私、橘楓。 vol.091. 観客席全体に響き渡る。
そう言いながら、陣内の顔を、チラリと見て…。
「すみません…相磯先生…、遅れちゃって…。」
頻りに自分が遅れてきた言い訳で、頭を掻く陣内。
そんな陣内に…相磯。
「ふふ…、間に合って、良かった。」
頻りに楓の右腕を左肘で小突く朱美。唇を尖らせて陣内の方に…。
そして、それに頷く楓…。
「さあ、始まりましたよ~!」
静かに奥山が呟く。
透明感のある、そして説得力のある、
しかも、耳に心地良い声が舞台から観客席全体に響き渡る。
「あ~陽子、陽子…、出てきた、出てきた。へぇ~上手い、上手い、はぁ~。…ん、ん…。」
「えっ、やだ…朱実…泣いてるの…???」
そう言いながら朱実の顔を見る楓。
「…って…、そう言うあんた、楓…、鼻声じゃん。」
「もう…さっきから私…だめだ~こりゃ…。次から次…涙…出てくる。はぁ~。」
ハンカチで目と鼻を行ったり来たりしながらも…、
気付けば、前に座っている奥山も相磯も頭を揺らしながら、どちらかの手が顔に…。
「えっ…、もしかして校長先生も…、優美子先生も…、泣いて…???」
そう小さく声に出した楓の目に飛び込んできたのが、
あちらこちらで静かに頭を揺らす光景。
しかも、時には、鼻水を啜る音や、咳払いの音さえ聞こえる。
「凄いわね~彼女たち。良く…ここまで…。」
僅かに相磯の傍に寄り添うように奥山。少し声が震えている。
「え~、私もさっきから…もらい泣きしてます。校長も…。」
「…ん、うん。…この姉妹の動きと、台詞…。はぁ~見せてもらった。」
「ここまで…出来るんですね~彼女たち…。」
「うんうん。中々…の…もん。」




