表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
言霊怪奇譚  作者: Mr.M
一章 明日は明日の風が吹く

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/53

第7話 キス

放課後。

僕は図書館に本を返却してから

校舎を出た。


第1グラウンドでは

野球部が大声を張り上げて

練習していた。

その隅で、

陸上部が遠慮がちに

短い直線を何度も往復していた。

『明星学園』は

稲置市でも地価の高い地域にあり、

グラウンドはそれほど広くない。

そのため。

以前は野球部とサッカー部が

1日おきに利用していたらしい。

だが。

数年前に

近くの『中ノ島小学校』が

少子化で廃校になり、

今ではその跡地のグラウンドを

サッカー部が使っている。


帰宅部の僕は歩いて校門を出た。

僕の横を自転車通学の生徒達が颯爽と

追い抜いていく。

正直なところ、

僕も自転車で通学したいのだが、

学校の規則で

家から2km圏内の生徒には

許可が下りないのだ。


校門の前は片側3車線の大通り。

初夏の風が、

湿ったアスファルトの匂いを運んできた。

僕は西に向かって歩き出した。

夕方の陽射しが眩しくて、

僕は思わず目を細めた。

歩行者信号のタイミングを計りながら、

2番目の信号で向こう側に横断した。

さらに西へ進むと、

勢家交差点に差し掛かる。

その交差点を北に曲がると、

街路樹の並んだ静かな景色が現れる。

その道をしばらく歩いて、

2つ目の路地を東に入ったその時、

視線の先に2つの影が見えた。


上京と明日美だった。


僕は咄嗟に電柱の影に身を隠した。

そして。

そっと顔を出して覗き込んだ。

3件先にある僕の家。

その隣の4件目。

そこが明日美の家だった。

今、その明日美の家の門の前で、

2人は抱き合っていた。

明日美が上京の胸に顔を埋めていた。

上京は明日美の背中に

手を回していた。

ふいに明日美が顔を上げた。

2人はほんの僅かな間、

見つめ合っていた。

そして唇を重ねた。

僕は視線の先で繰り広げられる映像を

ただぼんやりと見ていた。

しばらくして2人は体を離した。

それから。

上京は自転車に跨ると、

手を振って自転車を漕ぎ出した。

夕暮れに染まった赤い空の下、

その背中が

少しずつ視界の中で小さくなっていった。


「そんな所に隠れてないで出てくれば?」


僕はハッとすると同時に、

顔が熱くなるのを感じた。

一瞬躊躇った後、

電柱の影からそっと身を出した。

明日美の様子を窺いながら、

恐る恐る近付いた。

「盗み見してたのね、

 ヘンタイ」

腕を組んだ明日美がじっと僕を見ていた。

「ば、バカヤロウ!

 好きで見てたわけじゃねーから。

 そ、そもそも。

 ああいうのは

 誰もいないところでやれよ。

 公然猥褻罪っていうのがあるんだぞ?」

「それを言うなら。

 のぞきだって

 軽犯罪法違反、

 迷惑防止条例違反よ」

「だ、だから。

 たまたま目に入っただけだよ!」

「それで。

 電柱の影に隠れてたんだ?」

「そ、それは・・」

僕は返答に詰まった。

「そ、そんなことより。

 上京はサッカーの練習じゃないのか?」

「上京くんは今日は塾なのよ」

「イケメンで成績優秀、

 そしてスポーツ万能。

 非の打ち所がないっていうのは、

 上京みたいな奴のことを

 言うんだろうな」

「ふふ。

 崇も負けないように頑張らなきゃね」

「何だよ、それ。

 僕なんかがどう逆立ちしたって、

 上京には勝てないだろ」

「戦う前から諦める奴がどこにいるんだ!

 ってそんな台詞なかったっけ?」

「ふんっ。

 大体、何で僕が

 上京と戦わなきゃいけないんだよ」

僕がそう答えると、

明日美は肩を竦めた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