第十四話 報告と打ち上げ
悠江と叶未達が東京に戻った翌日。
全員が隊長である影守墓人に報告を行っていた。
「ってわけで、裏で誰かの存在はあったぽいッスけど逃げられそうになったんでやむなく撃ち殺しました」
悠江が繋がっていた者の存在を明らかにしておきたかったという思いから、申し訳なさそうに報告する。
「ふむ、まぁ仕方ない。当初の依頼は果たしたんだ。成功と言っていいだろう。とりあえず後ほど報告書も提出してもらうが、背後関係については今後も調査を続けよう。みんな、ご苦労だったね」
全員に対して労いの言葉をかけて、今回の結果に満足げな墓人。
「今日はもう休暇にするから、好きに過ごすと良い。打ち上げをするなら支払いは私の方で受け持とう」
今回の依頼が予想以上に大変なものであったことに申し訳なさを感じている墓人はせめてもの償いと言えば大げさだが、食事くらいは支払おうと提案した。
「よっしゃー!高い焼肉行こうよ!」
「いや、やっぱり寿司一択だろ」
「お鍋じゃダメですか?」
「ビュッフェね」
「ハンバーグ、高いの行きましょうよ」
「あはは…」
昨晩と同様に再び不毛な言い争いが始まりそうだと乾いた笑いで皆を見渡している拳陽。
一方、支払いを持つといった墓人は、それなりに大食いがいることを思い出し高い店で大量に食う未来を想像して、既にお財布が寒くなってきていた。
「早まったかな?」
だが、全員が打ち上げをどこにするかで盛り上がり始めたことから今更無かったことにはできないと思った墓人は遠い目で窓の外を眺める。
打ち上げ会場で揉め始めて、結果的にじゃんけんで決めることになった。
「「「「「最初はグー!じゃんけん……」」」」」」
拳陽はリクエストは特になかったので若者に譲ろうとじゃんけんには参加していない。
「「「「「ポン!」」」」」
勝敗は決した。
仁義なき戦いの末に決まった場所は…。
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焼肉であった。
それも普段よりもワンランク上の焼肉屋であった。
「美味しそう~!」
叶未は目の前に並べられた特上カルビや肉寿司に目を輝かせながら、更に山盛りの白米をお供に焼肉を焼き始める。今の彼女は鎌を振り回す死神ではなく、焼き肉奉行と化していた。
他の面々もなんだかんだ言いつつもいつもは食べられないような肉が並べられており、肉が焼ける匂いだけで満足感が上がっていっているほどだ。
葉音に関しては普段外で焼き肉を食べることがないため、皆とは別の意味で目を輝かせている。
拳陽に関しては肉を焼くのをメインにしながら、時折タンを口に入れながら楽しげな様子で食事をしている隊員達を見守っていた。
本人曰く、美味しそうに食べているところを見ているだけでお腹いっぱいになってくるとのこと。
美穂に関しては白米を美味しそうに食べながら、サラダを注文しつつ肉はそれほど多くは食していなかったが、本人は米と野菜が美味しいのが満足なようだ。けれども、肉は肉で楽しく口に含んでいた。
悠江と紡は互いに頼んだビビンバやサイドメニューを分け合いながら、どんどん皿に載せられる肉を食べて捌いていく。拳陽が若い子は沢山食べなさいと皆に注文した肉を次々と焼いては渡していっているため山盛りの肉を椀子そばのように味わっていく。
「そういえば、なんで最初あの建物の二階が吹き飛んだんだろう?」
肉と米を口の中に掻き込んでモグモグと音が聞こえてきそうな様子で食べながら質問を行う叶未。
葉音が食べながら喋らないように注意をしながらも拳陽との焼き肉攻防を中断した悠江が叶未の疑問に答える。
「あぁ、あれは鎧を一気に全方位に膨張させて攻撃を行ったんスよ。教祖は自分の鎧で守って」
あの状況で自分も視認できていなかった攻撃を悠江に見えていた事実に目を見開いて驚きながらも葉音の注意をしっかりと聞いて口の中の物をきちんと飲み込んでから喋り出す。
「見えてたの!?トムくん!」
「斗霧ッス。別に見えてないッスよ。護衛の男の死を確認しに行った時にまだ微かに息があったんで聞いたんスよ」
