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リーディア  作者: シュタイン
第一章 復讐を担う者
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第九話 白熱する夜戦

 黒い鎧は夜戦においてなかなかに面倒なもので周辺に光源があまりないこともあり、叶未(かなみ)は相手の攻撃の軌道が見えづらく度々傷を負っていた。

 夜目が効くとはいえ、鎧の重さに左右され無いことに加えてそもそもの本人の速さが尋常ではないためただでさえ視認しにくい蹴りや拳が更に避けづらくなっていた。

 

(単純に速いだけじゃなくて、武術の技量も高い…。鎧の硬さに加えて受け流しも動きの掴みづらさもあってやりにくい)


 鎌の刃や柄で相手の剛撃を捌きながら、時折反撃を交えて鎧南に傷を負わせようと戦っているが鎧は微かに欠けるだけで決定打にはならない。

 体当たりで体制を崩そうとするが、岩のように不動で一切崩れず逆に体当たりの勢いが自分に返ってきて後ろに飛ばされる。


「なるほど。お前、結構なパワータイプじゃねぇか。だが、俺をよろけさせるには足りないな」


 後退した叶未に鎧南は接近せずその場で両の掌を広げそこに鎧を重ね合わせ巨大化させる。


「膨張圧力!」


 巨大化して広げた掌の間には叶未がおり、それを挟み潰すように掌を勢いよく閉じる。

 間にいた叶未は体当たりでよろけた体制をすでに立て直しており、動き出す。

 大きく叩かれた手から轟音が響き渡る。


「直前で避けたか。人間を潰した感触がなかった」


 そこにいなかった叶未は傷を負っておらず、潰される直前に浮かせた瓦礫を足場に上空へ飛んでいた。

 上空に置いた足場を蹴り、死角から首を狙って地上の鎧南に向かって突撃する。


「死ね」


 首に放った渾身の一閃はまたしても鎧によって防がれる。

 

 しかし、首の鎧は今までよりも威力の高い一撃だったためか生身の首が見えるほどに欠損している。叶未は振り抜いた後に鎧南の後方に着地していた。追撃を重ねようと、瓦礫を飛ばし鎧南の身体を拘束しようと地面を分解し、相手の身体に纏わり付かせる。

 

「これで、終わりだよ」


 叶未は身体を拘束されている鎧南にもう一度突進して攻撃を仕掛ける。首の鎧は再生していなかったからだ。

 けれど。


「舐めるなよ?」


 鎧南は息を吸い胴から鎧を更に突き出し身体を拘束している瓦礫を壊しながら、突進してくる叶未を鎧をつなぎ合わせた複数の鎧の棘で前方を迎撃する。

 叶未は隙間のない棘の攻撃を突進の勢いを殺しながら横に飛んで避けるが足に掠ってしまう。

 

「変幻自在すぎでしょ」


 叶未は相手の鎧がどんな形にも変形してしまうその自由度に驚きを隠せないでいる。鎧を繋ぎ合わせて触手のように柔軟に扱いながら、硬度が高く並みの鞭より威力があってなおかつ棘のように鋭利に形を変えることも可能で鎧を重ね合わせて部分的に巨大化することも可能など、派手さはなくとも攻防一体の隙の無い能力である。

 

 鎧南は一度大きく息を吸い、全身を膨らませるように鎧を発生させ身体の瓦礫による拘束を完全に解いて元の大きさに戻る。

 

「ふぅ、しかし俺の鎧を傷つけたやつは久しぶりだな。戦場以来か?」


 叶未は傷をものともせず、戦意を失っていない眼で鎧南を見ながら地面に手をつける。


「『解体旧書(かいたいしんしょ)』」


 叶未の足場以外の周囲の地面が分解され、巨大な柱状になって宙を舞う。計四本が彼女の後ろに浮遊しながら再び攻勢に出る。

 鎧南の鎧は膨らんだ後も首の部分が再生していなかったが、叶未が分解している間に再生している。

 具体的には一度全身鎧を解いた後に深呼吸して全身鎧が首も含めて再生していた。


(身体に面してる部分は再生しないかと思ったけど違うのかな?)


 柱を固めて硬度を上げて、足場とするために周囲に瓦礫を大量に浮かせながら機動力を上げる。

 

「こっからは本気ってわけか?面白くなってきたな」


 鎧南は楽な仕事を潰されたことの怒りは消えており、久方ぶりの緊張感走る戦場の気配に高揚していた。

 

 叶未は大きく身体を脱力させて、周囲に浮かぶ足場を頼りに高速で跳び回る。

 鎧南の周辺を囲むように浮かび動いている四本の柱を彼は壊そうとする。しかし、柱は鎧の棘や触手の攻撃を躱しながら、鎧南本体に突っ込み圧殺しようとする。

 鎧自体はそれほど傷はついていないもののその内側の生身は衝撃に耐えきれず、ダメージを喰らっている。

 

「くっ!」


 鎧南は邪魔くさいと思いながら鎧を突き出して壊そうとするが柱は再び避けてしまう。

 叶未も周囲を跳び回りながら、柱を操りつつ隙を窺う。彼女は柱で攻撃を仕掛けていながらも、僅かな隙を見て速度を上げて接近し鎌を振るい続ける。

 彼女が大きく速度を上げたところを見て鎧南は、心中で面白いと感じた。


(この年でここまで…。なかなかの鍛錬を積んでるじゃないか)


 同時にその素質に恐ろしさを感じていた。本物の戦場で戦い四十を過ぎても戦力に未だ衰えのない自分と互角に戦えている事実が末恐ろしく思った。

 

