第63話 告白
2学期になり1週間が過ぎた。
この日。
肇が登校してきた。
教室に入ってきた肇を見た
クラスメイト達は、
まるで腫れ物に触るかのように、
遠巻きに肇を眺めているだけだった。
岩倉と西陣の死について、
「肇が呪い殺したらしい・・」
そんな根も葉もない噂話が、
いつの間にか広がっていた。
馬鹿馬鹿しいとは思いつつも、
僕は肇に何と声を掛けたらいいのか、
わからなかった。
「たかちん!」
放課後。
校門を出たところで、
僕は呼び止められた。
振り返ると、
肇が駆けてくるのが見えた。
「たかちん、一緒に帰ろう」
「肇・・。
でも家はあっちだろ?」
「前にたかちんが付き合ってくれたから、
今日は俺が回り道をするよ」
僕達は並んで歩き出した。
「肇・・。
もう怪我は治ったのか?」
「うん。
まだ少し痛むけど、
大丈夫だよ」
「岩倉と西陣にやられたのか?」
「・・うん」
僅かな沈黙の後、
肇が頷いた。
「それと・・上京にも」
「か、上京?」
思わぬ言葉に、
僕は一瞬言葉を失った。
「ちょ、ちょっと待てよ。
どういうことだよ?
上京は・・お前を助けてただろ?」
肇は大きく頭を振った。
「あいつが・・主犯なんだ。
みんなの前では良い顔をしてたけど。
岩倉と西陣もあいつに命令されて
俺をイジメてたんだ。
あいつの狡賢いところはさ。
自分じゃ、
絶対に手を出さなかったことだよ」
肇の話を聞きながら、
僕は自然と拳を握り締めていた。
「あの日だって・・。
俺があの2人に殴られてるのを見て、
ニヤニヤと笑ってた。
だから。
俺は挑発したんだ。
『殴る勇気もない腰抜け野郎』って」
その言葉に僕はハッとして肇の顔を見た。
肇は薄っすらと笑っていた。
「俺にそんなことを言われたのが
余程悔しかったんだろうね。
いつも冷静な上京が、
顔を真っ赤にして
殴り掛かってきたから」
そして。
肇は3人によって、
普段よりも酷い暴行を受けたらしい。
「・・上京のこと。
何で言わなかったんだよ」
「言ったところで・・。
無駄だよ」
そう言って肇は小さく首を振った。
「それよりもさ。
明日美ちゃん・・残念だったね」
「あ・・ああ」
突然、
明日美の名前が出たことで
僕は反応に困った。
「明日美ちゃん・・。
上京の後を追って自殺したのかな・・」
肇の言葉に僕はハッと息を呑んだ。
そして。
僕は初めて明日美を抱いた日のことを
思い出していた。
僕は上京が死んで悲しみに暮れている
明日美を抱いた。
彼女の弱った心の隙につけ込んで・・。
明日美は僕に抱かれながらも
上京を想い続けていたのか・・。
僕は頭を振った。
「そんなことはない。
明日美は・・」
その時。
僕は明日美が死ぬ数日前。
彼女の家の周りをうろついていた
怪し気な男のことを思い出した。
「つばの広い変な帽子を被ってる男?」
「うん。
もしかしたら。
その男が明日美の死に、
何か関係があるかもしれない」
自分でも馬鹿げたことを
言っているという自覚はある。
それでも。
明日美が上京のことを想い続けていて、
そのために命を絶ったとは
認めたくはなかった。
「まさか・・。
たかちんはその男が、
明日美ちゃんを殺した、
って考えてるの?」
「いや・・それはわからないけど。
舌を噛んで自殺をするなんて、
あり得ないだろ?」
「それはそうだけど・・。
でもさ。
時代劇で舌を噛み切って
自害するシーンとか見たことあるよ」
僕の考えは肇にあっさりと否定された。
「たかちん、
明日美ちゃんのことが
好きだったでしょ?」
「なっ!」
唐突に話題を変えられ、
しかもその言葉が核心を突いていたため、
僕は思わず足をとめた。
「な、何を言ってるんだよ?
ぼ、僕は別に・・」
「隠さなくてもいいよ。
知ってるんだ」
どくん。
心臓が跳ねた。
「し、知ってるって・・何を?」
「明日美ちゃんの流出動画。
あれって本当は
たかちんの仕業でしょ?」
「へっ?」
肇の言葉に僕は肩透かしを食らった。
「な、何を言ってるんだよ!」
僕は慌てて否定した。
「あの動画は
フェイク動画なんかじゃない。
本物の盗撮動画だよ」
僕を無視して肇は続けた。
「あんな動画を撮れるのは、
たかちんだけだよ」
肇の目が真っ直ぐに僕を見ていた。
僕は肇から目をそらして、
大きく溜息を吐いた。
「たしかに。
あの動画が本物だとしたら。
それを撮ることができる人間は
限られてる。
そして僕がその犯人として
疑われることも。
でも。
僕が明日美の動画を
拡散する理由はないだろ?」
肇の目が大きく見開かれた。
それから肇は口元に指を当てて、
僅かに俯いた。
「・・確かに。
そうだよね。
なら。
本当にたかちんじゃないの?」
肇が顔を上げて
僕の目を真っ直ぐに見た。
僕は無言で頷いた。
「・・でも。
僕が明日美のことを好きだった、
っていうのは本当・・かな」
「やっぱりね。
俺とたかちんは似た者同士だね」
肇がにこりと笑った。
僕は照れ隠しに頭を掻いた。