「なんだ~!そうだよね!」
一応自分の後輩にあたる悠江に能力で劣っているとなれば先輩としての矜持に関わるため、見えていなかったと聞いて安堵して機嫌が良くなる。
対面に座る叶未が気分良く再び大量のご飯と肉を掻き込み始めて、負けず嫌いなことを再確認する悠江であった。
鎧の膨張速度は簡単には目で追えない速度であった。故にこの場で宴会に興じている誰もがかろうじて防御態勢を取れるかどうかというギリギリの状況があの二階の崩壊であった。
つまり、あの場に誰がいたところで鎧南の攻撃を完全に防ぎきることはできなかった。叶未も悠江もその場で何かが起きそうな予感のみである程度防ぐことができたという点ではむしろ優秀評価を与えられるだろう。
拳陽や叶未が肉を焼く手を止めて全員がデザートに向けて意識を傾け始めた頃、ふと思い出したように葉音が言葉を紡ぎ始める。
「そういえば、今日も副隊長達戻ってきてなかったわね」
全員が三班合同という大きな仕事に意識を持っていかれていたことで二人の副隊長が不在であることを失念していたという顔で葉音を見ていた。
「ってか、要請が入ったのは聞いたんスけどいつから四災人の対応に行ってるんスか?」
対応に駆り出されたことは聞いていたものの具体的にいつから出ているのかについては聞きそびれていた悠江は一週間も依頼に出ていた葉音が知っているのかと思いつつも聞き返してしまった。
「私たちが教団の近くまで拠点を張る前からいないから、もう二週間近くになるわね。ほぼ同じ頃に自分たちの領域から二体とも動き出したから、上もなかなかヒリついていたらしいわよ」
「だろうね。災害が自分の領域を出て人の世界に出てきたら被害が想像もつかないもんね」
一通りデザートを注文し終えた叶未が至極まっとうなことを言って少しばかり意外な表情を浮かべつつ、悠江はその異常事態に何か理由があるのではないかと思案する。
「二体がほぼ同時にってのはちょっと不可解ッスよね。なんか原因でもあるんスかね」
「あるかもしれないし、無いかもしれない…。偶然か必然かは分からないけれど、もし原因があるのなら突き止めないと大変なことになりそうだ…」
それは災害すら動かせる何かであるということなのだろう、そう言いかけて拳陽は言葉を切った。口にしてしまうにはあまりにも不吉なことであったからだ。
四災人という存在はそれほどに日本国民に恐怖を植え付け前線の軍人達はその脅威を目の前で実感していた。ある者は町一つを一夜にして壊滅させ、またある者は山をいくつも崩壊させた。
討伐しようとした軍を四人それぞれが壊滅的被害を出して返り討ちにした。その軍は各支部の軍ではなく精鋭たる本部所属軍であったために余計に日本全土に動揺を与えた。
とはいえ、それを上層部が黙っているはずもなく、彼らを特定の領域から出さぬように結界と監視網を敷いた。
一時しのぎ程度の結界であったことから、破られるのは想定の範囲内であるが、監視を無視して領域外まで動いたことが問題となっていた。
本部最高戦力である七人の中将が出張ってくれば四災人も無傷ではいられないことは理解しているはずであるにも関わらず特定領域から外れた動きができたことが上層部を驚愕させた。
更には監視を担当していた者たちもそのような規格外れの動きを見せ始める前に観測できなかったことが問題となった。本部の正規軍だけでなくこの部隊の副隊長二人にまでお鉢が回ってきたのはそういった事情が絡んでくる。
一度気分は沈んだものの、全員が豪華なデザートが到着したことを皮切りに再び盛り上がりを見せ始め、特に叶未は一人でテーブルに乗り切らないほどの甘味を目にもとまらぬ速さで消し去っていく。
冷たいアイスを食べ過ぎてお腹を壊しながら自宅に帰った大鎌使いがいることはご愛嬌であろう。
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「あの~すいません。ここが復讐を請け負ってくれる方々の事務所であっておりますでしょうか?」
二人の少女が叶未達の本拠地のドアを叩く。
新たな依頼の始まりのようだ。




