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言霊怪奇譚  作者: Mr.M
二章 同じ穴の狢

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34/61

第34話 男

「浮橋一夫さん」

アパートの階段を降りたところで、

男は声を掛けられた。

振り向くと、

そこに立っていたのは若い男だった。


肩まで伸びた紫色の髪。

細く整えられた眉の下の

切れ長の鋭い目は、

冷ややかでありながら、

その奥にどこか柔らかな光を宿していた。

細く通った鼻筋に薄い唇。

ややこけた頬に尖った顎。

その顔立ちは穏やかで中性的だった。

年の頃は20代半ば。

身長は178cm。

細身の体に

皺1つないダークグレイのスーツが

ピタリと張りついていた。

その佇まいは落ち着いていて、

どこか普通の人間とは違う、

静かな異質さを秘めていた。


「誰だてめえ?」

浮橋は目を細めて

若い男を頭の上から下まで

嘗め回すように睨めつけた。

「これはこれは。

 申し訳ありません。

 私、こういう者です」

そう言って男はスーツの内ポケットから

名刺を取り出した。

「櫓源之介・・」

浮橋は名刺を手に取ると、

目の前の若い男とまじまじと見比べた。

「『Luna Plena』社長秘書・・。

 聞いたことのねえ会社だな」

「はい。

 小さな会社ですので」

「それで。

 その小さな会社の社長秘書さんが、

 俺に何の用だ?」

「先週亡くなられた

 横笛美佳さんについて、

 少しお話をお聞きしたくて」

櫓がそう言うと、

浮橋の目が鋭く光った。

浮橋は櫓をもう一度、

頭の天辺から足の爪先まで

値踏みするように見た。

蒸し暑い風が2人の間を

ぬるりと通り抜けた。


「横笛美佳さんと最後に会っていたのは、

 浮橋さん、貴方ですね」

「はっ!

 どこで何を聞いたか知らねえが。

 俺は無関係だぜ。

 そもそも。

 何で俺がジェラを

 殺さなくちゃならねえんだ?

 こっちはやっとのことで

 口説き落せたっていうのによ」

「ほう。

 口説き落とせた・・と」

「そうだよ。

 先月。

 ジェラの方から誘ってきたんだよ。

 こう見えてもなぁ。

 俺はモテるんだよ」

「ほう。

 それは羨ましいですね」

「へへへ。

 それから、

 ちょいちょい

 体を合わせるようになって・・。

 まだまだこれからって時によぉ」

そう言って浮橋は口を尖らせた。

「もしかして。

 横笛さん・・いやジェラさんから

 関係の終わりを告げられたとか?」

「バカヤロウ。

 んなわけねえだろ。

 ジェラは俺の体に満足してたんだよ。

 あの日だって俺の腕の中で、

 何度イッたかわかりゃしねえ。

 それに。

 あの日はホテルを出た後で、

 俺は1人で飲みに行ったんだよ。

 そのことは警察だって確認済みだ。

 ジェラは1人で家に帰って、

 おっ死んだんだよ」

浮橋が櫓をぎろりと睨み付けた。

「気分を害されたのだとしたら、

 申し訳ありません。

 私も貴方が彼女を殺したとは

 考えていません」

「へっ?」

浮橋が目を丸くした。

「遺体の状況はご存じですか?」

「あ、ああ。

 めった刺しにされて

 血まみれだったんだろ?

 ひでえことしやがる」

櫓が眉を寄せた。

「ニュースではめった刺しとは

 報道されていませんが?」

「あぁ?

 全身血まみれだったんだろ?

 それ以外に考えられねえじゃねえか」

「確かに。

 遺体は血まみれでした。

 しかし。

 遺体には外傷がなかったんですよ」

「あんっ?」

「それにもかかわらず。

 全身から血が噴き出して

 絶命していたんです」

「何・・だと・・?」

浮橋の顔に驚きの色が広がった。

「不思議ですよね」

「それは・・どういうことだよ?」

「さあ?

 それをお聞きしたくて、

 こうして訪ねてきたんですが。

 一応、

 私の見解を述べますと。

 呪い。

 ではないかと」

「はぁ?

 呪い・・だぁ?」

浮橋が目を瞬かせた。

「はい。

 そう考えれば。

 異様な死体についても説明がつきます」

「へ、へっへっへ。

 おいおい。

 本気でそんなことを言ってんのか?

 馬鹿馬鹿しい」

「あくまでも私見ですが」

「生憎だが。

 俺は何も知らねえ。

 こっちが知りてえくらいだ」

「そうですか。

 残念です。

 では。

 何か思い出したことや、

 気付いたことがあれば

 名刺の裏に書いてある番号に

 連絡してください。

 どのような些細なことでも構いません。

 目ぼしい情報については

 十分な謝礼をさせていただきます」

その言葉に

浮橋の目がキラリと光った。

「あ~っと。

 その謝礼とやらは、

 いつ貰えるんだ?」

「それはすぐにでも。

 そのために。

 ある程度の現金は

 持ち歩いていますので。

 もし。

 金額が不服であれば、

 後日に不足分をお届けしますが」

「そ、そういや。

 思い出したわ」

そう言うと浮橋はわざとらしく、

ゴホゴホッと咳をした。

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