者でございやす。もっとも『裏』の方でありやすがね」


「なるほど、それをお前が競り落としたのか」


「そういうことです」


 悠江は顎に手を置いてしばし考え込む。その間、商人の男はカップを二つ用意してコーヒーを淹れて片方は悠江の前に差し出し、もう一方は自分で飲む。

 熱いのか音を立てながら男は飲んでおり、そのせいでテント内の風格が損なわれそうであった。

 考え込んだ後にコーヒーに口を一度つけると、一つ問いかける。


「…いくらだ?」


 商人の男はカップを置いて、にやけながら指を三本立てる。


「3000万か…」


「これでもかなり勉強してますぜ。何度も使える品じゃありやせんが、なかなか強力でね」


 溜め息を一つ吐くと、悠江は商人の男に更に話を続ける。



「お前が勧めるということは間違いない商品なんだろう。『裏』なら余計に欲しくなる。何より、連絡を寄越した以上必ず役に立つと判断してこれを用意してくれたんだろう」


「そりゃあもう!お客様第一をモットーにやってますんでね」


 悠江は頼み込むように一つ問う。


「だが、その上で、だ。もう少し安くならないか?」


 商人の男はやれやれといった顔で首を横に振りながら頭を掻く。


「そうは言ってもねぇ。これでも安くはしてるんですぜ?これ以上安くするのはねぇ…」


 考え込みながら表情を千変万化とさせている男は、一度唸ってから改めて言葉を紡ぐ。


「仕方ありやせん。少しなら値引きしやしょう。これでどうです?」


 商人は指を二本立て相手の反応を伺う。

 それを見た悠江は再び悩む素振りを見せながらも、これ以上ごねるのもよくないと考えたのか納得と感謝を示した。


「分かった、それでいい。ありがとうよ。だが、役に立たなかったら慰謝料込みで金は返してもらうぞ?」


「ご心配なく。そうなることはありやせんから。あっしの商品が役に立たなかったことが今までありやしたか?」


 悠江は無言で相手を凝視し続ける。言い返す言葉もなかったのだろうか、それを肯定とみなした商人は機嫌よく笑い注射器を袋に詰める。


「金はいつもの方法で置いておく」


「へへ、毎度どうも。まぁ支払いがなければ命払っていただきやすからね」


「分かってる。ところで、この封武の名前はあるのか?」


 袋を持ってテントを出ようとしたところに思い出したかのように悠江は問いかける。


「ありやすぜ。確か、『アスクレピオスの注射器』だったはずですぜ」


「医神の名がついた封武か。大層なもんだな」


 商人はその言葉に同意を示しつつ、こちらもふと思いだしたように問う。


「そうでやすな。…あーところでお仲間には会っていかれるので?」


 その言葉に一瞬だけ表情に影を落としながらもすぐに取り繕い軽く笑いながら返答する。


「…また今度にするさ」


 そう言って青年は一切傷がなく裏路地を去る。

 後にその路地では悪魔と取引をして無事に生還した青年の話題で持ちきりになった。


 


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