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リーディア  作者: シュタイン
第一章 復讐を担う者
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第十五話 二人の巫女

 墓人が統べる部隊、影守隊の事務所に二人の少女が戸を叩いて足を踏み入れてくる。

 彼女らはおおよそ、その手に血が滲んだ者たちの巣窟に侵入してくるには似つかわしくない神聖な空気を纏っていた。

 ドアを開き先に入ってきたのは手を握り胸に置き、緊張を鎮めるようにしている銀髪ボブの少女で、もう一人は黒髪の中に紫色が混じった肩ほどまでの長髪で、おどおどとした雰囲気で先に入った銀髪の少女の後ろで隠れるように中を伺っている。

 どちらも巫女装束を纏っており、髪留めは互いの髪の色を反映したものとなっている。銀髪の少女は黒と紫の、黒髪の少女は銀の色をそれぞれ髪留めにあしらっていた。


 先頭の銀髪の少女は警戒を一切解いておらず、いつでも後ろの黒髪の少女を守れるような位置取りで中に入ってくる。

 依頼しに来たとはいえ、相手が復讐を生業としているような相手であれば当然であるのかもしれない。

 あるいは本能的に仄暗い血生臭さを感じ取ることができてしまったのか。

 とはいえ、事務所内にいた全員が少し妙に感じた。

 大抵は依頼を行いにくれば燃え盛るような激情か、あるいは冷たい憎悪のままに依頼の内容を伝える。多少の怯えがあろうとも大切な何かを失った絶望がすべてを凌駕して足を動かす。

 この二人は辿り着いてから怯えを備えた警戒を持ったまま部屋に入った。

 けれども、そうなるほどに怖い経験をしたのかと医療班の癒尾瀬麗衣(いおせれい)とメロウは応接室へと二人を促す。

 現在不在の副隊長二名以外の六名の隊員及び隊長は医療班の対応を見て、二人の怯えについて特に気にすることはなくなった。専門家の方がそういう機微に聡いだろうから、気のせいだろうと結論付けた。


 応接室に通された二人の少女は、椅子に座るか迷う素振りを見せたもののメロウに笑顔でお茶を出されて無害そうな雰囲気が醸し出されていたため、大人しく座って煎茶をいただく。

 

「おいしい」


 背を丸めて自信なさげにしていた黒紫の少女は一口飲んだ後に一息吐いて、呟く。退室しようとしたところにその一言が聞こえてきて、深い海のような紺色の髪が喜びを表すように軽く揺れてメロウは言葉を紡ぐ。


「そう言っていただけてよかったです。実は以前お茶の美味しい淹れ方を知人に教えてもらったことがあるんですよ」


 右目をウィンクさせながら、少しお茶目な様子を見せて場を和ませる。

 緊張が解れてきたのか、少しずつ二人は笑顔を見せ始める。


「失礼するよ」


 そんな中に再度緊張を纏わせるような人物が間が悪く入ってくる。


影雄(えいゆう)!」


 思わずといった表情で入室してきた人物に対して言葉を投げてしまう銀髪の少女。


「隊長…。やっと和んできたところに唐突に来ないでくださいよ」


 ようやく二人の肩の力が抜けてきたところに国で一、二を争う大物が登場してきたために自分の努力が無駄になったと言わんばかりに抗議するメロウ。

 先の大戦において、数多の戦果を挙げ勝利と国防に寄与した生ける伝説。

 そんな人物が目の前に現れればどうしても緊張してしまうのは避けられないだろう。

 メロウとしてはもう少し気持ちを落ち着かせる時間を作りたかったという思いであった。

 しかし、墓人はできる限り早く話を済ませる方が彼女らも安心するだろうと考えた。

 要は二人の思惑がすれ違ったのである。


「ん?なんかごめんね?それで、依頼内容を聞かせてもらえるかな?」


 メロウの考えに気づかぬままに話を進める墓人。


「えっ?あっはい。…実は私たちの両親を殺した男を殺してほしいのです」


 銀髪の少女は動揺しながらもはっきりと殺してほしいと口にする。


「なるほど。まぁウチはそういうことを依頼する場であるが、始末するかどうかは調査後になるけど、まずは事情を聞かせてもらえるかい?」


「はい。まずは私たちについてですが、私は安倍晴菜(あべはるな)と言います。私の背に隠れようとしているのは芦屋満(あしやみちる)です」


「…あ、芦屋満です。よろしくなのです」


 銀髪の少女、晴菜ははきはきと自分と同席している黒紫髪の少女、満を紹介する。対照的に満の方は自信なさげに椅子をいつのまにか移動させて晴菜の背後に半身を隠している。


「満、顔はしっかり出そう?」


「うぅ、だってぇ」


 昔から知っている仲なのか親し気にやり取りをしている二人を微笑まし気にメロウは眺めている。


「それで、二人はどこの誰に親を殺されたのかは分かっているのかい?」


「分かっています。菊咲(きくざき)組組員、倉竹剛(くらたけつよし)という男です」


「それはまた、ビッグネームが出てきたね」


 晴菜から告げられた名前に墓人は驚きを隠せずにいた。

 倉竹という名前に反応したわけではない。彼が驚愕の表情を見せたのは組の名前。

 日本でも屈指の力とその任侠ぶりで名を知られるヤクザ、菊咲組。

 裏社会の秩序として君臨し続け、主に関東を拠点としている。構成員は3000名ほどいった具合で、特筆すべきは純粋な力。

 海外から幾度となく日本を食い物にしようとやってきたマフィアやギャングを撃退し続けた実績を持ち、警察も軍も半ばその存在を黙認している。

 放っておいても特別大きな害はなく、むしろ手が回りきらない犯罪組織まで勝手に撲滅してくれるのだから下手に藪をつつくような真似をする必要もないだろうというのが警察、軍双方の総意である。

