第42話 ネオンの灯り
葛城町の歓楽街に
ネオンが灯り始めた頃。
その一角にある古い焼肉屋の
引き戸が開いて、
赤ら顔の浮橋が出てきた。
浮橋は千鳥足で歩きながら、
やがて『森林公園』へと入っていった。
そこは喧騒の荒野に突如現れた
深緑の異界だった。
園内の木々の下で、
2組の男女が体を寄せ合って
愛を囁いていた。
浮橋はそんな彼らを見ながら、
ニタニタと下卑た笑みを浮かべていた。
浮橋は森の中を進んでいった。
すぐに頭上の木々が開けて、
円形の広場が現れた。
5本のポールライトが広場全体を
優しく照らしていた。
浮橋は唯一空いていたベンチに
腰を下ろした。
そして。
ジャージのポケットから
煙草を取り出して咥えた。
もう一方のポケットから
ライターを出したその時、
何かが落ちた。
浮橋は気怠そうにそれを拾い上げた。
名刺だった。
浮橋はしばらくの間、
それをじっと見つめていた。
次の瞬間。
浮橋は徐に立ち上がった。
それから。
周りをぐるりと見回すと、
一番近いベンチに座っている
カップルの許へ行った。
「この名刺の人間に連絡してえんだ」
浮橋はそう言って名刺を見せた。
突然声を掛けられたカップルは
訝しげな表情で浮橋の方を見た。
「俺は電話を持ってねえんだ。
悪ぃんだけど。
代わりに連絡してくれねえか?
タダとは言わねえ。
これで頼む」
浮橋は続いてポケットから
5000円札を1枚取り出した。
カップルは顔を見合わせた。
女の方は首を振ったが、
男は現金と名刺を受け取ると、
スマホに番号を入力して、
浮橋に手渡した。
「・・櫓です」
浮橋が耳を付けるとすぐに声がした。
「浮橋だ。
新しい情報があってな」
「ほう。
それは・・横笛美佳の件ですか?」
「そ、そうなんだ!
まあ。
信じられねえような話だけどな。
ただ。
電話で話すのはちょっとな・・。
明日でもいいから、
早めに会えねえか?」
「・・そうですか。
ではこれからはどうでしょう?」
「へっ?
お、俺は別に構わねえけど」
「では。
今からそちらに伺いましょう。
家ですか?」
「あー・・それなら。
弁天町にある『弁天公園』で
待ち合わせってのはどうだ?」
「弁天町ですか。
でしたら・・30分後でどうでしょう?」
「ああ。
大丈夫だ。
あ、それと。
あっちの方も頼むぜ。
この情報を仕入れるために、
結構な危険を冒したんだからよ。
へへへ」
通話を終えた浮橋は
カップルに礼を言って公園を出た。
そして。
タクシーを拾うと、
行き先を告げてシートに倒れ込んだ。




