第58話 毒を食らわば皿まで
「チームとは・・。
どういうことですか?」
私はグラスでそっと唇を湿らせてから、
甘粕を窺った。
「その前に。
俺の質問に答えるのが先だ。
お前は誰だ?」
「・・挨拶が遅れました。
私のことは・・。
『ミカ』と呼んで下さい」
「ミカ・・だと?」
「どうされましたか?
呪い殺された横笛美佳さんのことを
思い出しましたか?」
甘粕の顔色がサッと変わって、
その手からグラスが落ちた。
甲高い音と共にグラスが割れた。
「お、お前・・。
ど、どうして呪いのことを・・」
私はそれには答えずに、
出来るだけ自然に微笑んだ。
「お、おい!
こ、答えろ!
何で呪いのことを知ってるんだ!」
甘粕の表情に僅かな恐怖が滲んでいた。
それを見て、
私は自分の推理が
正しかったことを確信した。
「その前に。
次はあなたが私の質問に答える番です。
あなたと浮橋がチームとは
一体どういうことですか?」
「チッ」
甘粕が舌打ちをした。
「ちょっと待ってくれ。
話はここを片付けてからだ。
まだ時間はあるんだろ?」
私は黙って頷いた。
甘粕が出ていくと、
すぐに2人の黒服が箒と塵取り、
そしてタオルを持って現れた。
2人は手早くそして丁寧に
割れたグラスの破片を片付けて、
テーブルを拭き上げた。
黒服と入れ替わるようにして、
甘粕が新しいボトルを手に戻ってきた。
そしてグラスに酒を注ぐと、
それを一気に呷った。
「俺とあのおっさんはな。
呪いをかけられてるんだよ・・」
「えっ・・?」
思わず私は甘粕の顔を見返した。
「それは・・どういうことですか?」
甘粕は空になったグラスに
ふたたび酒を注いだ。
しかし今度は口をつけずに
ただグラスを揺らしていた。
やがて。
甘粕は自分と浮橋に
かけられている呪いについて語り始めた。
語り終えると、
甘粕はグラスを呷った。
「・・そうですか。
あなた達は八重椿さんにかけられた
呪いの解除方法を探していると」
甘粕が頷いた。
「ではもう1つ聞かせて下さい。
あなたは浮橋が呪いを使えることは
当然ご存じですか?
そして。
その呪いの力で
人を殺し回っているということも」
甘粕がハッと息を呑むのがわかった。
「ど、どういうことだ?
あのおっさんも・・。
の、呪いを使えるのか?」
「この1か月の間。
首が捻じれた遺体に関する
ニュースをご覧になりましたか?」
「まさか・・あれが・・」
私は頷いた。
「浮橋は信用できません。
そこで提案ですが。
浮橋とは手を切って、
私と手を組みませんか?」
「お前と手を組んで
俺に何のメリットがあるんだ?
あのおっさんは、
確かに信用はできねー。
でもな。
あのおっさんの命を握ってるのは
この俺だ。
俺が牡丹の経血を渡さなきゃ、
あのおっさんは死ぬんだ。
つまり。
あのおっさんが
俺を裏切ることはねーんだ」
私は大袈裟に溜息を吐いた。
「確かに裏切ることはないでしょう。
ですが。
同時に。
あの男は問題を解決することも
できないでしょう」
「何だと?」
「浮橋は
呪いの解除方法など探していません。
毎日フラフラと
あなたから受け取ったお金で
遊び歩いています。
いいですか?
あの男にとっては、
今の状況が最も居心地が良いんです。
命の保証もされている。
おまけに。
調査という名目で、
あなたからの資金援助がある」
「あ、あの野郎・・」
甘粕が右手の拳を握り締めた。
「それに。
呪いの解除方法なんて、
雲を掴むような話です。
何の調査能力もない浮橋が、
そんなものを見つけられる
と思いますか?」
「お前なら・・見つけ出せるのか?」
「実は。
今の話を聞いて。
思い当たる節があります」
「な、何だと!
本当かそれは!」
「まだはっきりと断言できませんが。
どちらにしても。
浮橋よりも、
私と手を組んだ方が、
メリットがあるはずです」
そして私は精一杯の笑顔を作った。
甘粕がグラスを呷った。
それからテーブルに肘をついて
頭を抱え込んだ。
「一体どうなってるんだよ。
どうして俺の周りには、
呪いなんて言う
物騒なモノを扱う奴らが集まるんだ」
「・・それはきっと。
あなたではなくて、
あなたの恋人が原因です。
『類は友を呼ぶ』
とは昔からの格言です。
呪物は呪物と惹かれ合います。
恋人の持ち物の中で、
見たことはありませんか?
石のようなモノでできた小さな彫像を」
「まさか・・」
「心当たりがあるようですね」
「はぁ・・」
甘粕が大きな溜息を吐いた。
「あいつの荷物の中に、
やけに気味の悪い物があったんだ。
皿のような物を頬張った人の顔をした
真っ赤な石ころだ。
「間違いないですね。
それが彼女の呪いの正体です」
そして私は呪物について甘粕に説明した。
「・・恐らく。
彼女の所持している呪物は・・。
『毒を食らわば皿まで』
という言霊を体現したものでしょう」
「くそっ・・!」
私の説明を聞いていた甘粕が
テーブルをドンッと叩いた。
「次は俺からの質問だ。
お前の目的は何だ?
俺に何を望んでる?」
私は甘粕から視線をそらして、
グラスに口をつけた。
それから。
グラスを置いて徐に口を開いた。
「・・そうですね。
そのことに関して。
たった今良いことを思い付きました。
ですがその前に確認しますが。
あなたは私と手を組む、
ということでいいですか?」
私は甘粕に微笑みかけた。
甘粕は躊躇いつつも無言で頷いた。




