第40話 密談
「お、おい。
ど、どういうことだ!
その話、本当か?」
「ああ・・。
こんな話。
信じてもらえねーと思うけど。
ジェラは牡丹の呪いで殺されたんだ」
「呪い・・だと?」
浮橋の目が大きく見開かれた。
「ああ。
ジェラは・・牡丹に毒を盛られたんだ」
「毒・・?
おい。
さっきは呪いって言っただろ?」
「だからぁ!
あー面倒臭ぇ。
それが牡丹の呪いなんだよ!
ジェラは牡丹に出された
飲み物を飲んで、
呪いにかかったんだよ!」
甘粕の言葉に浮橋の表情が曇った。
「おいおいおいおい。
待て待て待て待て!
飲み物ってまさか・・。
赤ワインじゃねえだろうな?」
「おっさん。
まさか・・。
あいつに出された飲み物を
飲んだのか?」
浮橋がゆっくりと頷いた。
「あ、ああ・・。
ワインを一口だけだ」
「馬鹿が。
あんたも毒を盛られたかもな。
飲んですぐ、
気分が悪くならなかったか?」
浮橋の表情が強張った。
「そ、それがどうしたってんだ。
今は何ともねえぞ」
「今は・・な。
牡丹の毒はな。
1か月後に効果が出るんだよ。
あんた。
1か月後に死ぬぞ。
ジェラと同じように、
全身から血を噴き出して死ぬんだ」
西日に照らされた公園内に
子供達の笑い声が響き渡っていた。
「へっ・・へへへ。
へっへっへっへ。
何言ってやがる、
馬鹿馬鹿しい。
そんな都合の良い毒なんて
あるわけねえだろっ」
「だから!
それこそが呪いなんだよ!」
甘粕の叫び声が空に抜けた。
子供達が何事かと
2人の方に目を向けた。
カァカァカァカァ
どこかで鴉が啼いた。
甘粕が肩で大きく息をしていた。
「牡丹の経血・・。
それが毒の正体だ。
あの女は飲み物に自分の経血を混ぜて、
狙った獲物に飲ませるんだよ。
あいつの生理が始まったのは・・。
昨日からだ」
浮橋の顔が僅かに引き攣った。
「いいか。
助かる方法は1つだ。
牡丹の経血を飲んだ人間は、
それから毎月、
あの女の経血を口にしなければ、
全身から血を噴き出して死ぬ。
それがあいつの呪いだ」
「呪い・・。
そんなものが・・。
本当に存在するわけがねえ・・」
「ふんっ。
往生際が悪いぜ。
実際にジェラは死んでるだろ。
それこそが、
呪いが存在するという証拠だ」
甘粕が吐き捨てた。
「ま、待て・・。
お前の話が本当で、
呪いが存在するとしてだ。
ジェラもお前らに
呪いをかけたんだろ?
『同じ穴の狢』
とか何とか言ってたぞ。
それはどうなってるんだ。
お前達は
離れたら死ぬんじゃねえのか?」
「それは・・。
ジェラが死んで、
呪いの効力が失われたんだ」
「何っ?」
「実際に。
俺と牡丹は
ジェラに呪いをかけられたあの日から、
ずっと家に籠ってたんだ。
お互いの目の届く範囲で
生活してたんだよ。
当然。
その間、
俺は仕事を休まざるを得なかった。
外に用事がある時は2人で一緒に行く。
いいか?
ジェラが死んだから。
俺は今こうして、
普通の日常生活が送れてるんだ」
「ば、馬鹿馬鹿しい。
じゃあジェラが死ななかったら、
どうするつもりだったんだ?」
「だから!
牡丹にはわかってたんだよ!
1か月待てば、
牡丹の呪いが発動して、
ジェラが死ぬってことがな!」
甘粕の声が響き渡った。
「・・くっ。
そ、そんな馬鹿げた話・・。
誰が信じるんだ・・」
「ふんっ。
別に信じろなんて言ってねーよ。
ただな。
それが事実だ。
そして。
あんたは1か月後に後悔したって
遅いってことだ」
甘粕が鼻で笑った。
浮橋は激しく首を振った。
「ふ、ふざけんじゃねえ!
そんなこと・・。
簡単に受け入れられるわけねえだろう!
お前はどうして・・。
呪いなんていう
わけのわからねえことを
すんなりと受け入れてんだよ!」
浮橋の抗議に対して、
甘粕がもう一度「フッ」と鼻で笑った。
「受け入れるしかねーだろ!
俺も・・。
牡丹の呪いにかかってるんだからよ!」
甘粕の声に鴉の啼き声が重なった。




