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言霊怪奇譚  作者: Mr.M
三章 後悔先に立たず

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43/72

第43話 夜

緩やかに伸びる土手の上。

夜の帳が落ちたそこは、

世界から切り離されたかのように

静かだった。

赤ら顔の浮橋が1人で立っていた。


浮橋は対岸に点々と灯る

住宅の窓明かりへ目を向けたまま、

動かなかった。

足元には乾いた砂が散って、

コンクリートの舗道を白く染めていた。

生温い川風が、

澄んだ川面をゆらゆらと揺らし、

青臭い草いきれを

土手の上まで運んできた。


土手のすぐ下の『弁天公園』では、

ポールライトが白い輪を落とし、

ブランコは風に揺れるでもなく、

ただ鎖が微かに軋む音だけが、

闇へと吸い込まれていた。


今、

ダークグレイのスーツに身を包んだ

櫓が表通りに面した入り口から

公園に入ってきた。

櫓はポールライトの下に立つと、

ぐるりと周囲を見回した。

それから。

腕時計を確認して、

「ふぅ」

と小さく溜息を吐いた。


しばらくすると。

土手の階段をおぼつかない足取りで

浮橋がゆっくりと降りてきた。

浮橋は公園に入ると、

ポールライトの下に立つ櫓に向かって、

呼びかけた。

「約束の時間までまだ5分あるぜ。

 流石、

 優秀な会社員は時間に正確だな」

「時間にルーズな人間は

 信用に値しません。

 それに。

 『時は金なり』

 と言いますしね」

櫓が浮橋に爽やかな笑顔を向けた。

「へへへ。

 若いのにいい心掛けだな」

「見たところ。

 随分と酔っているようですが。

 話とは何ですか?」

「その前に。

 あっちの方は大丈夫なのか?」

そう言って浮橋は右手の親指と人差し指、

そして中指を擦り合わせるような

仕草をした。

「はい。

 謝礼は十分にお支払いします」

「へっ、へへ。

 そいつはありがてえ」

浮橋は両手を擦り合わせると、

下卑た笑みを浮かべた。

「お前さん。

 ジェラが死んだのは、

 呪いのせいだって言ってただろ?」

「はい・・あくまでも私見ですが」

「どうやら。

 この世には。

 科学では説明のつかねえモノが

 存在するのかもな」

浮橋はそう前置きをして、

櫓と別れてからの一連の出来事を、

順を追って語り始めた。

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