第44話 呪物
「・・なるほど。
牡丹さんと甘粕さんを
呪い殺そうとした横笛さんが
逆に呪い殺されたと。
そして。
牡丹さんの呪いというのは、
自分の経血を対象に飲ませること。
その経血を飲んだ者は、
毎月、
彼女の経血を摂取しなければ死ぬ。
さらに。
貴方と甘粕さんも、
牡丹さんの呪いにかかっていると」
赤ら顔の浮橋がゆっくりと頷いた。
「お前さん、
呪いについて
何か心当たりがあるんじゃねえのか?」
櫓は浮橋から視線をそらすと、
ブランコの方に目を向けた。
ブランコは風もないのに
僅かに揺れていた。
「・・そうですね。
実は。
私・・いや我々は、
ある『呪物』を探しているんです」
「じゅぶつ・・?」
「はい。
呪いを発動させるアイテム。
例えば。
丑の刻参りで使用する藁人形。
古代中国で用いられた蠱毒。
それらを思い浮かべると
わかり易いでしょうか」
「そんな物が存在するのかよ?」
浮橋は訝しげに目を細めた。
「はい。
何の力を持たない人間でも、
呪物を所持していれば、
呪いの力を使うことができます」
「・・聞きてえんだが。
その呪物ってのはどんな姿をしてんだ?
まさかとは思うが。
『呪物です』
とでも書いてるわけじゃねえよな?」
「・・そうですね。
大抵は掌に収まる程度の石ころ・・。
のように見える彫像、
と言えば想像ができるでしょうか」
「石ころのような彫像・・だと?」
浮橋の眉がピクリと動いた。
「はい。
誰がどうやって作ったのか。
それとも自然に形成されたのか。
詳しいことはわかりませんが。
『名は体を表す』の言葉通り、
呪物もその呪いを模した
形をしています」
生温い風がぬるっと2人の間を抜けた。
静寂が公園を包み込んでいた。
ついさっきまで
微かに揺れていたブランコが、
今はぴたりと止まっていた。
「つまりだ。
その話が事実なら。
牡丹もその呪物とやらを持ってる
ってことだよな?」
「間違いないでしょう」
「ってことはだ。
その呪物を奪えば。
牡丹は呪いの力を失うってことか?
俺達にかけられた呪いも消えるのか?」
櫓がゆっくりと首を振った。
「残念ながら。
呪物を手にし、
それを一度でも使った人間は、
呪物に魅入られてしまいます。
そして。
死ぬまで、
呪物を手放すことも、
また破壊することもできません。
不思議なことに。
どこかに置き忘れても、
誰かに盗まれたとしても、
いつの間にか呪物は持ち主の許へ
戻ってくるのです。
当然ですが。
呪物の所有者以外の者が使っても、
呪いの効果は発動しません」
一陣の風が吹いた。
ブランコが微かに揺れた。




