第51話 一文字との出会い②
『Hangover』は歓楽街の外れにある、
カウンター席が7つと
テーブル席が3つだけの
小さなバーだった。
店に入ると、
カウンターの中にいた
白髪交じりの坊主頭の男が
「いらっしゃい」
とにこやかな笑みを浮かべた。
年の頃は50代だろう。
くるりとした丸い目は、
どこか熊のぬいぐるみを思わせた。
男の隣で洗い物をしていた若い女性が
「いらっしゃいませ」
と少し遅れて続いた。
こちらは私と同年代くらい。
黒い髪に褐色の肌。
エキゾチックな顔立ちをした美人だった。
店内には私達以外に、
カウンター席に客が1人いるだけだった。
「マスター。
今日はこっちで。
彼女と話があるんだ」
そう言いながら
カウボーイハットの男は
奥のテーブル席に座った。
すぐにエキゾチックな美人が
おしぼりと水、
それとミックスナッツと生ハムの載った
小皿を運んできた。
「俺はキューバ・リブレ。
京花ちゃんはどうする?」
「・・その京花ちゃんという呼び方は
やめてもらえませんか」
「ククク。
結女ちゃん、
彼女にはマンハッタンを」
男は私の言葉を無視して、
エキゾチックな美人に声をかけた。
「はいっ」
結女と呼ばれた彼女は
明るく返事をして
カウンターへと戻っていった。
私は改めて男の方へ目を向けた。
見れば見るほど、
男は源之介に似ていた。
しかし。
全体から醸し出される雰囲気は
明らかに違っていた。
目の前の男には
どこか退廃した空気が纏わりついていた。
私は小さく首を振った。
「あなたは誰ですか?
どうして私の名前だけでなく、
関白のことまで知ってるんですか?」
「ククク。
これは失礼。
自己紹介がまだだったな。
俺は・・。
一文字宗尊。
探偵さ」
男はどこかで耳にしたことのある
台詞を吐いた。
「探偵・・ですか」
ふたたび頭の中で警鐘が鳴った。
「そ。
それもとびきり優秀な探偵だ。
ちなみに。
本名は
菊一文字だが、
長い名前は色々と面倒でね、
普段は一文字を名乗っている」
そう言うと一文字は
カウボーイハットをそっと押さえた。
私は一文字に気付かれないように
そっと息を吸い込んだ。
「その優秀な探偵の方が、
私に何の用でしょうか?」
「ククク。
そんなに警戒しなくてもいいだろ。
美女と飲むのに理由が必要か?」
私は大きく溜息を吐いた。
やはりこの男は
源之介とは似ても似つかない。
源之介はそんな気障な台詞を口にしない。
「話がなければ私はこれで失礼します」
男の名前さえわかれば、
あとはいくらでも調べられる。
私は立ち上がった。
その時。
一文字がポケットから
黒くくすんだ小さな石ころを取り出して、
テーブルに置いた。
それを見た瞬間、
私の体は金縛りにあったように固まった。
それは・・。
人の顔を模した彫像だった。
その顔は男とも女とも
判別がつかなかった。
目は閉じられていて、
口が大きく開いていた。
その口から長い舌が伸びていた。




