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言霊怪奇譚  作者: Mr.M
二章 同じ穴の狢

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33/51

第33話 夏の日

領家町4丁目の外れ。

通りから1本奥に入った細い路地に、

築50年ほどの2階建て木造アパート、

『コーポ荘園』がある。

外壁の塗装は所々が剥がれ、

鉄製の階段には錆が浮き、

風が吹くたびに軋む音を立てていた。

202号室。

6畳1間のワンルームは、

天井が低く、

古い畳は陽に焼けて斑に色を失っていた。

流し台と部屋の境目には

黄ばんだビニールの床材が敷かれ、

湿ったような生活臭が籠っていた。

部屋の中央に敷かれた万年床の上で

男が仰向けに寝ていた。

薄汚れた白のタンクトップは

襟ぐりがだらしなく伸びきり、

あちこちに汗染みが浮いていた。

タンクトップの胸元が大きく上下し、

荒い寝息を立てていた。

腰にはゴムの緩んだトランクス。

男の足元には丸まった掛布団が

転がっていた。

窓際に置かれた液晶テレビの画面は

液漏れが目立ち、

昼のニュースが淡々と流れていた。

アナウンサーの抑揚のない声が、

薄暗い室内に乾いた響きを落としていた。

『・・一昨日。

 宿禰市本所町のマンションの一室で、

 全身から血を流して死亡している

 女性の遺体が発見された件について、

 新たな情報が入ってきました。

 亡くなっていたのは、

 この部屋に住む

 横笛美佳さん、21歳。

 であることがわかりました』


その時。

ふいに男が目を覚ました。

男は上半身を起こすと、

テレビの画面に目を向けた。

『・・無断欠勤が続いていた

 横笛さんを心配した同僚の女性が、

 部屋を訪れたところ、

 リビングで倒れている彼女を

 発見しました。

 発見当時、

 部屋に鍵はかかっておらず、

 室内には大量の血痕が

 残されていたということです。

 遺体は死後およそ1週間が

 経過しているとみられ、

 警察は、

 横笛さんが亡くなる直前に会っていた

 男性から事情を聴くなどして、

 事故と事件の両面から

 捜査を進めています』


「チッ」

男が大きく舌打ちをした。

手入れの行き届いていない

白髪交じりのボサボサの髪は、

脂で鈍くぎらついた光を放っていた。

短い眉の下の大きな一重の目は丸く、

尖った鼻と小さな唇が並ぶその顔立ちは、

どこか爬虫類を思わせた。

こけた頬に無精ひげが生えていて、

乾燥した肌は、

くすんだ色をしていた。


男は気怠そうに立ち上がると、

よろよろと台所へ行って蛇口を捻った。

コップに水を汲んで、

素早く歯磨きを済ませると、

そのままシンクに頭を突っ込んで、

顔と頭を濡らした。

それから手でさっと水を落として、

ふたたび万年床に戻った。

それからタンクトップを脱ぐと、

部屋の隅に脱ぎ捨てられている服の中から

灰色のTシャツと

茶色のジャージパンツを取って、

素早く着替えた。

男は一度大きく背伸びをしてから、

テレビを消した。

それから。

空の缶ビールが散らかったちゃぶ台の

上の財布を取ると、

パンツのポケットに

無造作に突っ込んで部屋を出た。

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