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言霊怪奇譚  作者: Mr.M
二章 同じ穴の狢

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35/55

第35話 浮橋の証言

梅雨の始まる少し前。

葛城町の外れ、

ラブホテルがひしめき合う一角。

その中の1つ、

『マーメイド』の1室で、

俺はベッドで仰向けになり、

気怠い体を持て余していた。

バスルームのドアが開いて、

タオルを巻いたジェラが出てきた。

ジェラはベッドに腰を下ろすと、

テレビのスイッチを入れた。

朝のニュースが流れていた。

『昨夜、

 高江町の住宅に強盗が侵入し、

 この家に住む高校生の

 上京英雄さんが死亡しました。

 当時、

 両親は外出しており、

 深夜になって帰宅した両親が、

 部屋で倒れている英雄さんを

 発見したということです。

 警察は強盗殺人事件として

 捜査を進めています』


「馬鹿だねぇ。

 強盗殺人は罪が重いぜ」

「へぇ。

 一夫ちゃんって

 その手のことに詳しいんだ?」

「へっへ。

 こう見えても大卒だぜ。

 それに。

 法学部だったんだぜ」

俺は起き上がって胸を張った。

「ふうん。

 ならさ。

 アタシが誰かを

 呪い殺したとするじゃない?

 その場合は

 どのくらいの罪になるのかしら?」

「へっ?

 呪い殺す?」

ジェラは真顔だった。

「実は明日。

 牡丹の新居に招待されてるんだけどさ。

 そこで呪ってやろうかなって」

「へっ?

 何で彼女を呪うんだ?

 あの子とは仲が良いんだろ?

「女には色々とあるのよ」

ジェラは備え付けの冷蔵庫から

缶ビールを取り出してその口を開けた。

「ついでに。

 その彼氏の方も呪っちゃおうかな?

 って考えてるんだけどさ」

そう言ってジェラは微笑んだ。

「へっへ。

 何があったんか知らねえけど。

 まあ、あれだ。

 呪いで人を殺すなんてことは、

 現実問題として不可能っていうか、

 科学では証明できねえから。

 たとえ呪い殺せたとしても。

 それは完全犯罪になるんじゃねえかな」

ジェラは俺の言葉に満足したのか、

不敵な笑みを浮かべて、

ビールをグビグビと流し込んだ。

それから。

俺をベッドに押し倒して、

跨ってきた。

「ふふん。

 ちょっと気分が高揚してきたわ」

「お、おいおい。

 もう無理だぜ・・枯れちまうよ」

そう言いつつも。

俺のアソコは

ビンビンに反応してたけどな。



「・・なるほど。

 呪い・・ですか」

浮橋が話し終えると、

それまで静かに話を聞いていた櫓が、

ゆっくりと目を開けた。

「ま、まあ・・。

 俺だって呪いなんて信じてねえけどよ。

 実際に。

 ジェラの死体には

 外傷がなかったんだろ?」

浮橋はふたたびわざとらしく、

ゴホゴホッと咳をした。

「・・そうですね。

 ところで。

 その牡丹という女性は何者ですか?」

「ジェラの同僚・・いや元同僚か。

 今は店を辞めて男と暮らしてるらしい。

 住所もわかるぜ?」

浮橋がにやりと口を歪めた。

「一応、お聞きしておきます。

 ですが。

 今の話を聞く限りでは。

 横笛さんの方が牡丹さんを

 殺そうとしていたということですよね。

 当の牡丹さんは

 どうなったのでしょうか?」

「さあな。

 でも死んだっつう話は聞かねえから。

 ま・・まあ・・あれだ。

 『木乃伊取りが木乃伊になる』

 っていうだろ?

 ジェラは返り討ちにあったのかもな」

「それにしても。

 横笛さんが牡丹さんの家を

 訪ねたのは1か月ほど前。

 どうして今になって

 横笛さんが死んだのか・・」

「そ、それは・・」

浮橋は口籠った。

ジジジジジジ

どこかで蝉が啼いた。

蒸し暑い風が2人の間を

ふわりと通り抜けた。


「・・いやいや。

 大変有意義な情報でした。

 ありがとうございます」

「へっへへ。

 そりゃよかった。

 それで・・その・・謝礼だけどよ」

「ああ。

 これは失礼しました」

櫓は軽く頭を下げた。

それから財布を開くと、

1万円札を10枚手に取って、

浮橋に差し出した。

浮橋は素早くそれを奪い取ると

無造作にポケットに突っ込んだ。

「わ、悪ぃな、こんな情報で」

「いえいえ。

 また何か思い出したことがあれば、

 いつでも連絡して下さい。

 どんな些細な情報でも歓迎します。

 では。

 本日はお手間を取らせてしまい

 申し訳ありませんでした」

櫓は一礼し、

その場を後にした。

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