 下っ端に至るまで教育が行き届いていることから、ただの一般人を殺害したという事実が墓人にとっては信じがたいことであった。


「末端の構成員まで把握しているわけではないが、本当に菊咲組の人間が?一体何があったんだい?」


「本人がそう名乗っておりましたし、菊咲組の事務所に出入りしているところも目撃したことがあります」


「で、でもなぜか菊咲組も倉竹を探しているみたいなのです」


 晴菜と満は実際に倉竹が菊咲組へ入る場面も確認済みであるために組員か最低でも関係者であることは確実だと睨んでいた。

 本人の名乗りを頼りに組員と言っては見たものの確たる証拠はなかった。

 しかし、どちらにしろ憎き敵であることに変わりなかったため何者かはどうでもよかった。


「その男が殺したところを実際に見たんだね?」


「…私と満は京都出身で昔から家族ぐるみの付き合いでした。私たちも両親たちも親友でした。けれど、ある日突然あの男は父や母たちが代々守り続けた土地を寄越せと言ってきたんです」


「と、当然断りました。でも、何度も押しかけてきてとうとう私たちを人質にしたんです」


 二人は思い出すのも地獄といった顔で当時のことを語り始める。


「両親は私たちをなんとか助けに来てくれました。しかし、閉じ込められていた倉庫に奴が戻ってきて父さんも母さんも、おじさんもおばさんも私たちを逃がすために犠牲になって殺されました」


 話しながら晴菜は目に涙を浮かべ始めて、満もまた声を押し殺すように泣き始める。

 そんな二人にメロウと墓人はハンカチを渡して涙を拭くように促す。

 

 二人が泣き止むのを確認して墓人は話の続きを行う。


「事情は分かった。メロウ君、斗霧君と叶未君を呼んできてくれ」


「承知しました」


 墓人がメロウに命令をすると彼女は部屋を出てすぐに班を組んでいる二人を呼ぶ。

 

 部屋に入ってきた叶未と悠江は涙の跡が残る依頼人の二人を見て墓人を茶化す。


「隊長、女の子泣かせたんスか?」


「罪な男だ…」


 若干顔つきをかっこよく決めようとしながらいわゆるイケボを意識して叶未は言ってみせる。

 

「二人とも?減給されたいのかな?」


「「すいませんでしたー!」」


 潔く腰を直角に折りながら頭を下げる悠江と叶未。

 何も本気で隊長を揶揄ったわけではなく泣いていたであろう少女たちに少しでも気分を上げてもらおうと考えて茶番を演じて見せたのだ。

 復讐を依頼しに来たとはいえ俯き続けることもないというのは隊全体の考えである。


 墓人は叶未と悠江の意図を汲み取っていたため、僅かに笑顔が戻ってきた二人の少女を見て向き直り改めて話を行う。


「この二人はこう見えて実力は確かだ。それは保障しよう。けれど、一つ問いたい」


「「?」」


 巫女服の少女たちは一体何を聞かれるのか少しだけ身構えた。


「我々が依頼を請け負った瞬間から君たちもまた人の命を奪うことに加担することになる。依頼者が君たちだと判明することはないだろうが、それでも依頼をしたその時から人殺しの業を背負うことになる。その覚悟はあるかい?」


 晴菜と満は服の裾を握りしめながら、覚悟を決めた表情で答える。


「そんなものとっくの昔にできています」


「な、何度も話し合って、二人で決めました。言われずとも百も承知、です」


 確固たる意志を見せられた墓人はそれ以上彼女らに何か言うのは無粋だと考えて、そのまま依頼内容の確認へと移る。


「そうか、わかった。…最後に確認するが、依頼は菊咲組組員、倉竹剛への復讐で間違いないね?」


「「はい!」」


「では、叶未君、斗霧君。二人にはまず事実確認を行った後に依頼を遂行してもらいたい。今回の依頼は下手を打てば菊咲組と軍の対立にも繋がってしまう。くれぐれも慎重にね」


 部屋に入る前にある程度の話をメロウから聞いていた叶未と悠江は迷うことなく返事をする。


「了解ッス」


「分かりました!」


 もしかすれば並みの軍人よりも厄介な存在であるにも関わらず、そこに恐怖もなければ失敗するかもしれないという考えすらなく、ただひたすらに職務を忠実に実行すべしという責任感のみが存在していた。

 あるいは意外とどうにかなるだろうといった曖昧な根拠のない自信が仕事の経験則から生じていたのかもしれない。


 巫女服の少女たちは特に緊張もしていない様子の二人を見て大丈夫なのかという不安を持ちながらも、どこか頼もしさを感じてもいた。

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