 対する叶未は何度も自分の愛用する武器で斬りつけているのにどれも決定打になっていないことに苛立ちを覚えていた。


(流石にここまでダメージが通らないとちょっと腹立ってきちゃうなぁ)


 攻略の糸口が見えないことが余計に彼女をイライラさせていたため、空中を跳び回りながら眉間が険しくなっていた。


(大体、なんでこれ解体(バラ)せないんだよ。トム君が何か言おうとしてた気がするけど)


 自分が解体できない以上、理解できない物質か何かなのかという当はつけているが分析結果が伝えられないことが不可解であった。分析が出来ないならそれはそれで不可能だと伝わるようになっているため他に理由があるのではと考えていた。

 鎌で斬っても異線(レイル)は発動できる。大鎌『喰罪(しょくざい)』は()()()という能力を持った封武で、この鎌を介してのみ手で触れずとも叶未は能力を発動させられる。

 指環型の分析封武も同様で鎌で触れたものを分析できるが、何度斬りつけてデータを収集しても分析結果は伝わらなかった。

 こんなときに壊れたのかと舌打ちして悪態をつきながら動き続ける。


「そろそろ、慣れてきたな」


 鎧南は夜目は問題なかったが、突如速度を上げてきた叶未に目が慣れなかった。しかし、何度も強固な異線(レイル)で受け続けてきてようやく視認できるようになった。なってしまった。


「兎みたいにピョンピョン跳ねて、けどもう仕舞いだ」


 鎧南は拳を力強く握り直し、大きく深呼吸をする。握り込んだ右の拳は今までの黒い鎧とは違い、赤黒い色となり明らかに今までのものとは異なる鎧だと感じさせた。

 しかし、暗い夜ではその色の違いを認識しづらく叶未はその異常事態を正しく理解していなかった。

 叶未は柱で動きを封じて、接近して全霊の一撃を食らわせるつもりで動いていた。しかし、柱は四本とも簡単に拳撃で破壊されてしまう。叶未は構わず破壊されて土煙が俟っている中を飛び込んで背後から首を狙って鎌を振るう。

 おそらくは今までの交戦の中で最高速が出ていた。

 だが、鎧南の方が一枚上手だった。


「もう終わりにしようや」


 叶未が首を攻撃する直前、叶未が来るであろう位置にあらかじめ攻撃を置くように拳を振るっていた。

 速度を緩めずそのまま突貫してくる叶未に鎧の拳が激突しようとする。

 叶未は迫り来る攻撃にはもちろん気付いていた。けれどもスピードを緩めることは出来なかったため、そのまま自身の方が先に首を刈り取るつもりで少しでも速く鎌を振るおうと力を増す。

 しかし、彼女は気付いていなかった。鎧南は首の鎧も赤黒くしていたことに。


「ッ!?」


 大鎌の方が先に首に到達した。速度が乗り力も増したその攻撃は黒い鎧なら斬ることができていたかもしれない。だが、硬度が高まった首の赤黒い鎧は傷は付きながらも完全には命を絶ちきれなかった。


 遅れて迫る拳はもはや叶未が避けられるタイミングにはなく、直撃は避けられなかった。

 叶未は顔面に思い切りその一撃を食らい吹き飛ばされてしまう。


「直前で後ろに飛んで威力を殺したか。咄嗟の判断にしてはやるな。とはいえ、深手は避けられまい」


 鎧南の言うとおり、叶未は直前に防御が不可能と分かっていたため少しでもダメージを抑える選択肢を取ることにした。けれども、これもまた鎧南が言ったとおりで後ろに飛んだとはいえ鎧南の最高硬度の鎧による一撃は叶未の意識をほとんど刈り取っていた。

 それでも生きていたのは本人の肉体強度の賜物である。


(まだ、依頼を終えていない。まだ死ぬ気は無い)


 整えられておらず土や背丈の低い草がそのまま見える庭で互いに攻防を続けていたが、片方は早々に吹き飛ばされ、もう片方は辛うじて残る意識で立ち上がろうと鎌の柄に捕まり寄りかかっていた。

 戦意は確かにあった。だけれども、その構図は鎧の男が勝者であり二人で戦っていた方が敗者であった。

 

「鎧南君にかかればこんなものですか。残りの蛮族どもも頼みますよ」


 崩壊した二階で戦闘を優雅に観戦していた教祖が初めて口を開いた。


「トドメがまだだ。油断するな」


「どちらももう死に体でしょう。怯えることもないでしょうに」


「猛獣は死にかけが一番怖い」


 鎧南は振り向かずに言葉を交わしながら二人を見やる。どんな雑兵も死を確認するまではどのような反撃が飛んでくるか。道連れにしてくる可能性すらもあるため、確実に殺しておかなければならない。戦場で仲間が死んでいく様を見てよく理解していた。

 

「ならさっさとトドメを指してください」


「言われずとも」


 先端が鋭く尖った触手状に腕を変形させてその場から叶未の心臓を刺そうとする。


 しかし、鎧南は僅かに動き出した悠江の姿に瞠目する。


(まだ動けたのか。…なんだ?どこを狙って?)


 先ほどまで倒れていたはずの悠江が上半身を起き上がらせて鎧南よりも上の方を狙って銃を構えていた。叶未を注視していたために悠江の動きに気付かなかった。

 故にこの一撃を撃たせてしまう。


(まさか!)


 鎧南が気付くと同時に銃弾は放たれた。教祖に向けて。


「はぁはぁ。咲き誇れ、炸裂する霧(ミストフラワー)


 真っ直ぐにただひたすら討つべき標的に向けて特別製の弾丸を放つ。即座に教祖を守るために鎧南は動き出す。

 死を確認していなかった猛獣はやはり鋭い牙を以て噛みついてきた。

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