第3話 舌
土手の下の『弁天公園』では
ブランコがキイキイと音を立てていた。
「馬鹿は死ななきゃ治らない
っていうのはどうやら本当のようだ」
いつの間にか。
一文字の手には、
掌にすっぽり収まるほどの
石像が握られていた。
それは周囲の闇よりも黒かった。
にもかかわらず。
その形だけは妙にはっきりと見えた。
石像は人の顔をかたどっていたが、
その顔は男とも女とも
判別がつかなかった。
目は閉じられていて、
口が大きく開いていた。
その口から長い舌が伸びていた。
レインウェアの男の目がソレを捉えた。
「ま、まさか・・。
兄はん・・あんたぁぁあああががが」
続けて言葉を発したその瞬間、
男の口が大きく開いた。
「あ・・へ・・え」
喉の奥から漏れてくる声と共に、
ゆっくりと舌が伸びてきた。
男が慌てて口元に手を当てた。
「あ・・あんらぁ・・こえぇぇ・・」
そして激しく体を揺らした。
さながら滑稽な踊りを
踊っているかのようだった。
大きく開いた口からは唾液が溢れて、
伸びた舌は今や首にまで
かかろうとしていた。
メリメリメリという
何かが剥がれるような音がした。
「ひらが・・たすけれ・・ゴホッゴホッ」
男が何かを言葉にしようとして咳込んだ。
次の瞬間。
バチンッ!
という甲高い音と共に
その口が激しく閉じられた。
「んぐううううううううううっっっっっ」
くぐもった悲鳴が静かな土手に走った。
同時に。
足元に千切れた舌が転がり、
男は膝から崩れ落ちた。
両手を地面について
体を支えたのも束の間、
男はすぐにそのまま仰向けに倒れ込んだ。
赤く染まった口元を、
男は必死に手で弄った。
指の隙間から鮮血が流れた。
男の喉が波打つように
ごくりごくりと動いていた。
その喉の動きが止まると、
男の目と鼻から鮮血が滴り落ちた。
ふたたび喉が動いて、
ごくりごくりと波打った。
「口は災いの元。
勉強代にしては高くついたな」
一文字はそう言うと、
地面に落ちていた封筒を拾い上げた。
そしてジーンズの後ろポケットに
それを仕舞うと、
踵を返した。
一文字は公園に繋がる階段を下りずに、
そのまま土手を歩いていった。




