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言霊怪奇譚  作者: Mr.M
一章 明日は明日の風が吹く

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第5話 腐れ縁

「お前、まだ生きてんだな」

「おーし。

 今日も楽しいスパーリングの時間だ」

休み時間の騒めきの中、

教室の前方から2人の声が響いた。

窓際の一番前の席、

松葉肇まつば はじめの机の前に、

2人の男子生徒が立ちはだかっていた。

1人は、

長めの黒髪を几帳面に整えているのは

岩倉亮いわくら りょう

男子の中では一番背が低いが、

口だけはよく回る。

もう1人は、

相撲取りのような巨体に坊主頭の男。

西陣大作にしじん だいさく

小さい頃から柔道をしていたらしく、

腕っぷしには相当自信があるようだ。

体格が正反対の2人が、

席に座ったままの肇を見下ろしていた。


僕と肇は小学校の頃は

よく一緒に遊んでいた。

中学校では、

1度も同じクラスになることはなかったが、

それでも廊下で顔を合わせれば、

軽く言葉を交わす程度の仲ではあった。

しかし。

高校に入って、

肇が岩倉と西陣に目を付けられてからは、

僕は肇とは距離を置いていた。


短く不揃いな髪。

眉は細く、

若干垂れ下がった目は、

いつも不安げに

キョロキョロと動いていた。

鼻は高くも低くもない、

特徴のない形。

唇は薄く、

笑うとぎこちない愛想笑いになる。

丸みのある顔立ちは、

まだどこか子供っぽさを残していた。

背はそれほど高くなく、

体つきも痩せ気味。

成績は中の下。

運動も特に得意ではない。

何をやらせても平均より少し下だった。

自己主張が弱く、

人と争うことを極端に嫌う性格。

そのせいか、

高校に入学してすぐに、

肇は岩倉と西陣に目を付けられたのだ。


西陣は肇の肩に手を掛けると、

力任せに体を引き上げ、

無理やり席から立たせた。

「い、痛いっ・・よ」

肇が呻いた。

だが西陣は構わず、

腕を掴んだまま、

引きずるようにして

肇を教室の後ろへ連れて行った。


「ひひひ。

 いっくぞぉ~」

岩倉が甲高い声を上げた。

次の瞬間、

岩倉のつま先が肇の腹にめり込んだ。

「うぐぅ・・」

肇は腹を押さえてその場に蹲った。

「ひひひ」

苦しむ肇を見て、

岩倉が笑った。

「うはは。

 次は俺様とスパーだ」

岩倉の隣に西陣が並んだ。

「さっさと立て。

 さもねえと、

 このまま頭を踏み付けちまうぞ」

そう言って西陣は右足を上げた。

肇が腹を抑えたまま、

よろよろと立ち上がった。

「ヒデ、開始の合図を頼む」

「ひひひ。

 いっくぞぉ~。

 れでぃ~、ごっ!」

岩倉の掛け声と同時に、

西陣の拳が肇の鳩尾を捉えた。

「ぐえぇぇ」

鈍い呻き声が肇の口から漏れ、

その体が力なく床に崩れ落ちた。

「だっう~んっ!」

岩倉が歓喜の声を上げた。

教室にいる他の生徒達は、

誰一人としてその光景に

興味を示さなかった。

それは見慣れた日常の1コマだった。

僕は小さく溜息を吐いた。


「その溜息は何?」

ふいに隣の席から声がした。

砧明日美きぬた あすみが、

僕の顔を覗き込んでいた。

肩の下まで伸びた黒髪。

丸い縁なし眼鏡の奥には、

少し吊り上がった二重の瞳。

小ぶりで整った鼻筋に、

形の良い薄い唇。

透き通るような白い肌。

誰もが思わず目を引くほどの

美人だった。

しかも、

制服の上からでもわかるほど

成熟した体つきは、

多感な男子生徒の視線を

否応なく引き寄せてしまう。

僕と明日美は家も隣同士で、

幼稚園からの腐れ縁だ。

その付き合いは、

高校生になった今も続いている。

気が強く、

曲がったことが嫌いな性格の明日美は、

1年生ながらも生徒会長を務めていた。

ちなみに。

同じ中学校の友達の多くが、

公立高校へ進学する中、

僕と明日美、

そして肇の3人だけが、

この春、

ここ私立『明星学園』に入学したのだ。


明日美が椅子から立ち上がった。

「お、おい!

 やめとけって。

 お前が言ったところで意味ないよ」

僕は慌てて声を掛けた。

「なら。

 たかしが止めてくれるの?」

明日美が僕の方をキッと睨み付けた。

「む、無茶言うなよ・・」

「はぁ。

 男のくせに意気地がないのね」

「その発言、

 問題だぞ」

僕の抗議を無視して、

明日美はつかつかと歩いていった。

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